第一章9「奇跡の芸術家は、武器を奪った」
9話です。
今回は、あまり展開進みませんが、今後重要となる要素が出てきます。
よろしくお願いします。
◆◇◆◇
「何処……だ?」
見渡す。場所としてはオレが紅葉に膝枕をしてもらった所で間違いはない。ただあの夢のように色がついている。こうしてみればーーごく普通の世界。
だが何かが違う。オレはおそらく気絶している。気絶と睡眠は違うと聞いたことがあるーーだから夢ではないと、思う。
オレは答えを求めるように手を握ったり、ジャンプしてみたりした。そんな試行錯誤をしていると、後ろから紅葉とは違った系統の、お姉さんチックな声が飛んできた。
『ーー彩人くんの精神世界、とでも言っておこうか』
声がした方を向く。気配は微塵もなかった。其処に立ってたのはオレと同じくらいの背丈で、豊満な胸、三つ編みのツインテールの髪型をしためちゃくちゃ可愛いお姉さん。
そしてーー青色の髪。肌は日焼けがない白い肌色で、綺麗な白いワンピースを着ている、なんとも清楚な女性だ。
誰なんだ。コイツは一体誰なんだ。
『自己紹介がまだだったね。ボクの名前はいろは』
『ーー奇跡の芸術家なんて呼ばれちゃってた、お姉さんはねっ』
わざとらしくツインテールをいじりながら、コイツはそう名乗った。
「いろはーー芸術家らしい名前っちゃ名前だが…」
『まぁそんなことはどうだっていいんだ。彩人くんのために、このまま一気にまとめて、超ー!!簡単に説明してあげるさ』
オレはいろはと名乗るコイツに言葉を遮られた。内心かなりムカついているーーだが、確かにコイツの言う通り、素直に説明を聞いたほうが早いかもしれない。
『まず此処についてだね。さっきも言ったけど、此処は彩人くんの精神世界ーー要するに心の中みたいなもんだよ』
「オ、オレの心ん中はなんでーーー」
『あーもうわかってるから!彩人くんの気になること、わかってますから〜』
『それで、なんで夢で見た世界と同じような情景なのかっていうと………まぁ単純な話、彩人くんの夢と、海棠くんの話が完全にリンクしたからだ。あ、よくわからないって顔してるなぁ?』
『要するに!彩人くんの夢はまだはっきりしていなかったんだよ。実際あの夢を見ているあの時、500年前の世界だって気づけたかい?海棠くんの話を理解して初めて、彩人くんは〝あの夢が何だったのか〟わかってしまった』
『其れが、精神世界に投影されているに過ぎない』
一方的に語るコイツは、落ち着きがない上にマイペースだ。山頂の固定的な場所に留まることなく、海月のようにユラユラと歩き回りながら、語っている。
確かにコイツが語るに、オレは夢の状況と海棠の話を結びつけることができたーーいや、結びつけてしまった。途端、世界の真相に近づいてしまうような、とんでもない仮説が脳内を駆け巡った。
『ボクの説明、わかりやすかったかな〜?ま、質問くらいは受け付けてあげようじゃないか』
ピタリと止まり、オレの方を向いてまっすぐな眼差しを向けてくる。
「ーーアンタは何者なんだ」
『ボク?さっき自己紹介したじゃないかボクは』
「そういう意味じゃない。オレはアンタと会ったことも話したこともない。初対面だ。そんな奴がなんでオレの精神世界とやらに居座っているんだ」
此処が精神世界だと言うなら、オレのプライベート空間だ。なら何故赤の他人がいる?さも当たり前のように馴れ馴れしく察してくるし、悪い気はしなかったが、どちらかと言えば、不信感の方が強い。
『何故か。うーん』
説明ができない、というよりはどう言えば伝わるかを考えているように見える。その様子を見て、オレは質問を変えようと、口を開けようとするが、突然語り出したコイツに阻まれてしまった。
『じゃあー、はいっ!ちょっと手を出してみてよ』
「こ、こうか?」
こっちに向かって歩いてきて、迷いもなく手を差し伸べてきたコイツの手のひらに重ねるように手を置いたがーー信じられない現象が起きた。
「お、おぉ!?」
其処にあるもんだと思っていたが、なんとオレの手がすり抜けた。奇妙だ。其処にいるはずなのに、触れない。その途端、ホログラムと話しているような感じがした。偶然ーーとは思えない。其処でどうせ触れないのならと、オレはコイツの胸に手を伸ばした。
『いやん。わざとでしょ!』
胸を両手で隠し、後ろへと下がるいろは。触れられないと分かっていても、触ろうとされるのは嫌らしい。
「触れないからいいだろ」
『はぁーー全く気になってる子がいるのにそんなことしちゃうなんて、ボクおかしいと思うな』
「うっせーーって、なんでお前そのこと知ってんだ!?!?」
気になっている子ーー紅葉だ。なんでそのことをコイツが知っているのかーー考えなくても答えは出ている。コイツはオレの心の中にいるんだから当然オレの考えてることなんてお見通しなわけだ。
『気にしなーい気にしなーい!とまぁ、体験してもらった通り、彩人くんはボクに触れることができない。其れはボクが亡霊みたいなものだから、と言えばわかるかな?』
「ーーまぁ、理解せざるを得ないな。で、それが此処にいる理由となんの関係があるんだ」
オレは否定したかったが、目の前で証明されている以上、受け入れられなくとも、理解しなければならない。だが、其れがなんの関係があるのか。ますます、謎が増えるばかりだ。
『そりゃあ、彩人くんが芸術家だからだよ』
『ボクと彩人くんとは心が通じ合っている。いやぁ嬉しいね!実質ボクの後輩みたいなもんじゃんね!』
そう言い、山頂を駆け回るコイツのテンションにはついていけない。少し気を緩んだら話が脱線してしまいそうだ。オレは無理やり話を進める。このままじゃいつまで経っても話が進みやしない。
「ーー何故オレなんだ?芸術家だから?其れがなんの指標になるんだ。芸術家であることが此処にいる理由なら海棠の中にだっているのか?」
オレはコイツに向かって思うことを吐き出す。だが、それを聞いたコイツの顔に、影ができたのをオレは見逃さなかった。スラム街のような街に向かう前の、紅葉に通ずる何かがあった。そして、一拍置き、コイツは口を開いた。
『いたんだ』
「ーーい、いた?」
予想とは斜め上の返答にオレは呆気に取られた。否定でも、明確な肯定でもなくーー過去形。まぁこの場合は肯定なのか?
『アレから一度も会っていない。彼は芸術家を辞めたからね。いや、辞めざるを得なかった、といった方が正しいかな?』
これを聞けば、海棠の過去に土足で踏み入れる気がした。コイツから聞いていいのか、こういう話は本人に直接聞いたほうがいいんだと思うがーー教えてくれるとも限らない。ましては、語りたくない、と。
「ーーアレからってのは、その、五百年前か?」
海棠が語った通りなら、アイツは五百年前に芸術に見捨てられた。オレが見ているこの、色に塗れた世界は、五百年前の白黒世界で、オレが見たあの夢も五百年前だと、コイツは言っていた。だから海棠の話とオレの夢が一致した。
『ーー彩人くんは理解が早いね。未知を探求するのとか好きそうだ。』
いろはは、苦しそうに笑みを浮かべていた。作り笑いだろう。
『......嗚呼そうだ。五百年前ーーボクらは武器を奪われた』
『そしてその原因はーーボクにある。奇跡の芸術家?そんな二つ名はボクには相応しくないさ』
奇跡の芸術家ーー奇跡とまで言われるのだからその才能は天下一品なのだろう。オレも微かにそう感じていた。芸術家に限らず、その道を極めたものは何かしら吹っ飛んでいる。常人では測れない人種たちだ。そして大抵がわかりあえない。人付き合いも捨てて、がむしゃらにのめりこめるような奴らなのだからーーそりゃ何処か変わっている。
相応しくないと言っているが、本当は嬉しかったはずだ。だからこそーー自分が相応しくないと感じたその時から、自分で、二つ名を考え始める。
『ーーボクは簒奪の芸術家だ。ボクのせいでこの世界はーー』
空は青く澄み渡って、草木はまさに生い茂っているーーそんなオレらが愛する色に囲まれた世界で、ただ一人、顔に、心に黒い雲がかかって色が見えない奴がいる。オレならそんな愚かな芸術家になんて言葉をかけるか。
「いろはは奇跡の芸術家なんだろ。ならその二つ名こそ相応しくねぇよ。見てみろよ。空が青いだろ。草木が緑に生い茂って自然を、活力を感じるだろ。あ、あそこは火事が起きちまってんな!燃えてて一瞬でわかったぜ」
「周りをよく見てみろ。色があるだろ。お前が自分のせいでなくなったとほざいた色が、この世界にはあるだろ!暗い過去ばっか見てねぇでこの世界を見ろ!!」
コイツがやっていたように、オレも山頂を駆け回る。此処からの風景は絶景だ。自然も、人も、火事も、見える。
そして、奇跡と謳われる芸術家に対してオレは偉そうに説教をした。だが間違ってるとは思わない。駄作だった作品を反省するこたあっても、いつまでも縛られはしない。嫌いだなんて思わない。一度描いて完成させた作品なんだーーオレが描いた限り、オレは自分の作品を愛する。
『ーーははっ。生意気な後輩に怒られちったね』
『ああそうさ!此処は美しい!ボクが描いた大好きな世界!ボクの作品だ!そんなのはボクが一番わかっているさ!もちろん彩人くんの言ってることも理解しているさ!!だからこそーー』
両手を広げ、山びこを期待するかのような大きな声で高らかにいろはは語る。そんな中、
『ーーもっと描きたかった』
いろはは空を見上げ、涙を堪えるように、後悔をこぼした。オレは同情なんてできなかった。してはいけないと思った。その感情はコイツにしか感じられない何かだから
『っと、そろそろ時間かな?まだ全然話し足りないけどーー最後に一言だけ!』
「は?何勝手にお開きにしようとしてるんだよ!」
色が剥がれていく。空間が剥がれていく。いや、これはオレの視界がおかしくなっているのか!
『彩人くんはもうすぐ目覚めの頃なんだよ。だからもうおしまい』
その言葉を聞いて我にかえった。此処はオレの精神世界だ。そしてここに来ているのはオレが意識を失っていたからだ。自覚した途端、脳に甲高い女性の声が響いた。オレの名前をしきりに叫んでいるのが、直接脳に届いている。
「ああ、そうか、わ、わかったーーってアイツ声デカすぎだろ、!!」
「ははっ。幸せそうで何よりだよ」
視界がさらに歪む。声を出そうにも、言葉が出ない。オレは大の字に後ろに倒れる。痛みはない。ただ、青い空を黒が侵食しているのだけが見える。そこに、いろはが、外から入ってきてオレを見下ろしているのが見える。
『ーー五百年前の出来事、それは戦争だ。彩人くんが見たのは夢なんかじゃない』
声が遠のく。意識が途切れ途切れになっていく。
『あ.......れは.......史実』
『で.......そこ....で..ボクは.......』
『ーーーー戦死したんだ』
◆◇◆◇
少し瞼を開く。少しだけ。すぐに起きてしまえば、いろんな情報をまた享受し、理解していかないといけない。意識は戻っているが、少しの間はさっきの話を整理するために目を閉じ続けた。
(薄々わかってはいたがーー戦争か。オレが見たあの光景を海棠も、いろはも見ていたってわけか。なんともーー救えねぇ話だ)
整理を始めようと、ひとまず考え始めるがーー
『おーきーてー!おーきーて!!』
寝起きで絶対に聞きたくない声が聞こえてきた。彼にとってそれが嫌いなわけじゃない。ただーー耳が少々痛くなる。彼はダンマリを決めることにした。反応がなければ諦めるだろうと、踏んでのことだ。
『起きないならチューしちゃうゾぉ〜』
キスーー無論彼のファーストキスはまだ奪われていない。このまま寝ていれば、気になっている子からキスされるのか!ーーなんて淡い期待を抱いている。目的が変わっているが、彼にとって絶好のチャンスに違いはない。彼はーー再びその口を開かなかった。
『ーーしょうがないなぁ、、、』
息が顔にかかる。彼の心拍数は鰻登りのように爆増していっている。
刹那ーー彼の唇に何かが触れた。確定だ。キスされた。された途端、彼は跳ね起きた。
「ままままままじでぇぇーーーー!?!?!?!?」
『うわっびっくりした!!急に起きたら危ないでしょ!』
目を開き、思いっきり跳ね起きて初めに目に入ったのはーー彼の傍にいた紅葉と、何故か床に倒れている海棠ーーまさかと思い、彼は海棠の方を見た。
『ーーもらっちゃいましたぁ〜』
「お、お、おまーー」
彼の顔色が青ざめていく。海棠の言葉を脳が受け入れるのを拒絶しているーーだが、それが事実なのだ。
「な、何してくれてんだぁぁぁぁ!!!!」
ファーストキスがまさかの男に奪われた彼は、発狂し部屋を飛び出るのを、頬を赤らめた海棠と元気になったことが嬉しくてニコニコ笑顔の紅葉はただ眺めていた。
9話を読んでいただきありがとうございます。
五百年前の芸術家を名乗る新キャラ「いろは」が出てきましたね。人は彼女を奇跡と呼ぶ一方、彼女は自らを簒奪者と呼ぶ。その背景には何があるのか。
感想お待ちしております!
続く10話も、よろしくお願いします。




