落ち込む
スカーレットの叫び声が響いた。
「まぁ、足りない防衛費を少しでも多くもらおうとする昔からある手法じゃよ。問題はその浮いた防衛費を他のインフラ開発のために使っておるのか、懐にしまっておるかじゃな」
「迂闊でした。浮いた防衛費は全て司令官の懐に入っているでしょう」
「うむ、アクダマー伯爵も浮いた防衛費で街の発展や他国から物資の購入に使っておるのじゃろう?」
「仰る通りです」
「くっ、どこから資金が出ているかと思えば、民の重税だけではなく国防費からだったとは・・・」
スカーレットは膝の腕で拳を握って震えた。
「レットお姉ちゃん、余り強く握るでない。王族である皇女殿下に防衛費の横領など言えるはずもないのじゃ。それこそ昔からの通例と言ってしまえばそれまでしゃ。問題は──」
「東の国境を守る帝国軍がアスティア王国の侵攻を足止めでもできるかどうかじゃな。先も言った通り、目的の領地をほぼ無抵抗で制圧できた場合は必ず帝国奥深くまで領地を刈り取ってくるのじゃ」
「・・・私でもそうしますからな」
アクダマー伯爵は普段は気付けたことが気付けずに自分を恥じた。
「断頭台にいく覚悟はあったのだが、流石に帝国を滅ぼす原因として処刑されるのは我慢できんな」
ここで初めてアクダマー伯爵は力無く言った。
「落ち込むのは早いのじゃ。アスティア王国はいつ攻めてくるのじゃ?スカーレット皇女殿下はともかく、妾には時間がなくてのぅ」
シオンの滞在期限は15日間なのだ。明日には一度ノルン聖王国に戻って政務せねば書類が溜まって地獄になっている状態である。
「早くて1ヶ月以内と聞いている。向こうも私の裏切りを警戒しているだろうから多少の日にちのズレはあるだろうが」
「その1ヶ月は今からか?」
「向こうの話が正しければな。先ほど来ていた密偵の商人がそう言っていた」
なるほどのぅ。
「レットお姉ちゃん。惚けてないで今から作戦会議じゃ!どこまで守るのか決めてかねばならぬ」
!?
「あ、ああ、そうだな」
アクダマー伯爵に地図を用意してもらい急遽、作戦会議を開いた。
「向こうの国の聖地と呼ばれる山がこの南東にある、帝国とエルフとアスティアの三国が領地を隣接するこの山じゃな?」
「そうだ。ここは良質な鉱物資源の宝庫でな。武具生産のためには重要な場所なのだ」
「もし。ここを奪われたら・・・うむ、ここまで戦線を下げるのはどうじゃ?」
「ここまで下げるのですか!?」
スカーレットは声をあげたが、南のエルフの国を指した。
「ここまで下げればアクダマー伯爵の狙い通りアスティア王国が防波堤になってくれるのじゃ。隣接する国が減るので国防費は浮くじゃろう」
厳密には少し隣接するが兵を集中できて広範囲に広げなくていいぶん、やはり国防費は減る。
まぁ、鉱山が取られるので税収も減るのじゃが
「ただのぅ、東と南を守る帝国軍の司令官が使える者かどうかが心配じゃな。あらかじめレットお姉ちゃんが帝都で騎士団を待機させて、すぐに向かう様にしても1日でも防衛できなければ意味がないのじゃ」
「そうなんだよね~、いくら私でも敵が動く前から援軍に駆けつける訳にはいかないからね」
ただでさえ北部の処理に動けないのにっ!
あ、そういえば・・・
「あ、思い出した。南の国境を守っている司令官ってそれなりに有名な人じゃなかったっけ?」
名前が思い出せないorz
「そうなのかのぅ?使える者であればいいのじゃが、北部からは増援が出せん状態じゃ。東と南、そして帝都からの援軍で対応できるかどうかじゃな」
「多分、東の司令官は、アスティア王国が攻めてきたら真っ先に逃げるタイプね。東の領地には何度か行ったことがあるけど、好きになれないタイプのデブだったわ」
デブなんだ・・・
「クズ司令官か。まったく帝国の人材不足は嘆かわしいのぅ」
「時間もないし、ある程度の領地が奪われるのは覚悟しておかないといけないわね」
「そうじゃのぅ、余り削られ過ぎると他の国も攻めてきそうじゃしのぅ・・・」
「シオンちゃん!怖いこと言わないで!?」
他人事じゃないのよ!
いえ、シオンにとっては他人事です。
「しかし妾達は一度国に帰らねばならん。レットお姉ちゃんに頑張ってもらわなければならんのじゃぞ?」
「シオンちゃんが帰らなければいいのよ♪」
「可愛く言ってもダメじゃ!」
「だって~~」
「だってじゃないのじゃ!」
こうしたやり取りの中、シオンが折れた。
「はぁ、妾から誘ったのじゃし、最後まで面倒は見ないとダメか・・・」
シオンは深いため息を吐くのだった。




