第十二章 黄金の庭、あるいは手が先に動いたこと
光が、変わった。突然ではなかった。道を歩いているうち、気づいたら光の色が変わっていた。朝の白い光ではなく、午後の橙でもなく——金だった。空気に金が混じっているような光だった。
「……明るくなりましたね」エリィは言った。「なったね」とそのものが答えた。「太陽の角度ですか」「違う」「では何ですか」「もうすぐわかる」
エリィはその答えをひとまず受け取った。カエルが空を見上げた。カイが少し目を細めた。光が強くて、直接見ると目が痛かった。でも痛さの種類が、普通の日差しとは違った。
ヴェルト師は目を細めなかった。まっすぐ前を向いて歩いていた。「師、目は大丈夫ですか」「大丈夫だ」「眩しくないんですか」「慣れている」それだけだった。
道が、開けた。
*
庭だった。どこから庭になったのかわからなかった。道の先に突然、庭があった。広かった。見渡せないくらい広かった。木がある。花がある。水がある。噴水が、中心あたりに立っていて、水を上に投げていた。水が金色に光った。落ちるときも、金色だった。
花は白かった。でも光を受けると金に見えた。葉は緑だったが、光の中では金に見えた。地面は石だったが、その石が金に見えた。全部が、金色だった。正確には、金色ではなかった。全部が本来の色をしていた。でも光がそれを金に変えた。光の中にいると、世界が全部、金でできているように見えた。
「……きれいですね」エリィは言った。言ってから、少し足りないと思った。きれいという言葉が、追いつかなかった。でも他の言葉も出てこなかった。「うん」とそのものが言った。
カエルが立ち止まった。剣の柄に手が行かなかった。代わりに、両手をわずかに開いた。何かを受け取ろうとするような手の形だった。本人は気づいていないかもしれなかった。
カイは黙っていた。黙ったまま、庭の遠い方を見ていた。元騎士が見るような目ではなかった。もっと、遠い目だった。
ルーメンが言いかけた。「律の書 第——」「ルーメン」カイが言った。「はい」「今は黙っていてくれ」「そうですね」ルーメンは言った。傷ついた様子はなかった。今度は本当に黙った。
*
庭の中を、歩いた。噴水の近くまで来ると、水の音がした。音は普通だった。水が落ちる音。でも普通の音なのに、ここで聞くと違って聞こえた。音に重さがあった。積み重なってきた何かの重さが。
リュウが肩の上から降りた。地面に降りて、花の間を歩いた。猫のような動きで、鼻を近づけて、また離れた。何かを確かめていた。
「この庭は何ですか」エリィはそのものに聞いた。「三つ目の試練の場所」「試練がここにあるように見えないですが」「そう見える場所ほど、ある」
エリィはその答えを頭の中に置いた。花が、風もないのに少し揺れた。
荷物が、重くなった気がした。荷物の重さは変わっていなかった。変わっていないはずだった。でも、荷物の中の本が、少しだけ、主張しているような気がした。ここにある、と言っているような。
エリィは荷物に触れた。本の形が、布越しに感じられた。「……」
そのものが横に来た。「どうした」「荷物の中の本が、気になっています」「気になる?」「ここに来てから、急に。重くなったというか……主張しているというか」「うん」とそのものは言った。何かを知っているような「うん」だった。「この庭の性質ですか」「この庭は、欲しいものを大きくする」
エリィはその言葉を聞いて、庭を見渡した。欲しいものを大きくする。カエルは両手を開いていた。カイは遠くを見ていた。そして自分は、荷物の中の本が気になっていた。
「愚者さんは」エリィは後ろを見た。愚者は少し後ろで、庭の中心を見ていた。笑みがあった。でも笑みの奥が、今日は少し違った。深かった。庭の光の中で、愚者の目だけが、別の方向を向いているような感じがした。ここではないどこかを、見ているような。
「愚者さん」愚者が振り返った。笑みが戻った。「うん」「欲しいものが、大きくなっていますか」少し間があった。「もうこれ以上、大きくなれないよ」愚者は言った。「限界まで大きいから」「そうですか」「そうだよ」
その言い方は、普通だった。普通すぎた。普通すぎることが、少し怖かった。
*
影があった。庭の奥の、木が密集している場所に。人の形をした影が、立っていた。白い服だった。正確には、影だから色はわからなかった。でも服の形が、修道服だった。白い修道服の、女の人の形だった。
エリィは見た瞬間に、わかった。大聖堂の廊下で、一瞬だけすれ違った人だった。足音なしに消えた人だった。「業を返す」と言った人だった。
「……」
影は、こちらを見ていなかった。庭の奥の方を見ていた。木の間から差し込む光の方を。ただ立っていた。それだけだった。
でもあのとき帰り道の馬車でエリィが感じたこと——「いろんなものを渡してしまった人みたいな感じ。持っていたものを全部どこかへ出してしまって、中が空になった」——それが、今ここにあった。
影は、何も持っていなかった。持っていたものを全部渡した後に残る、軽さだった。影が軽かった。それが見えた。
「業を返す、というのは」エリィはゆっくり言った。「全部を渡すことですか」
そのものは答えなかった。「全部の答えを得ると、全部を渡すことになりますか」「さあ」とそのものは言った。「それはわからない」「わからないんですか」「俺には。お前はどう思う?」
エリィは影を見た。影が、少しだけ動いた。動いた、というより、揺れた。光が変わったから揺れたのかもしれなかった。でも揺れたとき、こちらを向いた気がした。一瞬だけ。
荷物の中の本が、また主張した。
エリィの手が、動いた。動いていた。考えるより先に。荷物に手が伸びていた。本を取り出そうとしていた。
手が、止まった。止めた、のではなかった。止まった。
影が、消えた。木の間に、もうなかった。足音がしなかった。どこへ行ったかわからなかった。庭の光だけが残っていた。金色の、静かな光が。
エリィは自分の手を見た。荷物に触れた状態で、止まっていた。本は、開かなかった。
*
「今」とカエルが言った。「手が動いたな」「動いていました」「気づかなかったのか」「動いてから気づきました」「止めたのか」
エリィは少し考えた。「止まりました」「どっちだ」「わかりません」エリィは言った。「止めたつもりはないですが、止まりました」
カエルはしばらくエリィを見た。それから前を向いた。「……そうか」
カイが言った。「本を開こうとしたのか」「そうなっていました」「なぜ」「この庭が欲しいものを大きくすると聞いたので。私の欲しいものが、本なので」「なのに開かなかった」「影が見えたので」カイは黙った。
ヴェルト師が、エリィの隣に来た。老人は庭の奥を見た。影があった場所を。
「師」「うん」「あの人を、知っていますか」老人は少しの間、答えなかった。「会ったことがある」とヴェルト師はようやく言った。「昔」
「業を返すとは、何ですか」老人はエリィを見た。何かを確かめるような目だった。「業は、仕事のことでもある」と老人は言った。「何かを成し遂げること。それを、渡す」「渡して、どうなるんですか」「軽くなる」
「軽く」エリィは言った。「橋の上で軽くなるのと、同じですか」「違う」老人は言った。「橋は、持ちすぎているものが緩む。業を返すのは——もっと根元から、渡す」「根元から」「自分がそれをしてきたという事実ごと、渡す」
エリィはその言葉を頭の中に置いた。「……なくなるんですか。渡したら」「なくなる」「それは」エリィは少し考えた。「つらくないですか」
老人は庭の奥を見た。金色の光が、木の間を通っていた。「お前には関係ない」とヴェルト師は言った。声が、いつもより少し低かった。「わかりました」エリィは言った。
*
腹が、鳴った。庭の静けさの中で、はっきりと。金色の光の中で、水の音の合間に。「……すみません」「また」とそのものが言った。「また」「庭の中でも鳴るんだね」「鳴ります」「ここ、かなり神聖な場所なんだけど」「わかっています」エリィは言った。「でも鳴ります」
そのものは少しだけ、笑った。
愚者が、後ろから言った。「さっき、手が動いたね」エリィは振り返った。「見ていましたか」「見てた。それから、止まった」「止まりました」「なぜ止まったと思う?」
エリィは少し考えた。「あの人の影が見えたので」「それだけ?」「……それだけかどうかは、わかりません」
愚者は笑みを崩さなかった。でも、目が少しだけ、エリィの荷物の方を見た。一瞬だけ。それから戻った。
「本を開いたら、何があったと思う?」「そのものに聞いたことがあります。『試してみれば』と言われました」「試さなかった」「試しませんでした」「なぜ」
エリィはそこで少し止まった。なぜ。手が動いていた。考えるより先に。でも止まった。止めたのか、止まったのかがわからなかった。影が見えたから、というのは本当だった。でもそれだけかどうかが、わからなかった。
「まだ答えを出していないので」エリィはゆっくり言った。「開くのは、答えを出してからかもしれないと思いました」「思った? それとも感じた?」
エリィは自分の手を見た。荷物に触れていた手を。「……手が止まりました」とエリィは言った。「それだけはわかります」
愚者は少し間を置いた。笑みがあった。でも今度の笑みは——何かが違った。準備された笑みでも、遠くなる笑みでも、静かになる笑みでもなかった。薄かった。笑みが薄かった。薄くなって、その下に何かが見えかけた。一秒だけ。見えかけて、また笑みが戻った。
「そうか」と愚者は言った。「何がですか」「お前が、何を大事にしているかがわかった」「何を大事にしていますか」「答えより先に、動くこと」
エリィはその言い方を頭の中に置いた。答えより先に、動くこと。手が動いたのも、止まったのも、どちらも考える前だった。
「取りに来た、と言っていましたが」エリィは言った。「それと関係がありますか」愚者は笑みを戻した。完全に、戻った。「関係がないとは言えない」「関係がありますか」「ある」「何をですか」「それを言ったら面白くない」
エリィはため息をつくかどうか考えた。つかなかった。
*
庭を出るとき、空が変わっていた。金色の光が、少し薄くなっていた。光が薄くなると、庭はただの庭に見えた。木がある。花がある。きれいだった。でも圧倒的ではなかった。試練が、終わったのかもしれなかった。
「抜けましたか」エリィはそのものに聞いた。「うん」「三つ目、ということは」「次は頂上」
エリィは荷物の中の本を手で確かめた。あった。ちゃんとあった。開かれていなかった。
「手が動いていましたね」エリィは小声で言った。自分に確かめるように。「動いてた」とそのものが聞こえた。聞こえていたらしかった。「止まりましたが」「止まってた」「どちらが本当でしたか」そのものは少し間を置いた。「どちらも」
エリィはその答えを受け取った。手が動いた。それも本当。止まった。それも本当。どちらかが間違いではなかった。
「師」エリィはヴェルト師の隣を歩きながら言った。「白の板、まだ持っています」「うん」「頂上で使いますか」「わかる時がくる」と老人は言った。「お前が正確だから」「正確かどうか、わかりません」「わからなくていい」
エリィはその言葉を頭の中に置いた。わからなくていい。わかる時がくる。それだけでいい。
金属の音が、した。今日は最初から聞こえていた。庭の中でも、光の中でも、本が主張していた時も、止まらずに続いていた。静かに。確かに。頂上は、もうすぐだった。




