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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第4話 スーパーでの攻防

「一日一時間だけソニアを表に出す」というルール――私と健太郎けんたろうさんが名付けた通称『ソニアタイム』が始まって、数日が経過した。


 休日の昼下がり。私はリビングのテーブルにノートを広げ、完璧な買い物リストを作成し、効率的なスーパーの立ち回りルートを計算していた。今日は特売日だ。一分一秒の無駄も許されない。


(……よし。野菜コーナーから回って、鮮魚、最後は日用品ね。これで無駄なく買い出しができるわ)

〈ねえゆいぽん。どうせこれから買い物行くんでしょ? その前の1時間、アタシに体貸してくんない?〉


 脳内に響くソニアの軽い声。私は眉をひそめた。


(買い物前に? どうして?)

〈そ! アタシが1時間遊んだ後、そのままゆいぽんにバトンタッチして買い物に行けば、わざわざアタシのために別の時間を割かなくて済むっしょ? 時間の有効利用ってやつ! 超・合理的!〉


 なるほど。ソニアの言う通り、私のスケジュールの中にソニアタイムをシームレスに組み込めば、タイムロスを防ぐことができる。地方公務員たるもの、効率化は常に意識すべき課題だ。私はその合理的な提案にすっかり納得し、頷いてしまった。


(……いいわ。じゃあ、いつも通り1時間だけよ)


 私が許可を出した瞬間、カチリと頭の奥でスイッチが切り替わる明確な感覚があった。


『っしゃあ! 作戦大成功! ゆいぽん、チョロすぎ!』


 次の瞬間、私の体は弾かれたように立ち上がり、クローゼットの奥へと突進した。そして、先日捨て損ねたあのド派手なギャル服――フリフリのミニスカートと竹馬のような厚底ブーツを引っ張り出し、凄まじい早着替えを披露したのだ。


(ちょっと!? 何をしているの!)

『何って、外出るに決まってんじゃん! アタシだって外の空気吸いたいしー!』


 ソニアはルンルン気分で着替えを始め、スキップしながら玄関を飛び出した。


(騙したわね! そんな派手な服で外に出るなんて、私の品位が……お願いだから恥ずかしいから今すぐ戻ってちょうだい!)


 私が脳内でどれだけ絶叫し、怒りを訴え続けても、主導権を握ったソニアの足は止まらない。すれ違うご近所さんたちが、ギョッとした目で私(の体)を見ているのが視覚を通してダイレクトに伝わってくる。生き地獄だ。


 +++


 到着したのは、地元でお馴染みの『スーパーみどり』。


『よーし! 今日のディナーは、絶対にジャンボハンバーグ! あとスナック菓子もカゴに入れちゃおーっと!』

(ダメよ! 今日の夕食はアジの開きって決めているんです! 昨日から栄養バランスの計算をしているんですから!)

『うるさーい! アタシは肉が食いてぇの! 魚なんてテンション上がんないっしょ!』


 精肉コーナーの前で、私の右手ソニアが特大のジャンボハンバーグのパックへ伸びる。


(させないわよ……!)


 私は精神力を極限まで振り絞り、本来ならソニアタイム中は動かせないはずの左手に全意識を集中させた。ピクリ、と左の指先が動き、ハンバーグを掴もうとした右腕を手首のところでガシッと押さえ込む。


『ちょっ!? ゆいぽん、左手だけ出てくるとかマジでルール違反なんですけど!』

(あなたこそ騙し討ちで外出しておいて、どの口が言っているの!)


 スーパーの商品棚の前で、自分の右腕と左腕が激しい格闘を繰り広げる。右へ左へ、ギリギリと力比べをしながら不審な動きを続ける私の姿を、ベテランパートの吉田さんがレジから生温かい目で見守っていた。


「奥さん、今日は自分との戦いが激しいわねぇ。頑張ってね」


 吉田さんの大らかでのんびりした声に、私は羞恥心しゅうちしんで爆発しそうになった。穴があったら入りたい、いや、スーパーの冷蔵ケースの奥に引きこもりたい。


 攻防を続けること数十分。鮮魚コーナーの前に辿り着いた瞬間、ピピピッとスマホのタイマーが鳴った。1時間が経過したのだ。


『あーっ! マジか、ここでタイムアップ!? アタシのハンバーグがぁぁ!』


 ふっと体の重力が戻り、私は完全な主導権を取り戻した。肩で息をしながら、私は素早く当初の予定通りアジの開きをカゴに入れ、逃げるようにセルフレジへと向かった。


 +++


(……最悪。どうか職場の人にだけは見られませんように)


 私は、フリフリのギャル服という恐ろしく場違いな格好のまま、買ったばかりのアジの開きを抱え、顔を真っ赤にして家路を急いでいた。誰にも見られませんように、ひっそりと息を潜めて帰ろうと祈っていたが、マンションのエントランスで最悪の人物と鉢合わせてしまう。


「あら……? 瀬戸せとさんのところの奥様?」

 詮索好きの隣人、大河内おおこうちトメさんだった。いつもマンション周りの手入れをしている彼女の鋭い目が、私のド派手な服装を上から下まで舐め回すように見つめている。


「あ、ええと、これは……」


 私は必死に顔を隠しながら、しどろもどろに頭を下げて足早に通り過ぎた。背後から、「普段あんなに質素な結衣さんが、あんな派手なものを……? まさか今になって盛りが付き始めたのかしら!?」というトメさんのブツブツとした推理が聞こえた気がした。どうやら完全に斜め上の誤解を与えてしまったようだ。また一つ、頭の痛い問題が増えてしまった。

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