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第一章5「謎の刺客と芸術家」

5話目です。


忘れてると思いますが、これは異世界召喚作品です。


なのでーーようやく能力とか、出てくるかもしれません。


彩人はなんのために筆を持っているのか。


ぜひ,読んでいただけると嬉しいです。


 眼前に立ちはだかる謎の者ーー奴から発せられた声は男性とも取れるし、女性とも取れるようなーー否、両方の声が重なったような生気の感じない機械的な音。

 おそらく正体を隠すために奴らの親玉が統制し指示しているのだろう。そんな何処か背筋の凍るような声が、彼の耳に届いていた。


[紅葉様ーー我々と共に来て頂きます]


 脅威がすぐ其処まで迫ってきている。本能からだろうか、彼には分かる。目の前の人は必ず自分を殺しにくるということが。

 一触即発の緊迫した重圧がのしかかる中、紅葉をどう逃そうかと、必死に考える。


(くっそ…相手の身体能力がわからん限り下手に動けないなーーだけど相手の狙いは紅葉だ。オレが時間稼ぎをすれば逃げられるだけの猶予を作れるか…?てかアイツクソ速いから正直オレが一発ギャグやればその隙に逃げ切れるんじゃね?)


「紅hーーーー…??」


 ずいぶん長く考えていたようで、一瞬にも満たない時間ーー彼は誰にも理解できない作戦を脳内で立案し、其れを伝えるべく後ろを向いたがーー振り返ったその瞬間には、既に紅葉の姿は前方へと駆け出していた


『しつこいんだよ君たちはっ!』


 刹那ーー前方から紅葉のいつもの甲高さに、怒気が混ざったような声が轟く。彼が後ろを向かんと、身体を動かしたことにより一瞬生じた彼とドアの隙間を子供のようにぬるりと通り抜けた彼女は、風の如く謎の刺客との距離を潰していた。

 

[ーー!?]


 想定外だったのか、刺客は紅葉の爆発的な加速力を前に、簡単に懐を侵略されていた。


『ストーカーしないでね!!!』


 次の刹那ーー硬く握りしめた拳が刺客の胴を捉える。彼女の拳から繰り出される打突は刺客の鳩尾に深々と突き刺さる。だが相手もやり手だ。自ずから後ろに飛ぶも衝撃を抑え切れず、ズルズルを食した家屋の対向に位置するゴミ捨て場のような場所に突っ込んでいく。


(いや強!!!いやこういうのってオレが助ける展開じゃないの?!)


「やったか!?」


 〝召喚された主人公はチート能力を与えられ、女の子を守る〟といった異世界召喚にありがちなテンプレを、紅葉が破壊していくのを見て、己の不甲斐なさよりも驚きが勝ってしまい、つい下手なフラグを立ててしまった。


『ちょ、フラグ立てないでもらえる!?』


『まぁでも、やっ…ぱそんな甘くないか…。出来ればアレで気絶して欲しかったなぁ……っ」


 握りしめた拳を見つめながら、紅葉は家屋の入り口で何も仕事をしない彼に対して弱音に近い言葉を吐く。

 気になっている女の子の圧倒的な強さにギャップを感じて浮かれていた彼はその言葉を聞き、気を引き締め、ゴミ捨て場の方を注視する。


 本来ならば吐き気を催す見た目になるのだろう。然しモノクロが故に何も感じることはない。

 袋から散乱したゴミを蹴散らしながら、ゴミを頭から被っていた刺客は、何事もなかったかのように立ち上がり、一言。


[紅葉様ーー我々と共に来て頂きます]


 呼吸の乱れを感じさせない程、声のトーンに変化がなかった。呼吸をしているのかすら怪しい。とはいえど、初手の爆発的な威力を秘めているであろう打突を喰らってもなお、まさしく化け物だ。


 タッーーー!!


 紅葉のような猛獣の如き突進とは対照的に、刺客はヒラヒラと舞い落ちる枯葉の如く、静寂を保ちながら距離を潰してきた。その走りはまるで忍者の如く、音はない。

 そしてーー左手には短刀。武器と殺意を携帯し、紅葉との間合いが、一瞬にしてなくなった。


『流石にコレはまずいよっ……!!』


 空気を切り裂きながら、紅葉を袈裟に捉えんと、刺客が刃を振り下ろす。彼が元いた世界で見る機会など絶対にないであろう肌の斬撃の嵐。彼が知る中で一番近しいのはおそらくボクシングの絶え間なく続く連打程度しかないだろう。

 拳ならまだ骨が折れる程度で済むかもしれない。然し相手は刃物を持っている。


 本気の命の取り合いをこの目で見届けなければならないーーそんな窮地に立たされるなんて,思ってもいなかった。


「く、紅葉…!!」


(オレに何かできることはないか……考えろ…オレには何ができる?あそこに無策で飛び込んでもみじん切りになるのは目に見える、かといってあのまま放置しても紅葉が持たない…)


 この死闘に今の彼はあまりにもお荷物である。今は

多少なりとも動ける紅葉が時間を稼いでいるだけであり、いずれ体力に限界が来る。


『うぐ…っ流石に素手はキツいっ…』


 紅葉は可憐な身のこなしで斬撃の嵐の縫い目を縫うように避け続ける。だがそれもかろうじて深傷になりうる代物を重点的な避けているにすぎず、彼女の肌は次第に切創が目立ってきていた。

 彼女の傷口から紅き血潮が飛び散ることはなく、代わりに溢れ出すのはドス黒い血。


 惨状を目の当たりにしながら彼は筆を指先で弄りながら高速で思考を巡らせる。


(ーーオレには何ができるのか。いや何もできない。。オレはただの引きこもりだ。芸術家気取りのただの引きこもりにすぎない。人よりもちょっと絵が上手いだけのーーー)


「いや待て…オレは芸術家だ」


「芸術家の最大の武器はなんだ…?」


「この筆だろ?ーーある。あるぞ。オレにもあるかもしれねぇ!アーティストの直感がそう言ってる!」


 自称芸術家ーー彩人。


 生まれたその時から彼に与えられたのは描きたい構図を実現する画力と、あまりにも器用すぎる手先だ。 その才能に気付いた時からーー彼は芸術家だった。常に描きたいと思ったものを、自由自在に描き、つけたいと思った色を着彩してきた。その色合いが、汚いだのおかしいだの、誰に言われても止めることは決してなかった唯一の持ち武器。


 

 芸術家としての魂に、激情の火が灯る。



「はぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」


 筆をしっかりと持ち、空中に高速で筆を走らせる。画材なんてなくていい。この白黒の世界に直接書き込んでやればいい。己の芸術をーー白黒世界(キャンパス)に好きなように描き、好きなように表現する。

 突拍子もないこの行為に意味があるのかと問われれば返す言葉はない。ただ芸術家の魂が、描けと、叫んでいるだけだ。本能が腕を動かし、あっという間にその作品を完成に導く。


「武器といえばーー誰もが憧れる勇者の剣だろ!」


 決め台詞と共に、宙に描かれし線と線を繋ぎ、作品を完成させた刹那ーー白い光が発せられ、描いた剣が具現化し、モノクロの剣が形成される。

 彼にーーというよりは彼が持つ筆に能力が与えられていた。それにより彼の芸術作品を具現化させたのだ。



『はっ…はぁっ……あやばっーー!?』


 彼が絵を描いている間も紅葉は刺客の相手を続けていたが、俊敏な彼女の回避に綻びが生じてしまい、足を捻り、痛みが彼女の動きを鈍らせる。そして、一瞬に隙を逃すほど、刺客も柔ではない。


 苦悶の表情を浮かべながらしゃがみ込む紅葉に対し、袈裟に振り落とさんとする一撃が、大振りの軌道を描きながら振り翳される刹那ーー甲高い金属の衝突音を紅葉の耳は捉えた。


「すまねえ紅葉ーー此処からはオレに任せろ」

 

 モノクロの勇者の剣を両手にしっかり握り、刺客の凶刃を食い止めたのは先程まで何もしていなかった彼だった。

 まるで異世界転生作品もののかっこいい主人公が言うような啖呵を吐いたはいいものの、当然引きこもっていた彼に剣術といったスキルがあるわけでもなく、ぶっちゃけこの袈裟を止めたのも火事場の馬鹿力というものだろう。


 それでも一度描き始めた作品を、投げ出すのは芸術家としてのプライドが許さない。拮抗する力の押し付け合いに刺客は距離を取り、再び構えを取る。


[紅葉様ーー我々と共に来て頂きます]


 刺客は三度目の誘拐宣言と共に地を蹴り、距離を侵略する。

 それを迎え撃つのは、ただ1人の芸術家。



「来いよーーオレの作品はセンスの塊だぜ」



 不慣れな構えを紅葉の前で見せる彼の、逆転劇が此処から始まる。



 

読んでいただきありがとうございます。


紅葉の身体能力の高さは1話の時からちょくちょく見えてましたね。


そして、芸術家としての本領発揮を迎えます。


続く6話目をお待ちください。

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― 新着の感想 ―
「すまねえ紅葉ーー此処からはオレに任せろ」 がとても頼もしいのでいいと思う。
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