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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第7話 ハートマーク

 数日後。

 私は市役所の有給休暇を消化するため、平日に家で一人休んでいた。

 午後一時。静かなリビングで、私はソニアに体を貸していた。健太郎けんたろうさんは会社でちょうどお昼休みの時間だ。


『あー、暇。テレビもつまんないし。そうだ、おっとちゃんにメールしよーっと』


 ソニアが私の手を使って勝手にスマートフォンを操作し始める。

(ちょっと、健太郎さんはお仕事の休憩中なんですよ。貴重な休養時間を邪魔してはいけません)

〈平気平気! 息抜きも必要っしょ!〉


 ソニアは私のツッコミを無視して、慣れた手つきでメッセージアプリを開いた。

 そこには、私と健太郎さんのこれまでのトーク履歴が残っている。


『今日、トイレットペーパーが切れるので買って帰ります』

『了解しました。気をつけて帰ってきてね』

『本日の夕食は午後七時半を予定しています』

『ありがとう。その時間には間に合うように退社します』


 まるで業務連絡のような、絵文字もスタンプも一切ない、白黒の味気ないテキストの羅列。それが、公務員である私と、几帳面な彼との「普通」だった。

 しかし、ソニアの指先はその履歴の上に、容赦なくカラフルな爆弾を投下した。


『夫ちゃん、今日もお仕事お疲れサマンサ! マジ尊い(^^♪☆彡』

 さらに、ウサギのキャラクターが激しく腰を振って踊る、自己主張の激しいスタンプを連続で送信する。


(ああっ、やめて! 私のアカウントからそんな軽薄なメッセージを……! 健太郎さんも困ってしまいます!)


 私は脳内で悲鳴を上げたが、数秒後、画面に「既読」の文字がつき、すぐに返信が送られてきた。


『そーぽよちゃんも1日お疲れ様! ランチは何食べたの?(⊙ω⊙)☆彡』


 そこには、私が今まで見たこともないような、絵文字とキラキラマークが添えられていた。

(サ、サブリーダーの肩書を持つ大人が、こんな軽薄な絵文字を!?)


 私の驚きをよそに、ソニアはニヤニヤと笑いながら画面をタップし続ける。

『アタシはポテチとコーラ! マジ最高! 夫ちゃんは社食?』

『今日は同僚と外食だよ。そーぽよちゃんのおかげで午後の仕事も頑張れそう! ソニアタイムを楽しんでね❤️』


 ……ドクン、と。

 私の心臓が、今まで経験したことのない不快な音を立てた。


 画面の最後で赤く光る、ハートマーク。

 健太郎さんとソニアが勝手に通話アプリでイチャイチャしているその光景を、私は自らの視覚を通してリアルタイムで目撃していた。


(私、健太郎さんからハートマークなんて、貰ったことないのに……!)


 黒くドロドロとした感情が、胸の奥底からマグマのように湧き上がってくる。

 私への返信はいつも『了解しました』や『ありがとう』といった、誠実だが業務的なテキストだけだ。それなのに、ソニアに対してはあんなに砕けた口調で、しかもハートマークまで送るなんて。

 自分自身が生み出したイマジナリーフレンドへの、強烈な嫉妬しっとと理不尽な怒り。ソニアは私の一部であるはずなのに、彼女が引き出す健太郎さんの『無邪気な素顔』を、私は引き出せていないという現実が、ひどく惨めで悔しかった。


〈えっ、ゆいぽん? なんか今、めっちゃ怖い気配するんだけど……〉

(……一時間が経過しました。直ちに交代してください)

〈まだ五十分しか経ってな――〉


 私はソニアの抗議を遮り、無理やり主導権を奪還した。手からポロリとスマートフォンが滑り落ちる。

 静寂の戻ったリビングで、私は一人、赤く染まった頬を両手で覆った。

 このままではいけない。妻としての、そして女としてのプライドが、私の中で静かに、しかし激しく燃え上がっていた。


 +++


 その日の夜。

 健太郎さんが帰宅し、夕食を終え、交代でお風呂に入り、寝室のベッドに入るまでの間、私はずっと無口だった。

「結衣? 今日はなんだか静かだね。体調でも悪い?」

 真っ暗な寝室で、隣に横たわる健太郎さんが心配そうに覗き込んでくる。

「……いえ、なんでもありません」

 私は短く答え、掛布団をきゅっと握り締めた。


 いつもなら、このまま「おやすみなさい」と告げて背を向けるか、彼から優しく触れてくるのを待つかのどちらかだ。私は自分から彼を求めたことなど、結婚してからただの一度もなかった。良妻として、いや、厳格な両親に育てられた堅物として、自分からみだらな行動を起こすことへの無意識のブレーキが常に働いていたのだ。


 しかし、今日だけは違った。

 昼間に見た、あの赤いハートマークが網膜に焼き付いて離れない。彼に、私以外の『誰か』――それが自分の中のギャルであろうと――を可愛いと思わせたまま一日を終わらせるなんて、絶対に嫌だった。

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