全てを失ったエンパニウム陛下
【エンパニウム陛下視点】
本当に余はたった1人で、国に送り届けられた。
エンパイア帝国の盾が聞いて飽きれる。
その全てが今や魔族に魅入られた。
ワシだけがあの誘惑に打ち勝った。
誇るべきことだ。
誇るべきことなのだが本当にこれで良かったのかと。
我が国に最早継戦能力は無い。
兵は居ないのに人口は多い。
治安も荒れる。
あの魔族の国は、我らに賠償こそ求めなかったがそれを求められていたら完全に終わっていた。
「陛下!よくぞお戻りくださいました!それで、我らの兵たちの姿が見えませぬが?」
「壊滅した。余は負けたのじゃ。もう疲れた」
「そんな!?エンパイア帝国はどうなるんです!どうなるんですか陛下!陛下!」
知らん!
あやつの言う言葉を信じるしかあるまい。
風魔の里からこの地へ送り届けられる時のことだ。
「あー、安心するでござるよ。侵略を受けたからやむを得ずあのような手段を取ったでござるが侵攻の意思はないでござる。勿論、そちらから何もしてこなければの話でござるが」
「身を守る兵すら失った余に何ができよう。2度と侵略はしないと約束する。だから、どうか賠償金だけは」
「分かっていただけたのならそんなものは必要ないでござるよ」
「感謝する」
「アンガスのことも任せて欲しいでござる」
「あ、あぁ。人質が居た方が余も変な気を起こさなくて済むな。ハハッ。ハハッ。ハハハッ」
愛する息子を堂々と人質として預かっておくと言われてしまったらもう戦争する気など起きない。
それにここよりも泥臭くはあったが幸せそうに生きておった。
息子の幸せを願わぬ親はいない。
まぁ息子のせいで、跡継ぎの居なくなった我が国はやがて滅びようが。
「陛下!よくぞ御無事で」
「アンヌリッタよ。余は息子も取り戻せず膝を折るしか無かった愚か者じゃ」
「いえ、陛下は立派に戦い抜きました。相手の方が一枚も二枚も上手だっただけです。友好通商を結びましょう。そうすれば、私も息子に会えます」
「あぁ。そうだな」
その頃、玉座の間では宰相が思案していた。
馬鹿な。我が国の誇る精鋭でエンパイアの盾が全滅…このようなことが各国に知れ渡りでもすれば、滅びの道へとまっしぐらではないか!
陛下の父の代から長年に渡って宰相として仕えてきたがここらが潮時かも知れん。
我が国の盾が破れた以上、ここに魔族が雪崩れ込むのは時間の問題か。
この国以外でまともに戦える国などホースメン騎馬国家ぐらいのものか。
亡命しよう。
再び、エンパニウム陛下の方。
「陛下が少しお元気になられて良かったです」
「あぁ、アンヌリッタがこうして抱きしめてくれていたお陰じゃ。宰相に今後の相談をして参る」
「えぇ。それが宜しいかと」
余が玉座の間に戻るか椅子に手紙が残されておった。
『親愛なる陛下へ。
此度の敗戦から立て直すには至急ホースメン騎馬国家との連合が必要だと考えました。
誠に勝手ではありますがホースメン騎馬国家との交渉のためのお暇をいただきたく。
宰相クレーメンス』
逃げたか。
いや、魔族に屈したであろう余に愛想を尽かしたのだな。
だがクレーメンスよ。
お前も対峙すればいかにあの魔族がキチガイか理解できよう。
何発も撃てる極大魔法だけでなく体術ですら。
この広い世界の何処に素手で鉄の盾を割ることができる奴が居るというのか。
余は、もう敵対せん。
覚悟を決めて水晶を取る。
「こちらエンパニウムだ。風魔の里の当主と話がしたい」
「ちょうど良かったでござるよ!至急、彼らの家族たちをこちらに送って欲しいでござる!」
更なる人質を求めるとは…。
しかし、賠償金を払わせられることに比べれば、それに治安が悪くなって、殺される者が出てくるかもしれん。
このような事態を引き起こしたのは余の責任だ。
裏切った兵らには何の罪もない。
寧ろ今までこの国を守ってきてくれた者たちが家族と離れ離れなのは心許ないな。
「承知した。それと誠に勝手なお願いではあるが風魔の里と恒久的な平和通商条約を結びたい。構わないだろうか?」
「た、助かるでござるよ。流石に一万枚の同じ投書を読むのは、キツくてキツくて…。恒久的な和平条約!?ようやく決心してくれたでござるか!?嬉しいでござるよ」
ハハッ。
どうやら、兵らが余に家族を殺されると思ったのか押しかけたようだな。
大変な思いをさせていたようじゃ。
まぁ、それぐらい我が国を1人で滅ぼしたのだから受け入れてもらいたいものだ。
「うむ。妻も息子と会いたがってるゆえ、そちらに伺うこともある。宜しく頼む」
「承知したでござる。それで、輸送するとなるとエンパイア帝国の負担が大きくなるでござろう?国境にまとめて連れてきてくれればこちらで移送するでござるよ」
「貴国を攻めた我が国に対して寛大な対応に感謝する」
「治安も悪くなりそうでござるし、こちらから兵も派遣するでござるよ。そうでござる!これは提案なのでござるが…お互いの国を結ぶ転移門を設置するというのは如何でござろう」
それはいつでも滅ぼしてやると喉元に刃も突き付けておくということか。
やれやれ、こんな化け物を相手に勝てる気で居たとは、余は何と愚かだったのじゃろうな。
「うむ。お互いの信頼から始めるとしよう」
「玉座と玉座を結べば良いでござるよ」
これは、いつでも暗殺しに来い返り討ちにしてやるからという深い言葉が隠されているのであろうか?
全く、敵わんな。
「うむ。では、そこから兵らの家族たちをそちらへ送るとしよう」
「宜しくでござる!」
ハハッ。
ハハハッ。
余は断言できる…これで良かったのだと。
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