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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第21話 スーパーソニアタイム

 義母である瀬戸せと芳江よしえママの襲来という、我が家における未曾有みぞうのディスコ・パニックから数日後のこと。

 私は市役所での窓口業務を終え、自宅のリビングで健太郎けんたろうさんと夕食後のほうじ茶を飲んでいた。


 穏やかな時間。テレビからはニュース番組の淡々としたアナウンスが流れ、私は地方公務員としての完璧な日常を取り戻したことに安堵あんどしていた。

 しかし、そんな平和な時間は長くは続かなかった。


〈ねえねえ、ゆいぽーん〉

 脳内に、甘ったるい猫撫ねこなで声が響き渡る。

(……嫌な予感しかしません。今度は何ですか、ソニア)

〈そんな警戒しないでよー。アタシ、すっごく合理的で天才的な提案があるんだけど!〉


 合理的という言葉は私の好物だが、ソニアの口から出ると途端に胡散臭うさんくさくなる。

〈アタシさ、毎日一時間のソニアタイムをもらってるじゃん? でも一時間ってマジであっという間なんだよね。ちょっとメイクして遊んだらすぐ終わっちゃうし〉

(それは私と健太郎さんの生活リズムを守るための、大切なルールです)

〈だからさ、提案! 明日から一週間、アタシはソニアタイムを我慢します! その代わり、週末の休日にその七時間分をまとめて使わせて! 名付けて『スーパーソニアタイム』!〉


(……は?)

 私は持っていた湯呑みを落としそうになった。

 七時間。それはつまり、ほぼ丸一日、私の肉体の主導権をギャルに明け渡すということを意味する。家の中だけで完結するはずがない。


(却下します! 七時間もあなたが表に出たら、絶対に外出してトラブルを起こすに決まっています! 私という地方公務員の社会的な死を招きかねません!)

〈えーっ! ケチ! ちゃんと時間は守るってば! ねえ、一回くらいパーッと外で遊びたいじゃん! お願い!〉


 脳内でジタバタと暴れるソニアに耐えきれず、私はため息をついて隣に座る健太郎さんを見た。

「……健太郎さん。ソニアが、一週間分のソニアタイムを貯金して、休日に七時間まとめて使いたいと……とんでもない要求をしてきているんですが」

 私は「もちろん反対ですよね?」という同意を求める視線を送った。


 しかし、健太郎さんは少し驚いたように目を見開いた後、ふっとヤンチャな男子のような笑顔を浮かべたのだ。

「へえ、スーパーソニアタイムか。いいんじゃないか? 面白そうだし」

「……えっ?」

「そーぽよちゃん、ずっと家の中か、近所のスーパーかコンビニくらいしか行けてないだろ? たまには思い切り外で遊ばせてあげてみたら? 俺もそーぽよちゃんとゆっくり出かけてみたいしね」

「け、健太郎さんまで何を言っているんですか! あの派手な格好で街を歩くなんて、もし知り合いに見られたら……!」


「大丈夫だよ、俺がちゃんとエスコートするから。それに、結衣もたまには息抜きが必要だろ? 意識は共有してるんだから、結衣にとっても休日のお出かけになるじゃないか」

 そう言って、健太郎さんは私の頭を優しく撫でた。


〈っしゃあ! おっとちゃんマジ神! 愛してる!〉

 脳内でソニアが歓喜の悲鳴を上げる。

 夫に「いいんじゃないか」と笑顔で勧められてしまっては、私がこれ以上反対する理由はなくなってしまった。


(……わかりました。ですが、外出時の服装や行動には細心の注意を払うこと。少しでも私の社会的地位を脅かす事態が発生した場合は、七時間経っていなくても強制的に主導権を奪還しますからね!)

〈り、り、り、おけまる! マジ楽しみー!〉

 こうして、週末の『スーパーソニアタイム』という名の、前代未聞の長時間デートが決行されることになったのだった。


 +++


 そして迎えた、運命の休日。

 朝からスーパーソニアタイムを発動させた私の体は、洗面台の鏡の前で凄まじい執念を燃やしていた。


『よーし! 今日は気合入れてくよー!』

 ソニアは、普段の私が絶対に使わないようなカラフルなアイシャドウを塗りたくり、目の周りを真っ黒なアイラインで囲んでいく。さらに、鳥の羽のようにバサバサの長いつけまつげを装着し、唇にはぷるぷるのピンク色のグロスをたっぷりと塗った。


(……鏡を見るのが恐ろしいです。完全に別人の顔じゃないですか)

〈何言ってんの、マジで盛れてるっしょ! 最高にカワイイじゃん!〉

 メイクを終えると、次は着替えだ。クローゼットから引っ張り出してきたのは、義母から頂いたヒョウ柄のキャミソールに、極限まで丈の短いデニムのショートパンツ。そして足元は、当然のように竹馬のような超厚底ブーツである。


『じゃじゃーん! 夫ちゃん、どう!?』

 リビングで待っていた健太郎さんの前に飛び出すと、彼は目を丸くして感嘆の声を漏らした。

「おお……すごいな。本当に、いつもの結衣とは完全に別人で、街ですれ違っても絶対気づかないよ。すごく似合ってる」

『っしょー! 夫ちゃんも今日の服、超イケてる!』


 健太郎さんは、いつもより少しカジュアルでスタイリッシュなジャケットスタイルだった。並ぶと、なんだかとてもアンバランスなカップルに見える。

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