薬
ユキネの言葉にハクトは口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ!兄貴は事故で死んだんじゃなかったのか?」
「黙っていてごめんなさい。混乱を避ける為に秘匿していたのです。タマモには嘘がつけないので、すでに話してあります」
重たい空気が流れた。
「それで殺された理由はなんじゃ」
「少しお待ちください」
ユキネは部屋を出ると何かを探して持ってきた。
「息を引き取る前に、夫は襲ってきた者は全て倒したので秘密がバレることはないと言っていました。そしてこれを握っていたのです」
白い布の上にはいくつかの植物の種のようなものが置いてあった。
「種なのか?麦にも似ているようだが?」
ハクトやその場にいた者達も見聞したがどんな価値があるのかわからなかった。
「私はこれがなんの植物なのか調べました。そしてなんの植物の種なのかも判明しているのですが、どうしてこの植物を、命をかけてまで守ったのか理解できないのです」
ならば我が神眼にて理由を見てみるか。
シオンは種をみてみると───
「こ、これは!?」
驚きの声を上げた。
「姫殿下、どうなさいました?」
「我が神眼にて秘密がわかったのじゃ」
一斉にシオンに注目が集まった。
「すまぬが、人払いを頼む。こちらはセツナだけ残れ。そちらはユキネ殿、タマモ、ハクトのみ秘密を伝える」
「それだけの秘密があるのか」
ハクトは皆に頭を下げて部屋から退出させた。
「どこで誰が聞いているかわからん。少し声を落として話すのじゃ」
シオンは植物を指さして言った。
「これはこの国の北の雪の多い場所に生えている『スノーガーデン』という植物の種じゃ」
「ああ、それで見覚えがあったのか。この国に住んでいるやつなら誰でも知っているな。王都シェルの北側に行けば生えている。綺麗な花を咲かせるから異性のプレゼントによく売れている」
シオンは声のトーンをさらに落として秘密を話した。
「そのスノーガーデンの種を乾燥させてタバコのようにキセルで燃やして煙を吸うと、魔薬になるようじゃ」
「魔薬!?」
「うむ、幸福感で満たされ酩酊した状態になるみたいじゃ。そして中毒性が強く依存症になれば強盗をしてでも金を作って手に入れたくなる薬じゃな」
今、現代でも流行っているゾンビタバコのようなものじゃ。いや、大麻の方が似ているかもしれん。
「まさかこの綺麗な花の種にそんな秘密があったなんて・・・」
「何かの出来事で偶然知ったお主の夫は『誰か』に相談したはずじゃ。スノー王国が裏で他国にばら撒けば莫大なお金が手に入り、それでスノー王国の民は裕福になれたであろう」
「兄貴がそんな人を不幸にするやり方を選ぶ訳がない!」
ハクトは叫んだが、シオンは続けた。
「うむ、そんな人物じゃから殺されたのであろうな。相談した相手はそうは思わなかったようじゃからのぅ?」
!?
「しかし全員夫が倒したはずでは?」
「その仲間内で、前もって誰か別の者に話した者でおったのであろう。じゃが、詳しくは聞いておらず、調べるのに時間が掛かったと言う訳じゃ。そしてこのスノーガーデンのことに調べがついたので奪いにきたというわけじゃな」
「それが雪を溶かすと言って田畑をダメにさせた商人のやつと言うわけか」
少し考えていたセツナは疑問を口にした。
「それなら花としてスノーガーデンを買い取れば良かったのでは?」
「ああ、それなんじゃが、スノーガーデンは寒いところでしか栽培できぬ。スノー王国でも雪の多い北側のな。詰んだ種も先に炙ったりして加工しないと腐って効果はないようじゃ」
「なるほど。だから国を滅ぼして魔薬の加工工場を作ろうと画策したのですね。それか借金付けにして魔薬の加工工場を建設させようとしたか」
どちらもありそうなことじゃな。
しかし──
今回の件は一商人が企んだのかのぅ?
もっと裏には国の上層部などが黒幕でいるのではないのか?
「今は情報が足りん。取り敢えず保留じゃな。じゃが………」
シオンは周囲の見渡してから言った。
「ここに来るには南の国境からしか来る事は出来んじゃろ。国境の警備を強化して、しばらくは通行する人数を制限した方が良いじゃろう」
「どうしてですか?」
「今回の謀略に妾は関係ない。故に敵の出入りは南からしかないのじゃ。そしてこれほど早く妾が支援したとは思っておらんじゃろう。そろそろ手勢を連れて商談にくる頃じゃと思うのじゃが?」
!?
「なるほど。食糧の支援をするとか、武力で訴えてくるか、どちらにしても良い話ではなさそうですね」
「これがただの商人であれば国境の警備で威圧できるのじゃが、どこかの国が絡んでおると厄介なのじゃ」
「姫殿下が仰ったように攻めてくると?」
「可能性の話じゃ。今はこの話は秘密にしておいて、敵の動きを待つしかないのじゃろう」
さて、どんなヤツが来るのか楽しみじゃのぅ?
妾は人を堕落させる『薬』は決して許さん。
ノコノコとやって来た時が最後じゃ。
シオンはニヤリッと黒い笑みを浮かべるのだった。




