後始末
長い爪を止めたクロードは弾くと、刃を切り返してウルーガの腕を跳ね飛ばした。
「グオォォォォォォ!!!!!」
痛みに耐えるウルーガに剣を突き付けた。
「終わりだ!大人しく投降せよ!」
ウルーガは睨みつけるだけで返事をしなかった。
そして視線をシオンに移して言い放った。
「女神の寵愛を受けし娘よ。貴様は我が国をどうするつもりだ?」
「何もせぬよ。妾はクレスト王国の統治で精一杯じゃからのぅ。今回の一件で南の部族に吸収されようと妾の知ったことではない」
シオンの言葉にクロード達は驚いたが、ウルーガは別の意味で悟った。
「・・・我が国を滅ぼしておいて後は勝手にしろと言うのか?」
「貴様の、貴様らの統治に限界が来ておったのじゃろう?妾を頼るな」
多種多様な種族のいる獣人族に、どうしても数の多い部族が国の運営に力強い発言持つ。しかし少数派が国を出ていったために、力のある部族同士で衝突が多くなった。一国の主人としてウルーガはその調整に苦労していたのだ。北側の自由連合は昔ながらの統治で停滞し、南側は他国との交易を増やして、近代化に成功していた。年々、国力は広がるばかりであった。そこで、魔薬を使い、経済破壊をしようと『入れ知恵』されたのだ。
国を守る兵力も無くなったため、後は蹂躙されるのみだろう。
ウルーガとて民が困窮したり、奴隷になるのは耐え難い苦痛である。
「我に投降はない!」
ウオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!!
ウルーガの気迫の咆哮がクロードを後へ吹き飛ばした。
「たとえ、この身が地獄へ堕ちようとも、我が一族は守り抜くのだ!!!!」
禁忌の薬を使ったウルーガはもうすぐ死ぬのだ。
最後の攻撃を仕掛けた。
「貴様も道連れだ!小娘がっ!!!!!!!!」
弾丸の様に飛び出したウルーガは片方の爪をシオン目掛けて伸ばした。
が、それは届かなかった。
腕をバルド元帥が切り落とし、吹き飛ばされたがシオンの後ろから飛び出したクロードが身体を切り伏せたからだ。
「見事じゃ」
シオンは動じず、その場で立っていただけだが、王者の風格を兼ね備えていた。
そして僅かに残っていた側近やメイド達に命じた。
「ウルーガ族長は最後まで勇敢に戦った。その名誉をしっかりと伝えよ」
側近達は何度も頷いた。
「貴様達に問う。死にたくなければ素直に答えよ。魔薬の話は知っているのか?」
側近の一人が前に出て跪いた。
「はい。姫殿下様の仰る通りです。我が国は年々、南の統治と比べて差が広がるばかりでした。しかし、頭の硬い老害達のせいで思うような新しい政策ができず、歯痒さを抱えていた所に、スノーガーデンの効能について行ってきた商人がいたのです」
話を聞くと、その商人に乗せられて行動を起こしたと言うことらしい。
自国が潤うのと他国に打撃を与えられると聞いて一部の上層部で動いたと言うことだった。
「悪いが同情はせぬ。魔薬は女神様が最も嫌悪する事案じゃ。首謀者の死亡で今回はここで手打ちにしておくのじゃ」
「寛大なお慈悲に感謝いたします」
これは慈悲ではない。
『罰』じゃ。
兵力の無くなった国など他国に蹂躙されるだけじゃからのぅ。
まぁ、人口の少ないスノー王国に亡命できるように手筈は整えておくがな。
こうしてシオンは周囲が驚くほどあっさりと自由連合国から部隊を撤退させた。
一部の条件として北側の領土をスノー王国に明け渡すことを認めさせた。これでスノー王国は南と東の領地で作物の栽培ができる様になった。
今回の出兵についてシオンは国庫から戦死者の家族への見舞金を出して、自由連合からは賠償金を貰うことはしなかった。ただでさえ、働き手が多くなくなり、財産まで奪っては、北側の民が難民となり周辺国に流れるのを防ぎたかったからだ。
「後は、同じ国として南側が支援してくれるのを願うだけじゃな」
シオンの仕事は終わりとでも言うばかりにあっさり引いたことで、帝国など不気味に思い静観を決め込むのだった。そして、有能な南の統治者が北側を支援して統一するのにそれほど時間はかからないのであった。
こうして二度目の防衛戦を制して、新たに飛行部隊を組織したシオンの行動範囲は劇的に広がった。
空を飛べる仲間4人がかりで、大きなカゴで運んでもらう方法を思いついたからだ。
運べるのは3~4人だが、何十人もの空が飛べる者がいるので、ちょっとした使者や緊急の伝達に重用されることになる。
こうして一連のスノーガーデンにまつわる魔薬の出来事は終結したのだった。




