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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第23話 夫の同僚

『あー、歌いすぎでのど渇いた! ねえ夫ちゃん、あそこのデパート行こ!』

 カラオケを出た後、ソニアが向かったのは大型デパートの一階、化粧品売り場だった。

 きらびやかな照明の下、様々なブランドのコスメが並んでいる。


『うわー、この新作のリップ、超カワイイ!』

 ソニアが手に取ったのは、私の普段のメイクでは絶対に選ばない、鮮やかなコーラルピンクのリップスティックだった。

(ソニア、そんな派手な色は市役所の窓口業務には不適切です。絶対に買いませんよ)

 私が脳内で釘を刺すと、ソニアはニヤリと笑った。


『ねーえ、夫ちゃーん。これ、アタシに似合うと思う?』

 ソニアはリップを自分の唇の横に当てて、上目遣いで健太郎さんを見つめた。

「うん、すごく似合ってるよ。そーぽよちゃんの明るい雰囲気にぴったりだ」


『ホント!? じゃあさ、これ、夫ちゃんに買ってもらいたいなー。ダメ?』

 ソニアは健太郎さんの腕にすがりつき、甘ったるい声でおねだりをした。

(こ、この図々しい女……! 健太郎さん、そんな無駄遣いをしてはダメです! 私たちのマイホーム貯金が!)


 しかし、健太郎さんは少しも嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうに頷いた。

「いいよ。今日はそーぽよちゃんとの初デートの記念だしね。プレゼントさせてよ」

『やったー! 夫ちゃんマジ大好き! チュッ!』

 ソニアは健太郎さんの頬に、大きな音を立ててキスをした。


(なっ……!?)

 公衆の面前での、突然のキス。

 私は意識だけの状態で、恥ずかしさと怒りと、そして強烈な嫉妬で爆発しそうだった。


 健太郎さんは少し照れたように頬を掻きながら、美容部員さんにクレジットカードを渡した。

「……これを、お願いします」

「かしこまりました。彼女さんへのプレゼントですね、とてもお似合いですよ」

 美容部員さんの言葉に、健太郎さんは「ええ、まあ」と曖昧あいまいに笑って答えた。


 買ってもらったばかりの明るい色のリップが入った小さな紙袋を、ソニアは宝物のように大事に抱きしめた。

(……私にこんな色は似合わない。一生使うことなんてないのに)

 私は脳内で強がってみたものの、健太郎さんが『私(の体)』のために買ってくれたプレゼントが、本当は少しだけ嬉しくて、でもそれを素直に喜べない自分がひどく惨めだった。


 初めて体験した『スーパーソニアタイム』は、私に今まで知らなかった外の世界の楽しさと、そして、今まで感じたことのない深い嫉妬心を植え付けることになったのだった。


 +++


 繁華街の喧騒を抜け、私たちは駅に向かう帰り道を歩いていた。

 ソニアはすっかり満足したのか、健太郎けんたろうさんの腕に抱きつくようにしてご機嫌な鼻歌を歌っている。

(もうすぐ七時間……長かった、本当に長かった……)

 私は意識の奥底で、疲労と安堵、そして得体の知れないモヤモヤとした感情を抱えながら、タイマーの終わりを待ちわびていた。


 その時だった。

「あれ? 瀬戸せと? お前、瀬戸じゃないか?」

 背後から、不意に健太郎さんを呼ぶ声がした。


 健太郎さんが振り返ると、そこには見覚えのある男性が立っていた。少し長めの前髪をワックスで散らし、休日のカジュアルな服装でもどこかチャラい雰囲気を漂わせている。

 健太郎さんの勤務先「株式会社クロス・ソリューションズ」の法人営業部の同僚であり、同期の馬場ばば翔太しょうたさんだった。


「ば、馬場!? お前、なんでこんなところに……」

 健太郎さんの顔から、サッと血の気が引くのがわかった。

 無理もない。今の健太郎さんの腕には、ヒョウ柄のキャミソールに超ミニのショートパンツ、そしてけばけばしいギャルメイクを施した『謎の派手な女』がピッタリと張り付いているのだから。


(あああああ! 最悪です! よりによって、社内で一番噂話が好きな馬場さんに遭遇するなんて!)

 私は脳内で絶叫した。


 馬場さんの視線は、健太郎さんから、腕に絡みつくソニアへと移り、その目がこれでもかと見開かれた。そして、馬場さんは健太郎さんの耳元でヒソヒソ話を始めた。

「おいおいおい……瀬戸、お前……。確か、奥さんって市役所勤めのすごく真面目でおとなしい人じゃなかったか?」

「あ、いや、これはその……」


『えっ? おっとちゃんの会社の人? チッスー! アタシ、そーぽよ!』

「そ、そーぽよ!?」


 ソニアの能天気な挨拶に、馬場さんは完全に引いた顔をした。

「お前……奥さんがいるのに、休日の真昼間からこんな派手な女と浮気してんのか!? しかも『そーぽよ』って、なんだそのふざけた源氏名みたいなのは!」

「違うんだ馬場! 浮気じゃない! これは妻なんだけど、妻の中のそーぽよさんで……いや、脳内にギャルがいて、今日はスーパーソニアタイムで……!」

「はあ!? お前、言い訳が支離滅裂すぎてヤバいぞ。どうしちゃったんだよ?」


 健太郎さんの必死の弁明も虚しく、馬場さんの目は完全に『最低のクズ男を見る目』になっていた。

「見損なったぞ、瀬戸。お前がそんなヤツだったとはな。……じゃあな、俺は用事があるから」

 馬場さんは呆れ果てたように首を振り、足早に去っていってしまった。


「待て、馬場! 誤解だーっ!」

 健太郎さんの悲痛な叫びが、夕暮れの街に虚しく響き渡る。

(終わった……! 健太郎さんの会社での社会的信用が、完全に終わりました……!)

 私は絶望のどん底で、頭を抱えてうずくまりたかったが、主導権を握るソニアは『夫ちゃん、ドンマイ!』と軽く肩を叩いているだけだった。

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