~ゲイルサイド~
ルリアがずっと体調を崩している。
急に意識を失って倒れた後、ベッドから出ずに何日も過ごし、身体が回復しても部屋に籠って過ごす日が何日も続いた。
部屋に行き、大丈夫かとたずねても、「大丈夫です。」と言うだけで、うつむいたまま、視線も合わない。
食事の量も減っている様で少し、痩せた様に思う。
体調が回復し、すこしづつ部屋から出てきてはいるようだが、私の執務室や部屋には全く来なくなっていた。
どうかしたのかと声をかけても「いいえ」と、やはりうつむいたままだ。
視線すら合わず、何か話しかけても、一言二言しか帰ってこない。
リリー達とは庭園で散歩やお茶をしているのを見かけるため、ずっと体調が悪いままという訳ではないと思う……が……
医師も体調に問題はないと言っていた。
だが、しかし、やはり、何かがおかしい。
倒れた日からまともに話しもしておらず、笑った顔も見ていない。
最近は会話どころか、姿すら見掛けない日すらある……。
どうしてこうなってしまっているのか、理由もわからず、どう対処したら良いのかもわからない。
気付くとため息ばかりが出てしまっている。
「ライアン……
ルリアの様子と体調と、何がどうなっているのか、知っている事を、全て、教えてくれ。
もちろん、アンナ経由の話も。」
ルリアの就寝後、夜間の護衛騎士と交代したライアンはゲイルの執務室に呼ばれていた。
見るからに不機嫌そうなゲイルにライアンは小さく眉を寄せた。
「奥様の体調については医師からの報告通りです。
それ以外については旦那様が奥様に直接お訊ねする方が良いと思われますが……」
業務時の口調で話すライアンに対し、ゲイルは苛立ちを顕にした。
「旦」
「ライアン」
旦那様と言いかけたライアンの言葉を遮る様にして、ゲイルがライアンを低く呼んだ。
切羽詰まったゲイルの声に、ライアンは小さくため息を吐いた。
姿勢を崩して腕を組み、仕事は終了とばかりに背中を壁に預けた。
「それは、友人としての頼みか?……ゲイル?」
ー小さい頃から変わらないー
久しぶりに見た切羽詰まったゲイルの顔に、ルリアとケンカをする度にどうしたら仲直りが出来るのかと訊ねてくる幼いゲイルを思いだす。
ライアンは、重い空気を払うために、あえて軽い口調でゲイルに訊ねた。
にもかかわらず、当のゲイルは執務室のソファーに疲れた様に腰を下ろして重いため息をついた。
ゲイルは緩慢な動作で卓上のショットグラス2つにウィスキーを注ぎ、反対のソファーの前に置いた。
ライアンは苦笑いを浮かべて壁から身体を浮かし、ゲイルと反対側のソファーに座ってショットグラスを手に取った。
二人は無言でグラスに口を付ける。
しばらく続いた沈黙はゲイルの再度のため息で切れた。
「ルリアとまともに話していない。
声をかけても、全身から拒絶を感じる……
気のせいではないと思うし、何があったのか確認したくても、取り付くしまもない……」
ゲイルは俯いたまま、眉間に拳をあて、唸るように低い声で話した。
「何か思い当たる事は?」
「……いや、あったら対処している。」
「本当に思い当たる事はないのか?
……例えば……浮気をしているのがばれたとか?」
「……浮気……???
何だ、それは。 ありえない。
……例え話としても気分が悪い。」
「……だよな……。
俺もそう思う。
ゲイルに限ってそれはないよな……
……一つ聞いても良いか?
オースティンは例の子で間違いないよな?あの、双子の高祖母の……」
「あぁ、そうだが。何だいきなり。
今はルリアの話しだ。
アンナから何か聞いたりはしていないか?
体調が悪いとか、いや、病気ではないのか……。
何か、今の状態になっている理由とか……。
先日は街に行くと報告があったが、私は誘われなかった。
今までは彼女だけで街に行くような事はなかった。
必ず私と日程を調整して行っていたはずだ……。
……私が知らない間に何があった?
それとも、私が何かしてしまっているのか?
今の状況の原因が全くが検討つかないのだが……。
……昔からルリアの行動は予測がつかない。
一般的な貴族令嬢とは少しずれていてるからな……」
普段寡黙な彼が饒舌になっていることから、かなり切羽詰まっていることを察したライアンは聞こえないように、小さくため息をついた。
優秀で器用な従兄弟は昔から何事もそつなくこなし、窮地に追い込まれる事がほとんどなかった。あるとすれば、幼い頃に一目惚れして以降愛してやまない彼女に関する事だけで、毎回二人の騒動に巻き込まれるのは従兄弟と、ルリアの遊び相手として幼い頃から一緒にいたアンナだった。
今回の話もうっすらと、いや、アンナからはっきりと聞いてはいる。
延々と続くゲイルの独り言とも悩み相談とも言い難い言葉に相づちを打ちながらも、頭の中にはアンナの言葉がよぎる。
「屋敷内でオースティン様が旦那様の隠し子だって噂があるのよね。
何故か奥様も信じてて。何回か否定はしたのだけど、頑なに信じてしまっていて聞いてもらえないのよ。何か確信があるみたいに。」
「この間、宝石商が持っていた帳簿にペアの宝飾品が注文されていたわ。かなりの量よ。
それを見た奥様がまた塞ぎ込んだわ。
旦那様が発注していたけど、奥様の手元にはない物ばかりだったわ。
本当は浮気してるの?ゲイルに限って?信じられないんだけど?
でも……私もあれを見てから、奥様に、旦那様は浮気なんかしませんよって言えなくなったわ。
あなたは何か知ってる?」
知っている、とは言えなかった。知ってはいるが、オースティンの出自は誰にでも話せる話ではないし、宝飾品については私が話してしまうとゲイルが落ち込みかねない。
本人達が話すしかないと思うんだが………
ライアンは小さくため息をついた。




