接触
温泉の事は足の速い獣人が走って、すぐにユキネに伝えた。
「なるほど。金銀財宝よりもとっても価値のあるものでしたね。すぐに冬になりますし、手の空いている者で今のうちにここまでの水路を作ってしまいましょうか」
流石にスノー王国にも建設技術を持っている者がいる。すぐに技術者の手配をしてユキネはみなの帰還を待った。
数時間後、ハクトを始め何人かは戻ってきたが、半部以上の者の姿が無かった。
「御苦労様でした。遅かったですね?他の者はどうしたのですか?」
「ただいま。他の者は時間があるからと、周囲の整備とここまで水路を引くと言って残ったよ。セツナ殿には簡単な計画書の設計図案を考えてもらってから戻ってきた次第だ」
「ちょうど技術者に声を掛けた所です。すぐに向かわせましょう」
お互いに頷くとすぐに屋敷の応接室にて詳しい話を聞かせて貰った。
「本当に姫殿下らしい宝物でしたね」
「そうだな。ただ懸念があるとすればスノーガーデンの群生地に温泉が湧き出たことで、今後は誰でも行きやすくなってしまうことだ。何も知らないヤツもいれば、悪意を持ったヤツもな」
ハクトの言葉にユキネも深刻な顔で言った。
「残念ですがスノーガーデンの植物は見つけ次第、燃やすなどして隠滅させるしかないでしょう。元々数の少ない植物です。育てようとしなければそんな数は採れず諦めるでしょう」
「今はそれしかないか」
そんな時、伝令がやって来た。
「失礼致します。南の連合国から商人がやって来ました。ユキネ様に御目通り願いたいとの事です」
!?
「………このタイミングでやって来くるとは魔の悪いヤツですね」
ユキネは顔は笑っているが絶対零度の笑みを浮かべていた。
「ユキねぇ!俺が八つ裂きにしてやる!」
短気なハクトが立ち上がろうとした時、クロードが制した。
「待て!ここはヤツらを利用すべきだ」
戦は何も武力だけではない。
敵はこちらの情報をまだ知らない。
「奴らに奪われた物を取り戻しましょう」
「どういう意味だ?」
クロードは作戦を伝えた。
「なるほど。敵を殲滅させるよりは実りがありそうだ」
「ふふふっ、我が国の弱みに付け込んで、ヤッてくれたのです。これくらいの報復は当然でしょう」
クロードの作戦を採用して、南の連合国からきた商人と会う事になった。
前回ユキネ達を騙した商人は腹のでた恰幅の良い獣人だったが、今回来たのは細身の『人間』だった。
「お初に御目に掛かります。私はサギールと申します。自由連合国で商いを営んでおります」
「サギール殿、ようこそいらっしゃいました。今回はどの様な御用でしょうか?」
「はい、実は少し前にこのスノー王国で雪を溶かす薬を売った者を覚えておられますか?」
「ええ、効果はあったものの、酷い副作用があり田畑がダメになりました」
怒りを滲ませながら声を出したユキネに、サギールの目が鋭くなった。
「その節は我が国の者が大変失礼致しました。その商人は我が国で裁きを受けて服役しております。私はスノー王国の皆様にお詫びがしたくお邪魔させて頂きました」
こちらが自由連合国の情報がわからない事を良い事によく言いやがる。我々を騙した商人は捕まっておらず、貴様とグルであろうに。
「お詫びとはどういう事です。貴方が騙した訳ではないでしょうに?」
「いえ、同じ国の者が酷い事をしたのです。私としましてはお詫びしてこれからも末永くお付き合いして行きたいと考えております」
サギールはお詫びとして小麦を馬車一杯に持ってきたとアピールした。
『シオン姫殿下は何十台もの馬車一杯に持ってきて更に追加で支援もして下さった。なのに馬車一杯の小麦など、除雪剤の代金で支払った金額の1割にも満たないでしょう。それを恩義せましくペラペラと』
ユキネは拳を握って怒りを殺すのに苦労した。
「それはありがたい。しかし、我々としてもただで、縁もゆかりも無いサギール殿から受け取る訳にはいきません。何かこちらからお譲りしたい物はありますか?」
「それならば1つだけお願いしたい物がございます。実はこの国の北側で生えているスノーガーデンと言う植物を譲って頂きたい。実は自由連合国で人気が出ましてな。今後はそちらと取引したいと考えております」
!?
やはりか。
ならば──
「おや、それは残念でしたね。スノーガーデンはすでにほとんどが枯れてしまって、もうすぐ採れなくなるでしょう」
サギールの顔色が変わった。
「なっ、なんですって!?それはどうしてですか!」
「スノーガーデンの群生地に温泉と言うものが湧き出したんです。ご存知の通り、寒い所で生えるものですから温度が上がって枯れてしまったんですの」
「そんなバカなっ!?どうにかならないのですか!?」
狼狽えているわね♪
でもここからよ。
「実は保護しようにも先の除雪剤の購入により国庫が空でして………」
「ならば、私がその費用を出します!」
「まぁ!本当ですか!?それならすぐにでも保護する施設が建てられますわ。同時に栽培できる施設も作れそうですわね」
!?
「そ、そうです!栽培して頂ければ手間が……いえ、助かります!」
それからはトントン拍子で話が進み、サギールの資金提供のおかげで、一ヶ月後には湧き出た温泉の場所に立派な建物が完成したのでした。しかしできたのは温泉施設でありスノーガーデンを育てる施設ではありませんでした。
さらに王都シェルまで温泉を引く水路の資金まで出させて、ユキネ達は騙されたお金以上の資金をサギールに出させることに成功したのだった。
源泉の熱湯を王都周辺の水路に引くことによって王都周辺の限定的ではあるが雪の影響を受けずに作物が育てられる様になり、シオンが前世の知識でハウス栽培を提案したことにより、劇的に食料問題も解決するのはもう少し後になってからである。




