- 立夏に偲ぶ - (4)c
淡い光の残像が消えると、老婆と朽ちていた木も消えていた。
「さて、櫻妃」
彼は五歳ぐらいの(また成長している)少女に声をかけた。
少女は不安そうな表情を見せていたが、呼ばれるとしっかりと彼を見上げている。
「まずはおまえを固定させてしまおう。幸いまだ根は朽ちることなく残っている。これならばすぐに安定するだろう」
少女が差し出した枝を受け取り、朽ちていた木の根の裂け目に接ぎ木のようにさし込むと、手を当ててしばらくなにかをもごもごと呟いていた。
「櫻妃?」
「……認識されました」
虚空を見つめしばらくぼんやりしていた少女が、彼を見つめしっかりとうなずいた。
「よかった。ではここを維持することを最優先させよう。他のことはとりあえず僕がやっておこう」
「ですが、大丈夫ですか?」
「問題ない……とはいい難いな。とりあえず榎の翁に預かってもらっているから大丈夫だが、此岸の状況も気になるな。一度あちらに戻るか……。櫻妃、これを」
少女が両手を差し出すと、その上に蒼い玉かんざしを一本置いた。
少女は、じっとそれを見つめると花がほころぶように笑い、まだ髪が短かったため仕方なく帯に差し込んだ。
そしていつの間にか花は散って、葉になっている枝の脇にぺたんと腰を落とした。
啓介さんは、見上げてくる少女の髪やほっぺたを優しくなでると、やわらかく微笑みふっと消えた――と。
「ふん。生霊か。完全に切り離されていれば、彼岸に追い出せたのに。うっとうしいから疾くと還れ」
座っていた少女が、いきなり消えた啓介さんを捜すわたしをじろっと睨み、虫でも追い払うかのように、手を振った。
わたしは勢いよく山の中に弾き飛ばされ、どこかへ引っ張られていった。
飛ばされていく最中、さっきの老人と話していた啓介さんがわたしの方を見たような見てないような……。




