欲をかいた末路
スカーレットの撤退せよという言葉にイゴールは反発した。
「撤退の命令には従えない!今回の進軍には父上である皇帝の許可を得ている!このままでは退けぬのだ!」
イゴールは振り切る様に戦場へと向かった。
「あっ、こら!待ちなさい!?」
スカーレットはその場で深いため息を吐いた。
「まったくの愚弟が。目先の利益………戦功に囚われて大局の見えぬ愚者が」
一万の民兵を死なせた事が何を意味するのかわかっていない。この周辺の町や村は若い男性を失ったのだ。働き手の無くなったこの地域の収穫量は減るだろうし、多くの子供を亡くした村や町の者達は今後、帝国には力を貸さないだろう。下手をすれば反乱を起こす可能性もある。
ただでさえこの辺りは、昔帝国が占領した地域であり元々は他国の民だったのだ。
帝国に恭順を示したとはいえ、恩などないのだから。
「スカーレット様、どうなさいますか?」
「………取り敢えず様子見よ。国境砦を落とせたら愚弟の手柄として認めるわ。落とせたら……ね」
イゴールを見送ったスカーレットは後方で2万の軍勢を陣形を整えて見守った。
「クソッタレ!まさかスカーレット姉上が来るなんて」
「イゴール様、どうなさいますか?」
「全兵力で城砦を落とす!全軍を前進させろ!」
帝国の動きを城壁の上から見ていたシオン達は目を鋭くして見守っていた。
「まだ来るとはのぅ。援軍が来たからか?」
「いえ、それにしては援軍は後方で待機しております。もしかしたら援軍には上位の指揮官が同行しているのかも知れませんな」
「どういうことじゃ?」
バルド将軍は簡単に説明した。
「せっかくの援軍を自分の指揮下に置かない意味はありません。しかし、自分より上の立場の者が援軍の指揮官として来た場合は、自分の傘下に置けませんので、別の軍勢として数えるのです」
「なるほどのぅ。このままでは手柄も奪われる可能性があるので全軍で攻めてきたのじゃな」
さてどうするか。
ギミックは、最後の1つが残っているが使い所は見極めながらになるだろう。
「バルド将軍、作戦はパターンBを使うのじゃ」
「それしかありませんな。その様に動きます」
攻防戦は3日目にて最終局面を迎えた。
帝国軍は大きな落し穴を迂回して城門の破壊に集中した。こちらもできる限り兵を城壁に上げて弓矢を射掛けまくった。盾を上に掲げているとはいえ、帝国軍の負傷者は増えていった。
しかしついに城門が破られたのだ。
「ようやく城門を破壊できたか!全軍、そのまま進め!!!」
帝国軍は城門に我先に入っていった。
「これで被害は大きかったが国境砦を落とせた。後はここで負傷者を手当てして、折を見て本土へ攻め込めば帝国の領土が増える」
イゴールはそう思っていたが、城壁からの激しい弓矢の攻撃が止まなかった。
「おい!なぜ内部に侵攻したのにヤツらは攻撃を止めないのだ?」
「今、情報の確認をしております。少しお待ちください!」
側にいた側近は伝令を飛ばした。
しかしいつまで経っても攻撃は止まずどんどん負傷者が増えていった。
「いつまで内部の鎮圧に時間が掛かっているんだ!?」
痺れを切らしたイゴールは怒鳴ったが砦を落とした知らせは来なかった。
これには訳があった。シオン達は帝国軍を中に引き込んだに過ぎなかったのだ。
城門から中に入ると□こんな正方形の広間に出る。
そこは取り囲んでいる内部の城壁の上から弓矢で集中砲火できる作りになっていたのだ。
無論、奥には通路の【第二の城門】があったのだが、この広間に入った帝国軍は次から次へと弓矢を受けて戦死していた。どんどん進めと言う命令からバックが出来ずに前に進むしかない帝国兵はそのまま弓矢の餌食となっていたのだ。
前にいた兵は止まれ!と叫んでいたが、城壁の前いては弓矢が飛んでくるため、早く内部に入りたいという想いを誘導された形だった。内部であれば弓矢は飛んでこないと言う一般的な考えを思わせたのだ。
「そろそろかのぅ?外の攻撃を止めて兵を外から見えないよう下がらせるのじゃ」
「はっ!ならば姫殿下もそろそろお下がり下さい」
「いや、敵とはいえこの屍の山を築いたのは妾じゃ。しっかりと目に焼き付けなければならぬ。無論、バルド将軍の気持ちもわかっておる」
昨日はこの死体の山を見せたくなくシオンを内部で待つよう言っていたからだ。
「クロード騎士団、姫殿下をよろしく頼みますぞ」
「はっ!お任せ下さい。バルド将軍もお気をつけて」
バルド将軍は敬礼をしてから、指揮を取るために場所を移動した。
「なんだ弓矢の攻撃が止んだ?」
城壁の外で多くの被害を出していた敵の攻撃が止んだ。
「イゴール様!内部に侵入した者が奥深くまで行ったため、外より内部に戦力を集中させたのではないでしょうか?」
「なるほど!ならばチャンスだな。部隊を城壁近くまで進めるぞ!一気に全部隊で侵入して砦を奪取する!」
「はっ!」
イゴールの部隊も前に進軍した。それを後ろから見ていたスカーレットはホッとため息を吐いた。
「なんとか砦を攻略できそうね。できの悪い弟でも死なれると後味が悪いもの」
そう呟いたスカーレットの前で地響きが起こった。
ゴゴゴゴゴッッッッッ!!!!!!
「なに!?」
シオン達は虎視眈々と狙っていたのだ。総大将がギミックのある罠の範囲に入るまでを。
大規模な落とし穴のある場所以外にも、別の落とし穴を用意していたのだ。目に見える落とし穴を迂回して進軍している時にロックを外して別の落とし穴にハメたのだ。
イゴールの部隊は数千規模で落とし穴に落ちて串刺しになることになった。




