もうやだ!お家に帰る!(ここがお家ですよ?)
スカーレットがテキパキと指示を出して体制を整えていると、良い知らせと悪い知らせが入ってきた。
東のアスティア王国は国境から動かず、占領した砦を治していると報告が入った。
恐らく、兵力的に平原での開戦は分が悪いと判断したのだろう。
向こうの性格ならそのまま周辺にある聖地と呼ばれる良質な鉱物が出る鉱山を手に入れて侵攻は終わるだろう。
問題はエルフの国だ。
国の大半が森で、木の上から弓矢で攻撃してくるのが得意な種族だ。魔法も人間より強く、昔は何度か大規模な小競り合いがあったが全て帝国が負けている記録があった。
それ以降、細々との交流はあったが大きな問題は起こしてなかったはずだ。
悪い知らせとは南の国境砦が突破されたことだ。
これはライゲン将軍のせいではない。百戦錬磨の将軍でも兵力差があり過ぎては持ち堪えることは出来なかったようだ。国境の守備兵力5千に対してエルフはアスティア王国と同じく2万で攻めてきた。エルフは総人口が少ないため、2万ともなれば総戦力で侵攻してきたことになる。それをやる気のない5千の兵力で防ぐのは無理があったのだ。ライゲン将軍は下手に兵力を減らすことを危惧して、国境砦を放棄。すぐに全軍を連れて帝都に戻ってきたのだ。ちなみに東の司令官は敵前逃亡により牢の中である。
「ライゲン将軍、よく無事に帰還してくれました」
「いえ、南の国境砦を守備できず申し訳ありません」
「5千の下級兵で数日間も粘ってくれたのです。おかげで帝国は首の皮が一枚繋がりました。病床の父に代わって御礼申し上げます」
「もったいないお言葉。それで皇女殿下、これからどうなさるおつもりでしょうか?」
ライゲン将軍が聞きたいのは今後の対応についてだ。
「エルフの国に使者を送っても聞く耳持たずで話を聞いてくれません。一度、大規模な交戦をして和睦に持って行くしかないでしょう」
「やはりそうですか。ワシも何度か理由を尋ねに使者を送ったのですが話を聞いてもらえませんでした」
「あのエルフ達の怒りようは尋常なものではありませんでした。憶測ですが、帝国の誰かがエルフの国にちょっかいを出して怒りを買ったのでしょう」
スカーレットはまた頭が痛くなった。
「避難勧告を出して。帝都までエルフ軍を止められる兵や砦はない。ここで応戦することになるわ」
官僚達が意見した。
「しかし、帝都が戦場になるなんてどこに避難させれば・・・」
「ここに残るなら教会などでしょう!頭を使いなさい!帝都から逃げるなら西側へ。北は先の戦いで困窮しているし、東からはアスティア王国が来ているから西側しかないわね。教会がいっぱいなら大通りから離れた場所の建物に避難を、急いで明日にはエルフ軍が到着するわ!」
「わかりました!」
すぐに伝令として走って出ていった。
「ノルン聖王国は間に合いますかな?」
「わからないわね。今日の夜になれば連絡する手段が取れるのだけど」
ふむ。ライゲン将軍は兵の配置について考えた。
「敵より少ない兵力では東西南北の門は守れないでしょう。民兵を募りますか?」
「いいえ、それは悪手だわ。恐怖でパニックになった兵ほど邪魔なものはないもの」
確かにこのお方なら・・・
ライゲン将軍も政争に負けて地方に飛ばされた一人ではあるが、逆に足を引っ張るだけの貴族に嫌気がさしたのもあった。もし、お仕えするに値する主人なら命を賭して戦い抜く覚悟もあった。それを年若いスカーレット皇女に見出そうとしていた。
一夜明けて幸いにもエルフ軍は平地の移動を苦手としていたため、行軍が遅れていた。
「なんとか一日は時間が稼げたか。そんなに時間はかからないから、帝都の民には炊き出しを行いなさい。数日もては良い」
「はっ!」
なんとか対応を指示しながらやっていると急報が舞い込んできた。
「大変です!」
「どうした?」
(これ以上大変なことなどないだろうに)
「王族の方々がスカーレット皇女殿下以外逃げ出しました。貴族の方々もそれに便乗して一緒について逃げ出しています!」
スカーレットはため息をついて首を振った。
「別に構わないわ。下手に居座られても邪魔になるだけだし、いなくなってよかったわ」
「ワシも皇女殿下に賛成ですな。クズ貴族はさっさといなくなるにこしたことはありません」
二人の言葉に伝令が言い淀んだ。
「まだ何かあるのか?」
「そ、それがその・・・」
なかなか言わない伝令を叱った。
「早く言わないか!時間がないのだぞ!」
「は、はい!それが、王族の方々が逃げだずときに、城壁を警備していた兵を護衛に連れていってしまったんです!」
!?
「ただでさえ少ない兵をだと!?」
「さ、幸い、西を守護していた者達だけですが・・・」
流石のスカーレットも限界にきた。
「もうヤダ!お家に帰るわ!!!!!」
うわーん!
泣き出してしまった。
「これは予想以上にヤバイ状態じゃのぅ?それにレットお姉ちゃんよ。ここがお姉ちゃんの家じゃろうに・・・」
えっ!?と視線をやるとシオンが執務室の扉に立っていた。
「シオンちゃん?」
「そうじゃ。昨日は忙しくて連絡取れなくてすまんのぅ。馬に乗って帝都に向かっておったのじゃ」
ジワーとスカーレットはまた涙が出てきた。
「シオンちゃーん、もう私、シオンちゃんと結婚する!助けて!」
「よしよし、一人でよう頑張ったのぅ。もう大丈夫じゃ」
どっちが子供かわからない状態だった。
シオンはスカーレットが泣き止むまで優しく頭を撫でるのだった。




