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第一章4「普通とは違う色」

4話です。


やっぱり最後の言葉が引っかかる彩人が、紅葉にどんな言葉をかけるのか。


その言葉に,紅葉はどう返すのか、


1〜3話に比べ、少々長くなりましたが、ぜひ読んでいただけると幸いです!


 どれほど歩いただろうか。おそらく1時間程度しか経っていないだろう。其れでも、絵を描いてる時の1時間に比べれば途方もなく長く感じる。


『今から行く街は確かに汚いかもしれないよ!?でも住んでる人たちは優しいんだよねーだから居心地がいいっていうかなんというかーーあたしは好きだよ』


『あ、あとね!?』


 絶え間なく話し続ける紅葉に対し、テンプレのような返答を返しつつ、彼は枷をつけられたかのような足を一歩、また一歩と踏み出す。

 枷になっていたのは紛れもなく出発直前の彼女の言葉だ。あそこまで元気だった少女が見せた一瞬のネガティブーー気にならない方がおかしいだろう。


「なぁ」


 球技の壁当てのような一方向への言葉の投球に、彼はまともに返球した。歩き始めて暫く紅葉が話しかけていたのもあるのだろうーー彼女は、ひゃっと弱々しい声と共に彼の顔を見た。


「いくら紅葉の行きつけといえど、汚いと評価されている街に行くのに乗り気にはなれねぇ」


「まぁ回りくどいのは好きじゃないから率直に聞かせてもらうがーー」


「あの街には何があるんだ?」


 話を掘り返されることは覚悟していたのだろうか、それでも紅葉に明確に動揺が見えた。天真爛漫な少女でしかなかった彼女が、俯きながら、しどろもどろに答える。


『……あ、あそこはね。君みたいな始めて来る人には、なんというか…大変なところなの』


 求めていた回答とは異なった筋の返答に彼は答えを絞らんと、更なる追い討ちをかける。


「ーーオレが聞きたいのは、あの街と紅葉の関係だ」


「聞き方を変えるかーーあの街でお前は何があった?」


 沈黙。


「なあ」



 沈黙。



「どうなんだyーーー

『君には関係ないでしょ!!』


 彼の言葉を遮りながら、彼女が今までにない迫力を帯びた怒鳴り声をあげる。芸術家特有の空気の読めなさが、招いた憤怒ーーまさか地雷を踏むとは思わず、かえって冷静になった彼は、深追いをするのをやめた。


「ーーそうか」


「悪かったよ。嫌なこと聞いたな」


 あの一瞬、紅葉を纏う彼のアカ色のジャージが色濃く激情を表現しているように見えた。彼女の怒りを視覚的に主張していた。燃えるようなアカ色の主張に、彼は素直に謝罪を口にする。


『きゅ、急に怒鳴ってごめん。も、もうすぐ街に着くと思う!あたしのお墨付き、期待しといて!』


「ーーやっとかぁ。どんな料理なのか楽しみだな!」


 紅葉からも謝罪が交わされる。すぐさま気まずい空気を壊そうと、彼女は話を変え、無理矢理場を和ませようとするのを、彼は受け入れざるおえなかった。



 ◆◇◆◇



 小さな衝突を経てから数分。紅葉が言った通り、本当に目的地が見えてきた。上を見る。先ほどと変わらず、つまらないモノクロの、アオ空なのかもわからない単色の空が広がっている。

 おそらく出発してから1時間程度しか経っていないだろう。多分昼だ。その推測を裏付けるかのように、紅葉が嬉々として話しかけてきた。


『今は大体昼の2時頃かな?思ったより早く着いた感じだ!本当はこの街の魅力をたっくさん教えたいんだけどーー先にさっさとご飯食べちゃいましょ!』


 此処が目的地であることは確実であることが、現地人の口から証明された。急斜面の山を越え、空腹の長い道のりを経て、人が住む場所に辿り着けたのは彼を安堵させるのに十分だった。


「嗚呼そうだな、って……なぁ紅葉。なんかこの街の人たち少し距離を感じないか?」


『ふぇ?』


 其れを聞いた紅葉は素っ頓狂な声をあげ、周囲を見渡す。そこで漸く状況を理解したのだろう。彼女は彼に珍しくかなり筋の通った推論を伝えようと、耳打ちをしにくる。


『多分ね…君がちょっと変だからじゃないかな?だってほら…あんまり上手く言葉に出来ないけど、、君色ついてるじゃん?ーーって其れはあたしもか』


 言われて、腑に落ちるのを感じた。アカ色のジャージを着ている紅葉も同じく、彼らには色がついている。さも当たり前かのように振る舞っていたが、白黒のこの世界ではあまりにも異質な存在なのだ。


 唯、彼らが街の人やモノに何も危害を加えようとしないが故に嫌厭されるように放置されているにすぎないのだ。

 紅葉は兎も角、彼にははっきりと色がついている。この世界で、彼しか見た事がないような多彩な色が、彼の身体の隅々に存在している。

 特筆すべき点はやはり〝白い肌〟色だーー数ヶ月まともに外で活動をしなかった影響か、男性にしては非常に白く、日焼けとは無縁の肌色をしている。


 ただ、今まで見てきたこの世界の住民は皆、絵に描いたような白黒イラストの肌をしている。たしかに彼と同じように白い肌だがーー其処には生物としての生気を感じない。


「たしかにオレら明らかにおかしいもんな、、でもなんかこの街の人たち全員黒くねえか?オレとしては白黒でもちょっと違和感感じんなぁ」


 紅葉と同様に、彼も周囲を見渡しながらパッと見た住民たちに対する感想を述べる。

 彼の感想通り、この街の住民は、明確に肌が初めにいた街の人の肌や、紅葉と比べて黒い。其れも、白黒で褐色肌を描くかのような、はたまた黒人を描くかのような、全体的に影がかかったような黒色に身を包んでいた。


[紅葉ちゃん…久々に見かけたと思えば……その服、どうしたんだい?ワシらにはちと怖くて理解が追いつかないよ]


 その中、彼らの背後から1人の老婆が話しかけてきた。紅葉の名を知っている上、久々に見かけたと言っているところから、紅葉はきっとこの街に度々出入りしていたのだろう。

 そしてこうしておかしな旅人を連れてきていても、話しかけてきてくれるあたり、彼女はこの街では煙たがられていないように感じる。

 

 老婆の純粋な疑問に紅葉は戸惑っていた。彼女自身も説明が異常に難しいことを察したのだろう。どう言えば良いか、わからずにいた。


「おばちゃん。コレはな、アカ色っていうんだよ」


 此処はオレに任せておけと、言わんばかりに彼が老婆に対し話しかけた。だが、彼に返された言葉は何処かで聞いたことがあるような言葉だった。


[イ…イロ…??そりゃ、紅葉ちゃんが前からずーっと言ってたあの〝イロ〟かい?なんとまぁ…変なものだねぇ…]


[ちと、目に刺激が強すぎるわい]


 この世界で初めて話しかけてきた大柄の男も、この老婆と同様に〝色〟を知らなかった。正確には〝色〟の概念を理解していないようにも見て取れる。

 其れよりも、色の概念自体を知っている紅葉が、こうした老人含め、街の住民に言い回っていた事が驚きだ。

 

 ふと、紅葉の方を見てみると、気まずそうに、音も出ていないのに口笛を吹いていた。


「紅葉が言ってた……?それってーー」


『おばちゃんまた今度詳しく話すからまたねーーーご飯たべてくるゥー!!!!』

 

 紅葉の様子を見て、老婆に対し少々深掘りするように質問を切り込もうとした刹那ーー紅葉がまたしても話を遮り、彼の手を引いて走り出した。全くもって意味がわからない突発的な行動だが、彼なりに落ち着いたら最後にまとめて聞けばいいか、と割り切って彼女の手に引っ張られてながら足並みを揃え、走る。



 ◆◇◆◇


 

 数百m走った程で紅葉はようやくその足並みを止めた。男子高校生の全力疾走を遥かに超えるであろう彼女の走力に数百mも付き合わされたのだ。先ほどまで引きこもりだった彼にはかなりキツすぎる運動だった。


「はぁ…はぁ…マジでお前、、どんだけ体力あんだよ…って、此処がオレらのお昼ご飯の店か?」


 止まった其処は、古びたおそらく木の家屋の前だった。古びたといえど、家屋を構成している木材が、どれほど年代物なのか、外観では全くわからない。ただし、少し黒ずんでいるのだけは、モノクロの中で主張されていた。


『そうだよ!此処のズルズルが凄く美味しいんだよね〜〜』


 ズルズルーー馬鹿がつけたようなセンスのない名前に彼は少し不安を募らせるも、此処まで来て引き下がることも出来ない。

 紅葉が我先にと、扉を横にスライドし、ガラガラと軋む音が、店内に響く。戸を開いた途端、彼の鼻がとらえたのは紛れもなく毎日自分の部屋で食べていた「あの料理」の匂い。


「ら、ら、ラーーメン!?!?!?」


『ラーメン…?君のいた国ではそう呼ぶんだね!でもこの国ではコレをズルズルって言うんだよ』


 驚いたのも束の間、紅葉が現実を告げてきた。どうやらラーメンで間違いない麺類の其れはこの世界ではズルズルと呼ばれる料理として存在しているようだ。


『へーいおじちゃん!ズルズル二つ〜!』


 注文の仕方も、もはや仕事帰りのテンションが狂ったサラリーマンのようなものだった。



 ◆◇◆◇



 程なくしてズルズルが机に置かれ、フーフーと冷ましながら食べ進め、彼らはスープまで飲み切った。あまりにも日本のラーメンに酷似した其れは味までも酷似していた。

 きっと過去にも彼のような召喚者がいて、ラーメンという文化を広めたのだろう。名も知らぬ、いだかもわからぬ先人に感謝しながら、彼らは店を後にする。


「いやぁ…美味かった……な?」


 入ってきた時とは異なり、今度は彼が扉を開き、外に出るがーー外を見るや否や彼は言葉を失った。


『いやほんとね〜久々に来た甲斐が…って、何してんのよ。早く出てよー!……って君たちは!!』


 後ろから急かすように紅葉が背中を押すが、外にいる人物にどうやら思い当たる節があるらしく、彼女は高らかに声を上げる。



[紅葉様ーー貴方が、協会(われわれ)には必要なのです]


 修道服のような服装をした、明らかに怪しいソイツは紅葉の名前を知る上で尚且つ、とんでもない敬意を払い、接してきているーー彼女と謎の人物の間に、彼がいるにも関わらず、見えていないかのように。


「お前ーー何者だ?」


 命の次に大事な小さな筆を懐から出し、其れを刃物のように見立てて、相手に向けながら問いを投げかけた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


まさか異世界にラーメンがあるのを誰が予想できたでしょうか!笑


昼飯を食べ、幸せに浸っていた束の間、

最後に現れた謎の人物


奴は何者なのか。


そして紅葉との関係とは――。


続く5話をお待ちください!


感想や批評、お待ちしております。

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