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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第44話 手と顔の攻防戦

 休日の午後。穏やかな日差しが差し込むリビングで、健太郎《けんたろう》さんと私はソファに並んで座り、録画していたテレビ番組を観ていた。

 健太郎さんはリラックスしたスウェット姿だが、それでも漂う洗練された雰囲気は健在だ。

 今日は健太郎さんの仕事も休みで、特に出かける予定もない。こんな風にのんびりと過ごす休日は、地方公務員として働く私にとって貴重な休息の時間である。

 しかし、私の脳内では、相変わらず騒がしい親友が暴れていた。


〈ねえねえゆいぽん! アタシも夫《おっと》ちゃんとイチャイチャしたい! ソニアタイムちょうだい!〉

(今は静かな休息の時間です。それに、イチャイチャなどという破廉恥《はれんち》な目的での交代は許可できません)

〈えーっ、ケチ! たまにはいいじゃん! 夫ちゃんも暇そうにしてるし!〉


 私が渋っていると、隣の健太郎さんがクスッと笑った。

「結衣《ゆい》、もしかしてそーぽよちゃんが出たがってる?」

「……はい。ですが、健太郎さんの休息の邪魔をしてはいけませんので」

「全然邪魔じゃないよ。結衣の頭の中の騒ぎが収まるなら。おいでよ、そーぽよちゃん」

 健太郎さんが笑顔で手招きするのを見て、私は深くため息をついた。

(……わかりました。一時間だけですよ)

 私が許可を出した瞬間、カチリと頭の奥でスイッチが切り替わった。


『っしゃあ! 夫ちゃーん! ちーっす』

 主導権を握った私の体は、弾かれたように健太郎さんに抱きついた。

「おっと、元気だね、そーぽよちゃん」

『へへっ。ねえ夫ちゃん、アタシのど渇いちゃったー。ジュース飲みたい!』

 ソニアは健太郎さんの胸に顔をすり寄せながら、甘ったるい声でおねだりをした。


「ジュースか。いいよ、冷蔵庫にオレンジジュースがあったはずだから、取ってくるよ」

 健太郎さんが立ち上がろうとしたその時、ソニアは彼の腕をギュッと掴んだ。

『ねえねえ。普通に飲むのもつまんないし……口移しで飲ませてよ!』

(なっ……!!)

 私は意識だけの状態で、耳を疑った。


(ソ、ソニア! なんて破廉恥なことを言うんですか! 冗談でも言っていいことと悪いことがあります!)

 脳内で私が猛抗議するが、ソニアはニヤニヤと笑いながら健太郎さんを見つめている。

「えっ? 口移しって……そーぽよちゃん、いくらなんでもそれは……」

 健太郎さんも一瞬驚いたように目を丸くしたが、ソニアの挑発的な目つきを見て、ふっとイタズラっぽい笑顔を浮かべた。


「……そっか。そーぽよちゃんがそこまで言うなら、仕方ないな」

 健太郎さんはテーブルのグラスにオレンジジュースを注いでから、ぐいっと口に含むと、本気で顔を近づけてきたのだ。

(け、健太郎さんまで何をしているんですか!? 正気ですか!?)

『うっひょー! 夫ちゃんマジで!?』

 ソニアもまさか健太郎さんが本当にやるとは思っていなかったのか、一瞬怯んだが、すぐに嬉しそうに笑顔で、唇を尖らせて待ち構えた。


(だ、ダメです! 白昼堂々リビングで口移しなんて、私の品位が……!)

 私は極限の羞恥心から、かつてスーパーの精肉コーナーで発揮した以上の精神力を振り絞り、両手に全意識を集中させた。

(私の手よ……動いてちょうだい!)


 ガシッ!

 私の両手が、近づいてくる健太郎さんの両頬を力強く挟み込み、強引に押し留めた。

「むぐっ……!?」

『ちょっ、ゆいぽん!? いいところなのに手だけ出てくるとか、マジでルール違反っしょ!』


 顔はソニアの意思で唇を尖らせて向かい入れる準備をしたまま、ジュースを欲しがっているのに。両手は私の意思で、全力で健太郎さんの顔を押し返し、遠ざけようとしている。


(ソニア! いいかげんにして! 唇を尖らせるのをやめて! 健太郎さんも、早くジュースを飲み込んでください!)

 リビングのソファの上で、私の手と健太郎さんの顔が激しく拮抗《きっこう》する。客観的に見れば、自らの欲望と理性が物理的に争っている、極めてカオスで滑稽《こっけい》な光景だった。

 その矛盾した状況に、健太郎さんは限界を迎えた。


「んぐっ……ぶふっ!」

 彼は慌てて顔を背けてジュースを飲み込むと、お腹を抱えて大爆笑し始めた。

「あはははは! 手だけ全力で拒絶してる! 最高すぎるんだけど!」

『もー! ゆいぽんのバカ! せっかくのチャンスだったのに!』

 健太郎さんの大きな笑い声と、ソニアの文句。そして私の疲労感。ドタバタとしたリビングには、温かくて幸せな空気が流れていた。


+++


 それから数日後の、夜。

 健太郎さんが先にお風呂に入り、私はリビングで録画したドラマを見ながら、静かな時間を過ごしていた。

 すると、脳内のソニアが不穏な気配を漂わせ始めた。


〈ねえゆいぽん……今、夫ちゃんお風呂入ってるよね?〉

(……そうですが、それが何か?)

〈アタシらも一緒に入ろーよ! お風呂に突撃!〉


 私は持っていたマグカップを落としそうになった。

(と、突撃!? お風呂に!? 何を言っているんですか! そんな破廉恥極まりない行動、絶対に許可しません!)

〈えーっ! 夫婦なんだから一緒にお風呂入るの普通っしょ!〉

(私たちは入浴時間を完全に分けていて、効率的にお湯を使用するシステムを構築しています。それに、突然乱入するなど……いくら夫婦でも恥ずかしすぎます!)


 私が頑なに拒否すると、ソニアはニヤリと笑ったような気がした。

〈ふーん? でもさ、ゆいぽんだって、本当はもっと夫ちゃんとイチャイチャしたいっしょ?〉

(なっ……!)

〈こないだだって、自分でセクシーな下着買ったじゃん。夫ちゃんと肌と肌で触れ合いたいって、ゆいぽんの心の奥底で思ってるの、アタシにはバレバレなんだからねー〉


 図星を突かれ、私は言葉に詰まった。

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