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第一章1「この世界には色がない」

初めまして。


初投稿作品となります。


感想や誤字報告などいただけると励みになります。


よろしくお願いします。

 

 かつて昔は、世界に色はなかった――


 2100年の発展に発展を重ねた日本で、そのような説が有名になっていることくらい、社会不適合者の彩人でも知っていた。というのも、白黒カメラ・テレビが映していた世界の通り、白黒の世界が広がっていたという陰謀論にも近いというらしい。これを信じろと言われても信じる人は少ないだろう。なにせ今彼らが見ている世界には色がついている。


 母なる海は青く、燦々と輝く太陽は赤い。


 紛れもなく世界の誰もが見ても「海は青い」というだろうが、この説の面白い点は否定も出来ないというところにある。証明することができないからだ。刑事裁判で物的証拠として現場の写真を高らかに掲げて証拠だと主張するが、その証拠となる写真・ビデオが「白黒」を映し出すのだ。


 昔を生きた証人は2100年の今にはもう誰一人としていないだろうし、難解な未解決事案が次々と解明されていく中、「世界白黒説」だけは1世紀半の常識を覆すかのように、手も足も出なかった。


「――ったく。なんでオレが追い出されなきゃならんのや」


 早朝から家に騒がしい声が響き渡る。高校を中退してからというもの、芸術活動と言い張り日の当たらない自分の部屋に引きこもる生活にとうとう終止符を打たれてしまうのだ。なにも考えずに生きる楽な生活を突如として奪われるのだから彼からすればたまったものではないだろう。

 彼の家庭では大黒柱が早々に折れてしまい、母一人で彼を育ててきた。しかし、母は決して聖女ではない。堕落していく息子にキツい鞭を打ちつけ、どうにか前を向いて欲しいという願いが、母を強く突き動かした。ある意味息子を一番に想う聖女なのかもしれない


 だが、当の本人は微塵も感じちゃいない。募る社会への不安と母への憤り。靴紐を結ぶ手が止まる。心の内で怒る葛藤は止まることを知らない。更生し社会に属するか――浮浪を極めるか――二つの未来が脳裏で戦う中、働くこと以外を奪われた彼の中で、仲裁するかのようによぎったのは今更すぎる後悔。


「ーーやるっきゃねぇか」


 凝固とす覚悟を胸に靴紐を結び、ドアに手をかける。未知なる世界に足を踏み出す準備は出来た。いざ行かんと、思い切って新世界へとの境界線を踏み越える。



 刹那――色は消失した



 ◆◇◆◇



「・・・は?」


 見える光景は白黒の時が止まったような世界。ありふれた毎日が突如として色を失い、目の前から常識を奪っていく。これを現実として早々に受け入れる方が難しいだろう。無論、彼もそれに陥っていた。目的もなく歩く赤ん坊のようにふらつく足を一歩前に出し、体軸を捻り後ろを向き、ドアを閉める。高校に通っていた時、否、外に出る時、誰であっても行うもはや習慣的な行動だ。


 ガチャ――


 ドアを閉めた音が、白黒の静寂な世界に轟く。何気ない毎日の音もこの世界では特別になる。家という自分がこもっていた殻を脱ぎ捨て、白黒だが、新たな世界へ――と、誰もが思っていた。彼でさえ、この異常事態に帰って冷静さを保ち、何かアクションを起こせば変わると思っていた。ドアを閉め、鍵をかけたのを確認すると、彼は再度前に振り向き、目を閉じ、深呼吸をした。



 ――現状は悪化した。



 石畳の道が続き、その幅には煉瓦造りの建物が並んでいる。露店では新鮮さのカケラもない果物がずらりと並べ売られており、人々が行き交い、遠くには大きな時計塔まで見えるが――誰が二段階に分けて世界が変わるだなんて予想しただろうか。ふつうは外出た瞬間世界が違いましたーなんて風に一気に変わるのがスタンダードでしょうが!とツッコミたくなる。

 一度目の変化は世界から色を剥がし、二度目の変化で世界そのものの構造に作用し、変化をもたらした。


「なんだ、これ.....」


 空を見上げる。白――本来の赤褐色の煉瓦は黒で、人々の服も白黒。路肩に並ぶ果物や花でさえも無機質な灰だ。彼は検証で持っていた筆を落とす。うむ。物理法則に変化はない。道ゆく人々に話しかけてみる。うむ。言語は通じる。ただおかしいのは色がないということのみ。3人、いや1人は猫耳が生えていたが――特に理由もなく話しかけた後、彼は道の中央で立ち止まる。

 

 其処での数秒の沈黙に伴う思考の結果、色のない世界に、己が在ることに彼はやっと気付いた。また、ある程度の文明は築かれている故、ここは別世界――所謂異世界とされる場所、そして異世界召喚された――と解釈するのが妥当だろうか


「......異世界召喚するにしてもマシな世界はなかったのか???一昔前の白黒写真の中みたいな世界だし、、もしかして召喚されると同時に時間逆行もしたのか?」


 次々と押し寄せてくる未知の波。人の脳の情報処理能力には限界があるが、正に今それを迎えているかのような感覚に襲われる。そのせいで、自分がこの世界において〝異質〟な存在である事に気付くのが遅れていた。実際には見て見ぬ振りをしていただけかもしれないが


「ーーなんで俺には色がついているんだ??」


  色鮮やかに、常に地球を証明するかのような綺麗なアオイロも、水滴越しに見える瑞々しい果物のイロも、人恋しくなる女の子の少し焼けたハダイロも――此処では全てが白黒であるにも関わらず、艶のなく、永らく整えられていないであろう黒色の短髪に、芸術家を自称するにはダサすぎる赤色のジャージを身につける小汚い男だけは、色を持っている。


 この世界が可笑しいのは火を見るよりも明らかである――然し、彼を可笑しいと謳うはこの世界の方だ。



 異端者は――「彼」だ。



『おいアンタ』


 世に生を授かったその時から、共に生きてきた「色」を奪われ、異世界にしかいないであろう人間以外の種族やら現実にはなかった食べ物に関心を向ける余裕などあるわけもない彼の脳がショート寸前にあった最中、後ろから牛車をひいた大柄の男が話しかけてきた。

 まさか声をかけられるとは思っていなかったが、異世界に似つかない服装をしている上に、道の中央部で交通の流動を堰き止めていたのだ、寧ろ声をかけられないほうがおかしい。


『そこ邪魔なんだわ。オレも急がねばならんのや。さっさと退いてくれや』


 苛立ちを隠せないのだろうか、大柄の男は声を荒げて彼に対して怒鳴った。だが、隠していた憤怒を暴くかの如く、後ろを振り向き火に油を注ぐ返事をする。


「おっさん。なんでアンタそんな汚ねぇ色してんだ?」


 後先考えずに、彼は大柄の男を侮辱する。だが彼の中では決して貶しているわけではなく純粋な疑問を投げつけているに過ぎない。というのも彼が放った「汚い色」という言葉の真意は、白黒という点にあるからだ。

 芸術家を名乗る人は基本的に感性が人とずれている可能性がある。そのズレた感性を作品に投影し、常人には理解できない芸術を描く。場合によっては、数十年、数百年後にそのズレた感性に付加価値が付与され、これまた理解できぬ作品価値に至ったりする。


 彼の場合、人一倍「色」に対する美的感性が狂っていた。人為的だろうが、自然的だろうが、自分以外が作った色を認めていない。同じ緑だろうが、彼にとっては、芸術家である自分が彩った「緑」が何よりも美しく、尊い色であると思っている。その上、白のような何にも犯されていない尊さの象徴のような色や、黒のようなとりあえず混ぜときゃ馬鹿でも作れるような色を彼は好まない。故に――この白黒世界は彼にとって耐え難いほど汚く、不愉快なのだ。


 普通、初対面の人から侮辱されれば、マザーテレサのような善人であってもきっと激しく怒るだろう。然し、かえってきた返答は意外なものであった――それも彼だけにとって


『ああ?イロ?汚ねえ?意味わがんねぇこと言うてないではよ退きや』


「は?ちょ、おっさn――」


 度肝を抜かれた。だが狼狽えてはならぬと謎の張り合いで咄嗟に言い返そうとした刹那――


『ごめんなさーーーーーい!!!!!その人あたしの連れですぅ!!!すぐ退かせるんでぇーー!!」


 騒ぎを聞きつけて出来た群衆の中から甲高い声が彼の言葉を遮り、その言葉の直後には足が地についていなかった。疾風迅雷を体現するかの如く、群衆の中から抜け出し、道の中央部に佇む彼を抱き抱えその場を去ったのだ。凄まじい駆け足で現場を離れる最中、当の本人はやはり理解が追いついていなかった。思考の精密性を失い、深く考えることもできず、今置かれている状況への対処を放置している。


「どうなってん、、、だ、、、」


 この短期間で、許容量を大幅に超える情報を詰め込まれた彼は、これ以上脳に負担をかけまいと言わんばかりに、意識を手放す。



 ◆◇◆◇



 抜け出せない迷路の壁を破壊し、最短ルートで出口を作るかのように、彼を深淵から引きずり戻したのは、聞き覚えのある甲高い声だった。


『...て......きて』


『起きなさいよ!!!』


 頬から伝わってくるやんわりとした痛みと共に目を開いた刹那――


 何よりも先に彩人の目に飛び込んできたのは、色のついていない白黒の、汚く、美しい少女だった。






作品を読んでいただきありがとうございました。


白黒世界と彩人の物語は始まりました!


最後に颯爽と現れた謎の少女は一体誰なのか、、?


諸々、二カキカキしていきますのでお待ちくださいまし!


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