幼女ですが、政治的駆け引きができますよ?
こうして新しく異世界に転生した人物は、大陸の北東に位置する小国レグルス王国の長女として産まれ、シオン・レグルスと名付けられた。
正室の王妃から産まれたシオンの後に、側室から長男が産まれた事で、後継者争いが勃発し、王妃派と側室派で派閥争いが激化していった。
「ふむ、ようやく3歳になったのぅ」
この3年間は命を狙われる事も多くあったが、女神ノルンから貰ったとっておきの能力『神眼』で切り抜けることができた。
神眼は鑑定の上位互換の能力で、相手の名前や能力、敵意があるか無いかなどもわかる優れものであった。
そして膨大な魔力の扱い方も学んでいた。
「しかしこんな裏ワザがあるとはやってみるものじゃ」
魔力を使う時、子供の身体では負荷が掛かるので確かに強力な魔法など使えなかった。しかし、肉体強化の魔法を使ってからならある程度、強力な魔法の行使ができることに気付いたのだ。
そして試行錯誤している間に4歳になった。
「そろそろ行動を開始するかのぅ?」
ようやく動き廻れる様になったので、
この派閥争いを収めようと動きだした。
大陸を統一するのに国内の内乱など持っての他であるからだ。
「姫様!危険です!?」
側使えのメイド達が止めるにも関わらず、側室の部屋へ向かった。
「おや?第一王女殿下ではございませぬか?いったいどのような御用ですか?」
態度と口調は丁寧だが、目が笑っていなかった。
「うむ、そろそろ妾もこの面倒な派閥争いを終わらせようと思うてのぅ?」
!?
側室の目の色が変わった。そして、たかだか4歳の子供がそんな事を言うのに内心驚いていた。
「実は妾には隠していた事があってのぅ?その秘密を公開すれば、必ず妾が次期女王になるのが決まってしまうのじゃよ」
「秘密ですって?」
「そうじゃ。母君にも秘密にしておるのじゃが、そろそろ秘密を打ち明けようと思っておる。しかし、側妃殿よ。妾の提案に乗るのであれば、この国の次期国王に弟を推すことに協力するのじゃ」
側室、または側妃と呼ばれる存在は愛妾とは違い、政治にも口を出せる地位にある。正室が病気や仕事で他国へ行っている間に、代わりに仕事を受け持つ存在である。
頭の回転の早い側妃はシオンの提案を聞くことにした。
「その秘密と提案とは?」
「うむ、それはこれじゃ」
シオンが魔力を込めると、シオンのエメラルドの瞳が黄金である金色に変わった。
!?
「まさか!それは!?」
この世界で女神の寵愛を受けた者に、『黄金の瞳』の者が産まれるのは有名な話であった。
その瞳を持つ者は何かしらの凄い力を持っているため、各国で囲い込むのが当然となっていた。
しかし、その国の王族がその力を持って産まれたとなれば話は変わってくる。
その力を国のために自由に使えるし、今後の婚姻も政治的に有利に申し込めるだろう。
もしかしたらその子供にも遺伝するかもと期待出来るからだ。
そして厄介なのは、病気ならともかく、女神の寵愛を受けた者を暗殺などしたものなら、周囲から責められるのは必至であり、毒杯を賜る事案なのである。
「さて、この瞳で説明は要らぬな?そろそろ妾の命を狙うのは諦めて建設的な話をしようかのぅ?」
シオンは目に前に出された飲み物を側妃に投げ付けた。
「きゃっ!?何をするの!」
「こんなに堂々と毒を盛ろうとするからじゃ。それにわかっておらぬのか?妾に女神の加護があるとわかれば、おぬしの派閥から抜ける者が必ずでるであろう。そう、女神の怒りを恐れ妾に毒を盛ろうとした者とかのぅ?」
ニヤリッと笑ったシオン側妃は嫌な汗を描いた。
「さて、脅すのはこれくらいにしておこうか。本題じゃが、実は隣国のクレスト王国を潰そうと思っておるのじゃ」
「はっ?」
側妃は間の抜けた声を出してしまった。
「簡単なことじゃ。この国は弟に継がせる。そして妾は隣国を滅ぼし、そこの女王となるのじゃ。どうじゃ?円満解決じゃろう?」
側妃はいとも簡単に言いのけるシオンに改めて恐怖心を抱いた。
「本気で長年争っている隣国を滅ぼせると?」
「無論じゃ。滅ぼすと言っても『無能』な王侯貴族のみじゃ。妾の【神眼】があれば可能じゃぞ。側妃殿には妾を旗印として進軍する許可を得る為に口添えをして欲しいのじゃ」
隣国は国力こそは同格ではあるが、軍備に力を入れており、裕福な我が国に定期的にちょっかいを掛けてくる困った国だ。しかも、民に圧政を敷いており、裕福なのは上級階級のみで民は困窮している。
『とある理由』から我が国は降りかかる火の粉は払うのみで留めていた。
しかし、短期で倒せるのであれば逆侵攻も可能である。
話し合いが終わった後、側妃は椅子に持たれ掛かる様に姿勢を崩した。
「あ、あれは化物だ。手を出してはいけないモノだわ…………」
ドット疲れた様子で、床に散らばった微量の毒の入った飲み物に目をやった。
「あの年齢で駆け引きまで出来るなんてね………」
自室で姫が死ねば私が疑われる。だから自分も同じお茶を飲んで体調を崩す事で、二人とも狙われた事にしようとしたのだ。子供には致命傷でも大人であれば体調を崩すぐらいの毒だったのだ。
まだ信じた訳ではないが、取り敢えず協力関係で行ったほうが利益があると判断した。
それから間もなくシオン姫殿下が女神の寵愛を受けし者とお触れが配布された。
そしてまだ4歳です。
「う~む………?これは思った以上に酷いのぅ~?」
シオンの目の前には約3千の兵士達が整列していた。しかし、どう見てもやる気や覇気にない落ちこぼれの兵士達だった。
これには訳があり、母親が女神の寵愛を受けているとしても、まだ子供の娘に危険な事をさせたくないと思っており、やる気のない兵士を集め、パレード行進をさせる程度にしておこうと画策したからだった。
「しかしこれは使えるのぅ?下手に忠誠心のある者より扱い易いかも知れぬな」
シオンは高台に座っており、兵士達を見渡しながら魔法を使った。
「我が新しく新設された騎士団の皆よ!妾がシオン・レグルスである!」
映像魔法ヴィジョンで兵士達の上空に大画面でシオンの姿が映し出された。
ザワザワ
ザワザワ
兵士達に戸惑いのざわめきが起こった。
「慌てるでない。妾はここにいる兵士達を英雄にすると約束する!妾に着いてこれば女神様の加護を持って全戦全勝を約束するのじゃ!!!!」
シオンの声もマイクの様に増幅され、広間にいた兵士達にしっかりと聞こえるのだった。
「しかし、ここにいるのが似つかわしくない者がいる!流石に犯罪者は英雄にする訳には行かぬので、ここで断罪する!」
ざわめきが大きくなった。そしてシオンはそんな声を無視して手を前に出し、何かを掴む動作をした。
すると丁度、中央ぐらいにいた兵士が空中に浮かんだ。
「おい!何だよこれっ!!!」
驚きと恐怖でジタバタと暴れるが、何か目に見えない力で抑え付けられて動く事が出来なかった。シオンがクイクイッと手招きすると、空中でシオンの方へ移動していった。
10メートルほど前に来た兵士にシオンは『黄金の瞳』を発動させた。
「聞くが良い!この女神様から頂いた【神眼】から逃れることは出来ぬ!」
兵士達はシオンの黄金の瞳に釘付になった。神秘的で目が離せないと言った方が正しかった。
「貴様は私利私欲の為に殺人を犯したな?」
!?
シオンの言葉にいつの間にか周囲は静かになっており、不思議と声が通った。
「な、なんの事だ!そんなことしてねぇよ!」
明らかに動揺している兵士にシオンは続けた。
「妾の神眼に視えぬものなし!貴様、トレース村のギャランドよ。麗しい女人がいると、拐って犯し殺した。その数4人もじゃ。貴様に犯され、悲観して命を断った者が2人いるので6人も殺した罰で死刑に処する!」
ギャランドと呼ばれた兵士は真っ青になりながら必死に首を振った。
「そんな事はしてない!?証拠はあるのかよ!」
王族に対する口調では無かったがシオンは聞き流して、手を向けた。
「言ったはずじゃ。神眼の前に隠し事は無駄じゃ!」
シオンがかざした手に魔力を込めると、ギャランドの記憶から取り出した映像が上空に映し出された。
声(音)こそ無かったがその映像を見た周囲の者が呟いた。
「酷い…………」
ガタガタと顔色が青から真っ白になり震えているギャランドに死刑宣告をした。
「もう喋るな。ゲスが!女神様から頂いた神眼はその名の通り、神の眼である!女神様を謀るとは度し難いクズがっ!地獄で死なせた女性達に詫びるがよいわ!!!」
かざした手を握り締めるようにするとギャランドの身体も締め付けられるようになり苦しみの声を上げた。
「ぎゃっ!!!!た、たすげ…………でっ!?」
他の兵士達も真っ青になった。
空中で目に見えない力に握り潰され、周囲に血を撒き散らしながら息絶えたのだ。
その虐殺を僅か4歳の少女がやった事に肝を冷やしていた。
「さて、ここにいる者で、生きる為に盗みをした奴は多くいるようじゃが、それくらいは目を瞑ろう。しかし、正当防衛以外の殺人を犯した者は許さぬ!死にたくなければすぐに後ろにいる衛兵に自首するのじゃ。さすれば強制労働の罰で済むじゃろう。黙っていた場合はこの後に同じように【神罰】を与えるのじゃ」
シオンの言葉に、数人が猛ダッシュで自首しに行った。
「ふむ?そろそろ良いかのぅ?妾は平民でも実力のある者、真面目に勤勉に励む者には出世させるし恩賞も与えるのじゃ。妾の初代騎士団に配属されたことを感謝せよ」
先程の惨殺ショーを見せられては感謝も何も無かった。そしてシオンは最前列にいた者を指名した。
「そこにいるサウスト町のクロードよ。御主をこの騎士団の団長に任命する!」
!?
「わ、私がですか?」
戸惑っているクロードにシオンは無論じゃ。と、頷いたが、しかし隣にいたクロードの知り合いが声を上げた。
「姫様!御言葉ですが、こいつは近衛騎士をクビになったヤツですよ!また何かやらかすに決まってますよ!」
その言葉にシオンはまた手をかざし、クロードの隣にいた男を空中に浮かせた。
「うわわわっ!?どうして!」
「煩いぞ!妾の神眼に視えぬものなし!クロードは平民ではあるが、強く賢かったため近衛騎士まで登り詰めたが、それを心よく思っていなかった上官に嵌められたのじゃ!」
ザワザワ
ザワザワ
「そして、その上官にクロードに妬みと劣等感を持っていた貴様が上官から金を貰いクロードを嵌めたのじゃ!この裏切り者がっ!」
シオンは力を入れて殺そうとしたが──
「お待ち下さい!どうかコイツの命は助けて下さい!」
裏切られたクロードが助命を願い出たのである。
「なぜじゃ?コイツのせいで貴様は地位も名誉も無くなったのじゃぞ?悔しくないのかぇ?」
「確かに、一時期は酒に溺れた事もありました。しかし、それも姫殿下の元で働ける試練と思えば悔しくありません!姫殿下は公平に人を判断してくれる素晴らしい方と思います。こんなヤツでも同郷の者なので何とぞ寛大な処置をお願い致します!」
シオンは少し考える仕草をしてから答えた。
「そこの者よ。クロードに感謝するがよい。命は助けよう。じゃが、罰は受けて貰うのじゃ」
その男の腕を折ってから開放し、二度と目の前に現れない事を約束させ退場させたのだった。
「他にも免罪などあった者は妾に言うが良い。配下のメンタルのケアは上司の務め故な。我が神眼にて真実を映そうぞ」
こうしてこの場にいた約3千の兵士達は畏怖の念を懐きながら、シオン・レグルスと言う少女に忠誠を誓うのだった。
そして今までやる気の無かった兵士達は、恐怖心から真面目に訓練に励む様になる。
しかし、訓練中に良く差入れを持ってやってくる姫殿下の可愛さに恐怖心が薄れ、忠誠心が勝って行くのに時間は掛からないのでした。




