第一章2「オレの好みじゃねえのに」
2話です!
続きを出すのが遅れてすみません。
ぜひ読んでください!
イマイチ天気が良いのか、悪いのか分からない。ただ一つ分かることは、彼の頭が、柔らかい感触の何かの上に乗っているということだ。
「ーー知らない感触…いったいオレはなんの上にーー」
『そりゃあ、あたしの太ももよ!』
起きた直後の乾いた喉で、掠れた声を発するも其れは少女の声に掻き消されてしまった。然し彼にとって、寝起きの第一声が遮られたなんてこの際どうでも良い。
(今アイツはなんて言った?太もも?オレが女子に膝枕されている?なんかのご褒美か?いやそんな筈はないーーそうか、そうなんだな?オレは今夢を見ているのか。そうに違いない。ならーー)
叩き起こされてしまった脳を無理矢理寝かしつけようと、彼は静かに瞼を閉じる。夢で寝れば現実に戻れるかもしれない、なんて根拠のない仮説を実行に移そうとするが、そうは問屋が卸さない。
『アレ?絶対今起きたよね?ねえ!』
彼自身寝付きは其れなりに良い方である。彼の二度目に対し膝枕をしてくれている少女は困惑したように再度声をかけてくる。寝ると決したからには絶対に寝てやると彼は黙り、無視し続ける。
映らない現実で、少女が何をしているかはっきりは分からない。身体の何処かを指で突かれたり、髪を撫でられたりーーおおかたたわいの無いことをされているのだろうと、皮膚が感知している。
何をされてようが、この悪夢から覚めてやるーーそんな彼の決意を容易に打ち砕いたのは、少女からのボディタッチでも叫び声でもなく、何気なく発せられたであろう一言だった。
『ーーその服、何色か知りたいのに』
熱湯に触れた際に、無意識に手を引いてしまうように、彼は反射的に起き上がる。何もかも白黒なこの世界で、きっと一生聴くことはないだろうと思っていた言葉をーー少女は発した。
本能的に動いた身体に、ようやく思考が追いつき、彼は突然跳ね起きたことに驚いた少女の顔を見て、期待に応えるように言う。
「ーー〝アカ〟だよ」
『ーー!?
…す、すごく、変なのッ!』
幾度となく期待を裏切られてきたのだろう。まさか答えを得ることができるとは思ってもいなかったと、少女の顔に描いてあるのを、彼は読み取った。
ある程度の会話を重ねても、少女はやはり〝アカ〟の話題に戻してきた。よほど気になるらしい
『にしても、アカ…アカ…アカ…やっぱりすっごく変な響きだわ〜!』
意気揚々と、元気そうにそう語る少女は何処か楽しそうに見えた。いや、普通はそれが当たり前なんだろうが、イマイチこの世界で彼女のような人と出会わなかったからだろうか。
少女との対話を重ねて、今自分が在る状況やら世界がどんな感じなのかはおおまかに知ることができた。 そうして知った情報を処理するのに手間と意識を持っていかれ、あることを忘れていたが、落ち着きがなくちょくちょく動きながら話している少女の顔を見て思い出した。
「てか、一番聞きたかったことを聞いてないやんけ。ーー君は誰なの?」
此処は率直にストレートに聞いてみることにした。話してみてわかったが、多分彼女は回りくどい話をしたらそのまま話が脱線していくタイプだろう。
『ふふんっ!よくぞ聞いてくれた!!』
待ってました、と言わんばかりに彩人の質問を聞いた少女は目をキラキラさせながら彩人との距離を潰し、顔を近づけてくる。その一つ一つの動きが大きく、良く言えば元気ーー悪く言えば喧しい。
『あたしは紅葉!ちょーー元気な精霊人だっ!』
少女は紅葉と名乗った。
だが、モノクロの満面の笑みを浮かべながら名乗った彼女に、彼は言葉にできない引っ掛かりを覚えていた。違和感というよりはーー
「………よくわかんねぇ~…」
自分が抱える言葉にできぬ違和感ーーおそらく感じたことのない感情に対し出た言葉か、精霊人というよくわからない種族をさも当たり前かのように語られたことに対し出た言葉か。照れくさそうに視線を逸らしながら言葉を交わす。
〝精霊人〟ーー名前からして人と精霊のハーフなのだろうかと、パッと思ってしまうかもしれないが、どうやら人と精霊の特性を併せ持つ人型生物のことを総称して精霊人と、呼ぶらしい
『ちょちょちょー!!あたしの名前も種族も教えたのに「よくわかんなーい」ってひどくない!?!?もう少し感想ないわけ!?』
いちいち彼のいうことに大袈裟な反応をする彼女を見つめるが、何処か嫌な気はしなかった。寧ろ其処にあったのは好意だ。
彩人という芸術家は、曖昧な感情を抱くことが少ない人間だ。特に人間関係に至っては、「嫌いか好きか」の二極端で判断する傾向があった。其れをよりわける要因の一つに「色」という要素を使っていた。
「色」に敏感な彼は接する人に常に「色」を見出そうとする。仕草、声のトーン、テンション、視線などを観察し、漠然とこの人はこんな色だ、と決めている。
然し、今の彼は目の前の紅葉に、どちらかといえば好意を寄せているのが目に見えてわかる。高校の時からそうだったが女性とほぼ話したことがなかった彼にとって「気になる」といった感情を隠し通す術はもっていない。
好きじゃない白と黒で彩られている、その上この世界において其れは何の特別要素でもない。惹かれる要素は何処にもない。寧ろ始めから面白みのない、汚いモノクロであるが故に、嫌いだと判断してもおかしくない。
その筈なのに、芸術家として好ましくないと思っているのに彼は、少女に好意ーー気になっているのだ。
さらなる感想を求められ、彼が言えるのは自分の理解できぬ感情を出来るだけねじ曲げたモノクロの虚心だ。
「ーーオレの好みじゃない」
「なのに……その、綺麗だな」
芸術家としての体裁を保たんと、一丁前に批評するかのように述べる。
恋愛など自分には無縁だと思っていた彼のモノクロだった恋心に一つの色がついた。淡い桃色のような、好意を象徴するかのような色が、ほんのり描かれている。
『でしょ??あたし、自分の名前がすっごく好きなの。きっと君の着ている〝アカ〟が似合う名前だと思うの!』
そうだ。紅葉といえばニホンの秋を彩るアカ色だ。それ故に目の前の、惚れかけている少女がモノクロなのも、理由もわからず心に桃色を描かれたのも非常に不愉快だ。
色を知りたいーー白黒の、何も描かれていない彼女の本当の色を知りたい。あわよくばこの世界を、彩りたい。
そう思うと、芸術家としてもーー彩人としてもーー彼は「色をつけたい」という衝動に駆られてしまった。原因がわからないのならば、解明すれば良い。
きっと彼女に好意を寄せるのは、モノクロを貫通して見える〝美しい色〟に惹かれているだけに過ぎないだけなんだと、彼は根拠のない仮説を立て己を落ち着かせる。
「嗚呼…そうかもな」
彼は自分が着ていたアカ色のジャージを脱ぎ、紅葉の肩に掛けながら彼女の言った言葉に同意する。
何色が似合うのか、芸術家として確固たる意見を持つべきなのだろう。ーーだが、満面の笑みを浮かべ、己の姿を想像する彼女を見れば、跳ね返すことなんて到底できなかった。
予想外だったのだろう。彼女は自分の身がアカ色に包まれるとは思っていなかったと言わんばかりに目を見開いて彩人を見つめていた。
彼の予想外の行動を、自分が言った言葉からしてくれた行為なのだと、彼の表情を見て気づくと、フフっ、と微笑し、おそらく会話のボールを投げ返す。
『ありがとっ!今度は君の番だよ??』
『君の名前を、教えてくれないかな?』
モノクロだった少女は、ダサいアカ色のジャージに身を包んでいたが、明らかに目立っていたのはアカのジャージだ。それでも何より輝いて、明るかった色は紅葉のニコニコとした顔色だ。
「ーー芸術家の彩人だ」
この世界にはおそらく存在しない職業の名を肩書きに彼は己の名を告げる。何故其処まで嬉しそうな顔をするのかわからない。それでも最高な色を見れて、彼は愉快だった。
『……!すっごく綺麗ね!!』
彼女が何を思ってそう言ったのか彼にはわからなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
謎の少女の正体が、早くもわかりましたね。
しかし、何故「色」を知っているのでしょうか?
続く3話をお待ちください!
感想や批評、お待ちしております。




