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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第28話 スマホケース

 私のスマートフォンは、購入した時のままの姿である。

 無駄な装飾やケースは一切つけていない。薄くて軽く、ポケットにスムーズに収まるその機能美こそが、工業製品として最も美しいと信じているからだ。地方公務員たるもの、持ち物にも質実剛健さを求めるべきである。


 しかし、そんな私のささやかな美学は、休日の『ソニアタイム』によってもろくも崩れ去ることになった。


『ねえねえおっとちゃん! あそこのスマホアクセサリーの店、超カワイイ! ちょっと見ていっていい!?』

 駅前のショッピングビルで、健太郎けんたろうさんと買い物中だった私の体(主導権はソニア)は、キラキラとした照明がまぶしい店舗へと吸い込まれていった。


「いいよ。そーぽよちゃん、スマホケース欲しかったの?」

『だってさー、ゆいぽんのスマホ、マジで裸一貫じゃん! 落としたら一発でアウトだし、何より全然盛れてない!』

(私は物を落とすような不注意な人間ではありませんし、スマホに『盛る』という概念は不要です!)

 脳内で抗議する私を無視して、ソニアは壁一面にズラリと並んだケースを物色し始めた。


『あ! これヤバい! 超絶カワイイんですけど!』

 ソニアが手に取ったのは、目が痛くなるようなショッキングピンクのモコモコした巨大なファーで覆われたケースだった。さらに、肩から掛けられるように、太くてギラギラしたゴールドのチェーンまでついている。もはやスマホケースというより、派手な小動物の背中か何かだ。


『夫ちゃん、これ買って! ね? お願い!』

 ソニアは健太郎さんの腕にすがりつき、上目遣いでおねだりを発動した。

「あはは、すごいインパクトだね。いいよ、買ってあげる。結衣ゆいのスマホ、落としたら危ないからね」

(健太郎さん! そんな毒々しいケース、市役所に持っていけるわけがありません! 絶対に買わないでー!)


 私の絶叫もむなしく、健太郎さんは面白がってその巨大なファーケースをレジへと持っていってしまった。

 そしてソニアは、買ったばかりのケースを嬉々として私のスマホにカチリとはめ込んだ。


『うっひょー! マジ最高! これでアタシのテンションも爆上がりっすよ!』


 +++


 帰宅後。

 タイマーが鳴り、一時間のソニアタイムが終了した。


「……っ」

 頭の奥でスイッチが切り替わり、主導権を取り戻した私は、手元にある異様な物体を見て深い絶望に包まれた。

 ピンクの巨大な毛玉から、ゴールドのチェーンがじゃらじゃらと垂れ下がっている。これが私の、あの機能美にあふれていたスマートフォンだというのか。


(……一刻も早く、こんな不適切な装飾は排除しなければ)

 私は冷静にケースの端に指をかけ、力を込めた。

「……あれ?」

 外れない。どれだけ力を入れても、ケースはスマホにガッチリと食い込み、微動だにしないのだ。


「健太郎さん、すみません。このケース、非常に硬くて私では外せないので、お願いできますか?」

「外しちゃうの? せっかく買ったのに? ふふっ、なーんてね。貸してごらん」

 健太郎さんが笑顔で引き受け、ケースを両手で掴んで力を込めた。


「んっ……あれ? これ、本当に硬いな。どうやってはめたんだ?」

「フンッ……!」

 健太郎さんの腕の筋肉が隆起する。その瞬間、ミシッ……と、スマホの画面から不吉な音が鳴った。


「ストップ! ストップです、健太郎さん! これ以上は画面にひびが入ります!」

 私は慌ててスマホを奪い返した。

 なんという精密なフィット感、いや、悪魔のようなホールド力だ。無理に外そうとすれば、間違いなく本体が破壊される。


「ご、ごめん結衣。これ、一度はめたら専用の工具でもないと外れないタイプかもしれない」

「そ、そんな……」

 私はピンクの毛玉と化したスマホを抱きしめ、絶望のまま、月曜日の朝を迎えることになってしまった。


 +++


 豊春県とよはるけん緑川市みどりかわしの市役所、戸籍住民課。

 月曜日の朝、私は自分のデスクに座りながら、極度の緊張状態にあった。


 私の更衣室ロッカーの奥深くには、あの『巨大なピンクの毛玉』が息を潜めている。

 公務員として、こんなふざけた私物を職場に持ち込んでいると知られたら、これまで築き上げてきた『完璧な窓口担当』としての威厳が粉々に砕け散ってしまう。

 私は休憩中にスマホを確認する際も、まるで危険な爆発物を扱うかのように、ロッカーの中でこそこそと画面をタップしていた。


(ふぅ……なんとか午前中は乗り切りました)

 お昼休憩の時間になり、私は水分補給のため給湯室へと向かった。

 誰もいないことを確認し、私はポケットからそっとピンクの毛玉を取り出した。ニュースをチェックするためだ。ファーが邪魔をして、画面の端の文字が非常に打ちづらい。


「……瀬戸せと先輩?」

 背後から不意に声がして、私は心臓が口から飛び出そうになった。

 振り返ると、そこには新卒一年目の後輩、星草ほしくさララが立っていた。彼女は手にお弁当の包みを持ったまま、私の手元――正確には、私が握り締めているピンクのファーとギラギラしたゴールドのチェーンを、信じられないものを見るような目で見開いて凝視していた。

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