第一章7「白黒を保つ者」
7話です。前回からかなり遅くなり申し訳ございません。
ぜひ読んでいってください
ちなみに新キャラ登場です。
『あのボワー!って出てた赤色のはなんなの??』
謎の刺客を退け、彼たちは一息ついた。純粋な身体能力の高さに彼は前の世界と異世界との温度差を感じていたが、その空気感を破壊したのは紅葉だった。
火炎自体、絶対に見たことあるだろうがーーそれはやはり白黒なのだろう。彼女にとって、炎がこれほどまでに熱く、情熱的な色をしていることは未知だった。
「紅葉も知ってるぜ。アレが炎だ!」
既に炎が消えるも、紅色に染まる刃を物珍しいといった様子で眺めている紅葉に対し、彼は炎であることを伝える。彼が元々いた世界では、火が赤いというのは、誰もに共通する常識に近い。
それを聞いた紅葉が、彼に自分が抱いた感想を伝えようと、刃に向けていた目を彼の顔に移す。
『なんだかーー赤ってすっごく熱い色な気がするわ!ボワー!って感じ!そう考えるとーー君のジャージもすごく温かい感じがする....』
彼女にとって、動く事象に着色された色は初体験だ。それ故に、初めての体験を通じて感じた印象が、その人の印象の全てを埋め尽くす。
赤ーー彼女にとっての赤とは、彼女が身に纏っているジャージと、彼の血、炎のたった三つなのだ。普通ならば信号の止まれや、サンタクロースーー赤に対し抱く印象にばらつきが生じるだろう。
だがーー紅葉は違う。炎しか知らない。熱い炎しかーー赤のイメージがないのだ。
「そのジャージ、別に防寒用じゃないけどなーーだとしても、思い込みがすごいな」
『思い込みでもなんでもないしー、本当に温かい感じがするのー』
「感じ、だろ?」
『そうだけど別にいいじゃん!!』
赤は熱い色ーー其れに対するイメージを思い込むことで、彼が持っている赤色のジャージに温もりを感じている。実際に紅葉の着るジャージが温かくなったわけじゃない。そんな感じがする、というだけだ。
それでもーー彼女にとっては〝温かい〟のだ。
彼にそれを否定する事はできない。だからこそ別にいいじゃん、と言う彼女に言い返すことができなかった。
「まぁ…そうなのかもな」
「そ、それはそうとーー話、変えてもいいか?」
『もーーかしこまってなに〜?気になることがあるから仕方がないなぁー話してみてよ!』
紅葉は彼の話したいことが、わかっているかのような顔をしながらも、あえてそれを口に出す事もなく、彼に言った。
此方の思考を見抜かれているかのような目線を前に、彼は今回の襲撃に関して口を開き、問う。
「なぁ……さっきの奴らが誰なのか知ってるのか?」
『……………』
沈黙。初めてではない。少し前にも感じたことのある沈黙だった。ただ引き下がるわけにも行かないために、彼は踏み込む。
「ーー君たちは!って知ってるかのように言ってたよね。別に疑ってるわけじゃない……むしろ狙われてるわけだから、、所謂敵なんだろう」
「何者なんだ?」
『ーーアレは狂信者の一派だと思う』
「………きょ、狂信者…だと?」
紅葉は重苦しい雰囲気を漂わせながら、その口を開き、真実を語らんと彼に鋭い眼光を突きつける。
彼は其れに狼狽えながらも話を聞く姿勢を、作り始めた。
『曰くーー世界には、決して逆らってはならない者たちがいる』
『曰くーー彼らは神でも悪魔でもない』
『曰くーーその名を白黒協会と云う』
『ーーって感じだよ。大昔から伝わる伝承に過ぎないけどね』
そう語る彼女は、襲われているにもかかわらず、何処か他人事のようだ。なぜ自分が狙われているのか、なぜこのタイミングなのかーー彼女はそういった節に疑問を抱いていない。
ただ、一つ違和感があったのだろう、それに伴う不安から、その違和感を吐露する。
『でも今回はいつも以上にしつこかったんだよね.....あたしが誰かといる時ーー君のような人といる時はそうなんだよね』
紅葉の言葉からわかるように、彼女は何度も襲撃を経験している。だが問題なのは今回の襲撃がいつも以上に苛烈であったということ。
何があっても命を奪うまでには発展しなかったが、ある特定の場合にのみ、奴らは本気で彼女をーー否、彼女たちを消しに来るとのこと。
それも、その襲撃以降、彼女の同行者が必ず失踪、または殺害されているとのこと。
「なるほどな.....ということは今回の襲撃の狙いはーー紅葉というより、オレらか??」
今回の襲撃が本当に紅葉を殺すことなら彼との交戦に付き合うことは意味がない。明確な力の差があることは分かりきっている以上、彼を無理やり振り払って紅葉に向かうことだってできる。
だがーー刺客は彼との交戦を選んだ。いや、彼を先に始末することを選択したかのようだった。
「まぁ今考えをまとめてる余裕はねえ。此処から移動しないと増援が来たらするかもしれなーーっ!?」
彼は現場から移動し、増援などを対策しようと来た道を戻ろうと踵を返した刹那ーー激しい眩暈にい襲われた。
激しい戦闘にて削られ続けた彼の体からその都度流れていた血潮ーーわずかな貧血による立ちくらみ、眩暈を起こしていた。
「くっ……そ」
『だ、大丈夫!?ちょ、此処で寝たら絶対風邪引くよ!?』
紅葉の必要ない心配をする声を聞きながらも、動かない身体をどうすることもできず、慌てふためく彼女を目の前に、彼の意識は深い闇に沈んでいった。
◆◇◆◇
いつも見るような夢とは違う夢を見ている気がする。知らない風景、知らない人たち、ーーそして、知らない世界と記憶。ただ、色がついている。
全てが未知に満たされた夢の空間で、オレらは貧相な服装のままを、名も知らな存在と戦っていた。それも親善試合とかではなく、多数対多数ーーまさしく戦争の如く。
『おらぁ!!精霊出しやがれぇぇ!!』
先程襲ってきた刺客と同じ服装をした人が、刃を振りかぶり、オレの前に立っている。避けなくては、逃げなくてはーー焦りとは裏腹に腰を抜かし、身体が硬直して動かない。
そんなオレと協会の奴との間に割って入ってきた1人の人影ーー
『アンタ、逃げなさいよ!!こんなんで命を無駄にしないで!』
これでもかと黄色に彩られた服装、装飾に身を包んだ女性が眼前で、協会の奴の袈裟斬りを食い止めていた。体格差から不利に思える構図であっても、ずっしりと大地に足をつき、全身で、魂で攻撃を受け止めている。
その中、オレに逃げるように促している後ろ姿と、切羽詰まった迫力のある怒号に押され、立ち上がって地を蹴り命の恩人に背を向け、逃げた。
「あ、ぁぁぁぁぁあ!!」
逃げるあてもなく、ただ無我夢中に走る。戦火と血と絶叫に彩られる戦場ーー助けを求める声と姿を目の当たりにしても無視して逃げ続ける。
逃げて、逃げて、逃げた果てに辿り着いたのは〝あの山〟ーー二つの街に挟まれる場所にある其処の山頂から見下ろした景色は、モノクロの世界よりも悲惨な紅に染まる世界。
「ーーあ、あ、」
「これほどまでに赤色は醜かったかーー??」
「オレの知ってる赤色はこんな絶望を生みだす色じゃねえ………」
膝を地につき、黒ずんだ雲と、無数の人の残骸に埋め尽くされた大地に絶望した。オレの知る色とは違った。あの世界で初めて染めた赤と今見ている赤はーー本当に同じ色なのか??
◆◇◆◇
「ーーんぁ……?」
『よかった…っ!目を覚ましたっっ!!!』
知らない天井、知らない場所ーーただ、色はなかった。そして白黒世界に来てから聞き馴染んだ高く、可愛い声ーー紅葉の声が、彼の耳に入る。
色のない風景と、その声から彼は夢から覚めた事を実感する。背中に伝わる柔らかい感触は、いつも自室で感じていたものと同じであることから、彼はベッドに寝ていたのだろうーーただ、少々一人用にしては大きいベッドではあるが。
「こ,此処は?」
『あたしの部屋だよ。キミ倒れてから丸一日は寝てたんだから死んじゃったかもって不安になったんだよ!?』
紅葉の部屋だという事実に彼は変な愉悦感を感じていた。知らない場所に対する不安よりも先に、初めて女子の部屋に入ったという満足感に浸っていた。
その様子を見ていた紅葉は、触れることなく彼から話しかけてもらうのを待っていた。
きっと、彼は冷静に状況を把握しているから、これ以上余計な情報を入れないであげよう、なんて紅葉は思っているのだろうが、彼はそんな完璧じゃない。
二分くらいだろうか、静寂が場を支配する。二分もすれば彼の愉悦は既に収まっていた。
気まずい空気感に耐えられなくなった彼が重かった口を開く。
「こ、此処に運んでくれたのは紅葉なのか?」
『んー、まぁ半分正解かな?』
彼女のいうことがいまいちわからなかった。半分?じゃあもう半分の要素はなんなんだと、混乱していると部屋の扉が不意に開く。
『ーー私だ』
ドア越しから入るぞなどの言葉もなく、無言で勝手に入ってきたかと思えば、低くダンディーな男前な声が部屋に響いた。
『紅葉が私に連絡してきてねーーまさか紅葉の方から連絡してくるとは思ってもいなかったがな』
二人の視線が声のする方に向かう。視線の先には見知らぬ男。高身長で、やけに大人びているーー男として欠けている要素を見つける方が難しいーー少なくとも、容姿においては限りなく誰もが憧れる理想の男性そのものだ。
それは彼にとっても同じだ。ただーー彼にしか見抜けない唯一の欠点を除いて
「ーーアンタもか」
完全無欠と称しても良いレベルのイケメンも、色がない。色がついていなければそれが秘めたる魅力を最大限引き出せない。そしてーーそれは眼前のイケメンも同じだった。
アンタもかという彼の言葉をあえて聞き流し、男は壁に寄りかかり口をひらく。
『ーー自己紹介がまだだったね。私の名は海棠だ。好きに呼んでもらって構わない』
『ちなみに紅葉の育ての兄だ』
『ちょ、にいに!?そ、それ言っちゃう!?!?』
海棠と名乗る男は、自己紹介からも分かる通り、この紅葉の育ての兄だという。何故わざわざ「育ての」と言ったのかはわからないがーー紅葉の様子を見る限り相当近しい身内であることは見当がつく。
新しい登場人物に、新しい場所、何から何まで情報が新しく脳に入ってくる。彼は冷静にそれらを処理するも、こんなイケメンの兄がいることに驚きが隠せない。
兄妹揃って美男美女とかありえたんだな、なんて小学生でも感じるような感想を思いながら海棠と紅葉のじゃれ合いを見ていると、紅葉を軽くあしらいながら、海棠が彼に話しかけてきた
『さぁ次は君の番だよーー芸術家くん』
耳を疑った。衝撃的な言葉がーーこの世界に存在していることに空いた口が塞がらなかった。
「ーーは?今なんて、」
白黒しか存在しないこの世界で、色を、色彩を駆使し作品を彩っていく「芸術家」という肩書きがどれだけ無意味なものなのか、そしてーー理解できない概念なのか。それを何故色を知らぬ世界の住民が口にしたのか。
一番馴染みのある言葉なのに、未知の言葉を聞かされたかのような感覚が、彼を襲った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は新キャラ登場に伴い、少し長めになりました。
8話はおそらく今週中には・・
楽しみにお待ちください。




