乙女 〜ライアンサイド〜
オースティンの父親はアレクという。
アレクとゲイル様の高祖母は一卵性の双子で、性格こそ違ったが、見た目はそっくりで、とても仲が良かった。
アレクの高祖母は学生の間に子爵家の子息と恋をし、反対を押し切って勘当に近い形で結婚をした。
子爵家ではあったが、生活は豊かとは言い難かった。それでも懸命に楽しく生きている彼女を陰ながら支えていたのが中の良かった双子の姉にあたるゲイル様の高祖母であった。
仲の良い2人の交流は続き、高祖母が亡くなって以降も高祖母の遺言に添ってひっそりと援助は続けられていた。
時が経っても続く交流の中、ある年、高祖母にそっくりな子が産まれた。ゲイル様とアレクだ。
2人は驚きと懐かしさを感じる祖母達によって、度々顔を合わせる事となっていた。
二人は顔が似ているだけでなく、かなり馬があっていた。まるで双子の様な二人だった。
お互いの祖母が亡くなっても二人の交流は続いていた。
しかし、隣国に留学していたアレクは成人した後、高祖母と同じ様に勘当に近い形で結婚した。
相手の令嬢は隣国の公爵家の庶子であった。2人は貴族の身分を捨て、庶民として生きる事を選択した。
侯爵家と関わりが深い庶民には良くも悪くも面倒が起きる可能性があり、ゲイル様とアレクの交流は密かなものへとなった。
子爵家への援助は続いていたが、アレクへの援助は当の本人から断られていた。
それでも、贈り物と称しては何かと援助をしたり、お茶会や食事会等、密かな繋がりは切れずに続いていた。
しかし、オースティン様が産まてからしばらくして、アレクが流行り病に倒れてしまった。
それまでの無理もたたっていたのだろう。
オースティン様とその母親は、2人、残されてしまった。
庶子とはいえ、侯爵家で育ったオースティン様の母親は一人で子供を育てながら、生きていくすべを知らなかった。
結局、商家の後妻として再婚する事を選んだ。
しかし、再婚1年後、彼女はアレクと同じ病で倒れ、儚くなってしまった。
彼女が亡くなってからの再婚した相手は最悪だった。
オースティンの母親が亡くなって以降、以前からあった義父と義姉達からのオースティンへの日常的な暴力と罵倒は悪化していった。
アレクが亡くなって、オースティンの母親に援助を断られ、他家に嫁ぐ為、交流も出来なくなっていたゲイル様は、オースティンの状況を知り、引き取るために手を回す為に動いたが、時間をかなり要してしまった。
オースティン様の母親が再婚し、亡くなってから更に半年と少し、2年弱年の間、やっとこちらに引き取る事ができた時には、オースティン様は覇気のない生きる事を諦めた目をしていた。
この話は護衛騎士兼従兄弟であるわたしとオースティン様の対応に動いた一部の人間しか知らされていない。
オースティン様の母親が、隣国の侯爵の娘である事、彼女の生家である公爵家の嫡子は彼女が公爵家を後にした後に亡くなっていた事、その為、公爵家が彼女を密かに探させていた事がオースティン様を引き取る際の障害となっていた。
公爵家での彼女の扱いはとても良いとはいえず、その彼女の子供であるオースティン様も大切にされるとは考えられなかった。
ゲイル様は、オースティン様を彼女の生家に気付かれる事なく、グレシャル家に引き取る事を決め、秘密裏に事を進められた。
対外的には、内々ではあるが、お嬢様とこの国の王子との婚約話があがっている事を理由に、遠縁からグレシャル侯爵家に継承者を連れてきたという名目で、密かに保護していたオースティンをグレシャル家に引き取ることができた。
「聞いてる!?ライアン!!」
アンナの声に、はっとして、入り混んでいた思考から浮上する。
「…聞いてるが…」
ただ、この事実はグレシャル家の方々は存じ上げていると聞いている。
アンナは知らないはずだが、当然、奥様は知っているはずで……
はずなんだがな……
奥様とアンナは、なぜ、頑なにオースティンの父親がゲイル様と思い込んでいるのか……
アンナにしても、幼い頃は5人でゲイル様と奥様とアンナとアレクと俺の5人でよく遊んでいたのだし、アレクの近況は途中までは知っている訳だから、オースティンの父親がアレクである可能性に気付いても良い様なものだが……
最年少の奥様と最年長の俺が4才差……まさか、忘れてるってことはない……はず……




