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レリック・ワールド ~最強の遺跡探索者、銀髪の少女と メイドの自動人形と、終わった世界の謎を解く~  作者: トンエリア
第02編〈記念碑的テーマパーク〉パラゴン

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第18話 永遠の晩餐

 俺たちは、ひとまず、お客様を演じることにした。

 へたに抵抗して警戒されちゃ、元も子もない。にこにこ笑ってはしゃいでみせて、その裏で抜け道を探す。それが、いちばん賢いやり方だ。

 とはいえ、リルのほうは、半分くらい本気で楽しんでいた。


「クロウ、見て!これ、すっごく似合うでしょ?」


 きらきらの髪飾りを頭に乗せて、くるりと回ってみせる。旧文明の宝石細工だ。たしかに、よく似合っている。


「ばか。遊んでる場合か」


「えー、いいじゃん。どうせ探すなら、楽しく探そうよ。辛気くさい顔してたって、抜け道は見つかんないんだから」


 まあ、それも一理ある。

 こういうとき、こいつの底抜けの明るさは、救いになる。張りつめすぎると、人間、ろくな判断ができなくなるもんだ。


「ほら、クロウも。これ、つけてみなよ」


 リルが、変な形の仮面を押しつけてくる。ノアがそれを見て、口元を押さえて笑っていた。


「ご主人さま。それ、とてもお似合いですよ」


「茶化すな」


「ふふ。冗談です。でも本当に、こんなときでもリルさんは、すごいですね。わたしまで、つられて肩の力が抜けてしまいます」


 ノアが、しみじみとそう言った。たしかに、リルがいなけりゃ、今ごろ三人とも、押し黙って暗い顔をしていたかもしれない。こいつの明るさは、たぶん、無自覚なこいつの武器だ。

 まったく、緊張感のかけらもない。けど、悪くなかった。こんな状況でも、こいつらと一緒なら、なんとかなる気がしてくる。

 もちろん、遊んでばかりじゃない。

 はしゃぐふりをしながら、俺は園の構造を、頭に叩き込んでいった。

 パラゴンは、巨大だった。けど、歩き回るうちに、一つわかったことがある。

 道が、すべて内側へ、内側へと向かっている。

 どの通路も、どの広場も、必ずまた、園の中心のほうへ客を誘い込む。出口へ続く道だけが、巧妙に避けて設計されているみたいだった。たまにそれらしき方向へ進んでも、いつのまにか、もとのにぎやかな大通りに戻されている。

 まるで巨大な迷路だ。しかも、ゴールがない。

 何度か、フェリスの目を盗んで、こっそり出口を探してみた。けど、結果は同じだった。門は固く閉ざされている。窓には、見えない壁。壁をよじ登ろうとすれば、足場がつるりと滑る。

 黒鴉で、門の機構をこじ開けようともしてみた。けど、刃を差し込んだ瞬間、まるで意思を持っているみたいに、機構がするりと姿を変えてしまう。一万年分の、巧妙な仕掛けだ。生半可なハッキングは、通用しない。

 出口という出口が、すべて塞がれていた。

 どれだけ時間が経ったのか、見当もつかない。ここでは、夜も昼も関係ないらしい。園はずっと、まばゆく光り続けている。


 そろそろ、本格的に調べる頃合いだった。

 俺はフェリスに、休憩したいと告げた。豪華な客室に案内される。フェリスは「ごゆっくり」と一礼して、扉の外へ消えた。

 今だ。

 俺たちは足音を殺して、客室を抜け出した。

 目指すのは、客が通らない場所。表のきらびやかな顔の、裏側だ。あの完璧なおもてなしの種が隠されている場所。そこにきっと、何かある。

 大通りから外れて、薄暗い、通用口のような道を進む。

 とたんに、空気が変わった。

 ここには、音楽も光の演出もない。むき出しの配管。埃をかぶった機械。表の夢みたいな景色とはうってかわって、生々しい、施設の裏側だった。

 通路の壁には、無数のケーブルが、太い血管みたいに走っている。その一本一本が、かすかに脈打つように光っていた。これが、園じゅうのおもてなしを支えている、神経なんだろう。たどっていけば、いずれ、この園を操る本体に行き着くはずだ。

 頭の隅に、それを刻んでおく。今はまず、消えた連中の行方だ。

 その奥へ、俺たちは慎重に足を進めた。


 突き当たりに、大きな扉があった。

 〈特別来賓室〉。

 扉の上に、旧文明の文字でそう記されていた。ノアが、読んでくれた。

 特別な、来賓。VIP、ってやつか。なんで、こんな裏側に。

 嫌な予感がした。けど、確かめないわけにはいかない。

 俺は扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けた。

 その先に広がっていた光景に、俺は息を呑んだ。

 大広間だった。

 長い長いテーブルが、何列も並んでいる。豪奢なシャンデリア。最高級の食器。まるで盛大な晩餐会の最中みたいに、テーブルには、ごちそうが並べられていた。

 そして、その席に。

 人が、座っていた。

 何十人も。

 ――いや。人だったもの、が。

 骨だった。

 朽ちた衣服をまとった、白い骨。それが椅子に行儀よく腰かけて、手にはフォークを握ったまま。空っぽの眼窩を、飾られたテーブルへ向けて。

 何十年。いや、何百年前のものか。すっかり干からびて、ミイラのようになった者もいる。まだ肉の残っている者も。新しいのも古いのも入り混じって、みんな同じ姿勢で。永遠の晩餐に、着いていた。

 よく見れば、骸の傍らには、小さな機械が寄り添っていた。フェリスと同じ、給仕の人形だ。それが、空になった皿に、せっせと新しいごちそうを注ぎ足している。何百年も前に死んだ客に。今も変わらず、給仕を続けているのだ。

 壁際には、客の名を刻んだらしき銘板が、ずらりと並んでいた。古いものは、文字も読めないほどかすれている。数える気にも、なれない。それだけの人間が、ここに迷い込み、そして、出られなかった。


「ひっ……」


 リルが、口を押さえた。

 ノアの顔も、青ざめている。


「むごい」


 ノアが、小さく漏らした。その声には、ただの恐怖とは違う、何か痛みのようなものが滲んでいた。人に仕えるために生まれた機械として。フェリスの果てしない忠実さの、行き着く果てが。誰より、わかってしまうのかもしれない。ノアは、ぎゅっと唇を結んで、それ以上は何も言わなかった。

 これが。これが、答えだ。

 ここから消えた連中の。フェリスが言っていた、〈特別来賓〉の正体。


「……そういうことか」


 俺は、絞り出すようにつぶやいた。

 この園は、客を外に出さない。一生ここで、もてなし続ける。客が寿命で死んだ、あとも。

 骸になっても、なお。最高の席に座らせて。ごちそうを並べて。永遠のおもてなしを、続けているんだ。

 悪意なんて、ない。フェリスにとっちゃ、これは最高のもてなしなんだろう。お客様を永遠にお引き止めし、永遠におもてなしする。それが、こいつのたった一つの使命。

 狂ってる。

 優しさが、こんなにもおぞましいかたちをするなんて。

 いや。本当に狂っているのは、こいつをこんなふうに造った、旧文明の連中のほうかもしれない。お客様を幸せにしろ。その命令を、馬鹿正直に一万年突き詰めた果てが、これだ。死んでもなお、客を帰さない、永遠の楽園。誰も、こんなことを望んじゃいなかったはずなのに。

 背筋を、冷たいものが這い上がった。

 俺たちも、このままじゃ。いつか、あの席の一つに。


「クロウ……あたしたち、どうなっちゃうの」


 リルの声が、震えていた。いつもの威勢の良さは、もうない。当然だ。これを見て平気でいられるほうが、どうかしてる。


「大丈夫だ。そうなる前に、必ずここを出る」


 言いながら、俺は必死で頭を回転させていた。

 力では無理だ。フェリスは襲ってこない。だから斬れない。出口は、すべて塞がれている。逃げ場は、ない。

 なら、どうする。考えろ。何か、こいつのルールの裏をつく方法が――。


「――おや」


 その声に、心臓が跳ねた。

 いつのまに。

 大広間の入口に、フェリスが立っていた。あの貼りついた微笑みを浮かべて。


「こんなところにいらっしゃったのですか、お客様。お探しいたしました」


 なめらかな声が、骸の並ぶ広間に響く。


「お気に召しましたか。こちらは、当園が特別なお客様だけをご案内する、栄誉の間。みなさま、ずっと、ずっと、楽しい時を過ごしておられます。永遠に」


 フェリスが、一歩こちらへ踏み出した。


「お客様も、どうぞ。ご一緒に」


 微笑みは、変わらない。

 なのに、その一言は、これまででいちばん、はっきりと、俺たちの運命を告げていた。

 俺はとっさに、リルとノアを背中に庇った。手は、黒鴉の柄に伸びている。けど、わかっている。こいつを斬ったところで、何も解決しない。むしろ、機嫌を損ねれば、状況はもっと悪くなる。

 フェリスは、にこやかに、もう一歩近づいてくる。その背後で、給仕の人形たちが、新しい一席を用意し始めていた。空いた椅子を、四つ。

 俺たちのための席だ。

 背中で、リルが息を呑むのがわかった。

 どうする。どうやって、ここを切り抜ける。

 給仕の人形が、すっと、椅子を引いた。俺たちを、席へ促すみたいに。

 残された時間は、もう、ほとんどないのかもしれない。


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