- 立夏に偲ぶ - (4)b
気がつくと、横たわっているわたしを必死に介抱している兄と写真屋さん、それに幼馴染みの新吾くんを見つめていた。(えっ、なにこれ死んだの、わたし!)
だが、兄たちの様子から(なにを話しているのか聞こえないし、彼らには立っているわたしの姿も見えないらしい)どうやら気絶しているだけだとわかり、ひとまずほっとする。
でも、どうやって元に戻れるのだろう? どうしよう……!
そうだ! どうせ誰にも見られないなら、啓介さんが何をするのか見に行こう!
歩く動作をしたら普通に歩けた(地面から浮いているがちょっと面白かった)ので門から出ると、外はひどい状態だった。
パニックを起こしかけたが、遠くの方に彼の姿を発見したので、さっそく追いかけることにする。
啓介さんは、あちこちで倒れている家屋や、閉じこめられて助けを求めている人、燃えあがっている火の手には、目もくれずひたすらどこかに向かって走り続けていた。
ようやく彼に追いついて(なぜか彼から三メートル後ぐらいまでしか近づけない)見つめていると、走りながらなにか(白い紙?)を時折あちこちに放り投げていた。
しばらく一緒に走っていると、前方から強い視線を感じた。
彼はこちらに気づいた様子もないし……なにあれ? 彼が大事に抱えている花の枝に重なるように赤ん坊が、彼にしがみつきながら、わたしを見て(ていうか睨まれている!)いたが、目が合うなり姿が見えなくなった。
小首を傾げながらなおも走っていると(不思議なことに啓介さんも息一つ乱していないのだ)、前方に山が見えてきた。
そのまま速度を緩めることなく山の中に入っていく。道なき道を迷うことなく分け入っていき、一本の古木の前でようやく足を止めた。
「すまん、翁。しばらく宿らせてもらう」
虚空に向かって言うやいなや、根元に座り込んだ。(えっ、声が聞こえる!?)
次の瞬間、なんと啓介さんが二人になっていて、彼の隣に老人が一人現れた。
「おそらく大丈夫だろうが、なにかあったら見捨ててくれて構わない。自分の身を第一にしてくれ」
「承知した。先程から【魂】が幾筋も入っていっておるようだ。おそらく【境界】は大丈夫のようだが……」
「ああ、あいつ自身なんだ。すまんが頼む」
老人と話し終えた彼は、座っている自分から枝を取りあげると(わたしはなにも掴めないが彼は違うらしい)、またもや走り出した。わたしも追いかけようとしたとき、老人の咎めるような視線を感じたが、無視することにした。
ほどなくして彼の姿が、ふいに見えなくなった。慌てて彼が消えたと思われるところまで行くと、いきなりあたりは真っ白になった。
「櫻妃!!」
啓介さんは朽ちかけている木に駆け寄って、側で倒れている女性(ボロボロの着物を着ているおばあさん?)を抱き起していた。
「すまない、遅れた」
「ふふ、大事ないよ。よかったのかえ、こちらへ来て……」
「つまらん用事に手間取った。もっと早く来ることができればよかったのだが……」
(なにそれ! 結納よりもこのおばあさんの方が大事なの?)
彼はわたしにはしてくれたことがないのに、老婆の髪をとても優しく丁寧な手つきですいていた。(さっきよりも近づけて、彼の顔が見えるようになっていた)
「なんぞ、嫌な感じがしてなあ……」
「僕もだ。だからお前から受け取ったとき、すぐに来たかったんだが……」
彼はわたしには見せたことのない表情で老婆(そばで見てみると意外に若い)と見つめ合っている。
ふと、彼女は視線をそらし、「吾子や……」と掠れた声で呼びかけた。
「あい、かあたま……」
わたしのこと? と思ったが、彼女の視線の先をたどると彼のそばに立っている(いつの間に?)桜色の浴衣(?)を着た三歳ぐらいの女の子がいた。
「すまぬな、後を頼む……」
「あい」
少女はかわいく返事をし、彼を見上げている。
啓介さんは一つ頷き、老婆の目を優しく手で覆い耳元に唇を寄せると、静かに囁いた。
「長い間お疲れさま。ゆるりとお休み」
あたり一面が光で覆われた。




