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夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


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第2話 一日一時間ルール

「私、頭の中にギャルが住んでいるんです」

「……うん?」


 健太郎さんの顔から、完璧な営業スマイルが抜け落ちた。瞬きを忘れ、口を半開きにして私を見つめている。


「名前は『ソニア』と申します。私が中学二年生の時、両親からの理不尽な説教に耐えきれず、現実逃避のために無意識に生み出したイマジナリーフレンドです。それ以来、ずっと私の中だけで会話していたんですが……最近、彼女の自我が強くなってきていて、表に出たがっているんです」


 長い沈黙が降りた。リビングの時計の秒針の音だけがやけに大きく響く。

 当初、健太郎さんは精神病を疑ったようだった。無言でポケットからスマートフォンを取り出すと、ものすごいスピードでフリック入力を始める。画面をチラリと見ると『多重人格』『統合失調症』『幻聴原因』といった物騒な検索ワードが並んでおり、彼がすぐにスマホで色々調べているのがわかった。


「け、健太郎さん、違います!私は正気です!」

「結衣、落ち着いて。最近、職場で強いストレスを感じたとか、夜眠れないとかある?僕以外の声が聞こえたりする?」


 健太郎さんは真剣な眼差しで、まるで優秀なカウンセラーのように私に細かく聞き取り調査を始めた。


「ありません。声はソニアだけです。彼女が話している間も意識は完全に共有していますし、記憶が飛ぶこともありません。幻覚も見えません。現実と妄想の区別は完全にわきまえています」


 私は理路整然と、これまでの生い立ちやソニアの性質、そして自分の精神状態がいかに正常であるか、今まで一度もおかしな言動は無いことを必死に説明した。

 数十分ほど質疑応答を繰り返すうちに、私の説明や回答で納得したのか、健太郎さんの強張っていた表情が徐々に緩んでいった。


 +++


「なるほど。つまり、結衣の脳内にはもう一つの独立した人格みたいな親友がいると。そして、今まで一度もおかしな言動を起こしたことはない、と」

「はい。これまでは私が完全に抑え込んでいました。でも、最近ソニアの自己主張が激しくて……」


 やがて、彼は顎に手を当てていたのを下ろし、真剣な眼差しで私を見た。

「わかった。結衣の言うことを信じるよ。でも、その『ソニア』ちゃんが急に表に出てきて、外でトラブルを起こしたら大変だ」

「……はい。だから、私が必死に抑え込んで……」

「なら、まずは僕の目の前で、一日一時間だけ時間を区切って交代してみるのはどうかな? いわば安全確認のテストだ。結衣の大切な親友なら、僕もちゃんと挨拶して、どんな子なのか知っておきたいしね」


 敏腕営業マンの彼は、あっさりとこの異常な状況を受け入れ、あろうことか「一日一時間」の交代ルールを提案してきたのだ。


〈マジ!?夫ちゃん超話わかるじゃん!神!アタシ、一時間も外に出れんの!?〉


 脳内でソニアが歓喜の悲鳴を上げる。


「で、でも……もし彼女が何か迷惑をかけたら」

「やってみようよ。僕も、結衣の大切な親友に挨拶したいしね」


 健太郎さんの面白がるような、けれど限りなく優しい笑顔に押し切られ、私は小さく頷くしかなかった。


 +++


(じゃあ……ソニア、いいわよ。一時間だけよ)


 私が脳内で許可を出した瞬間、カチリと頭の奥でスイッチが切り替わる明確な感覚があった。


 次の瞬間、私の右手は無意識に持ち上がり、やたらと前髪を触り始めた。私自身の意思は行動神経から完全に切り離され、意識だけの金縛り状態に陥る。


『マジ!?やっほー!夫ちゃん、初めまして!アタシ、ソニア。そーぽよって呼んでよ!ヨローッス!』


 自分の口から、普段の私なら一生発することのない甲高い声と、軽薄なギャル語が飛び出した。健太郎さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに敏腕営業マンの適応力を発揮して、面白そうに破顔した。


「初めまして、そーぽよちゃん。健太郎です。よろしくね」

『うわ、なま夫ちゃんと会話できてるよ! それにしてもこんないい男、ゆいぽんには勿体無いくらいなんだけどー!』

「あはは、ありがとう。そーぽよちゃんも元気で可愛いね」


(ちょっと!初対面で馴れ馴れしすぎよ!健太郎さんも、適当におだてないでください!)

 私は五感を完全に共有する脳内で、必死にソニアへツッコミを入れた。しかし、彼女に乗っ取られた肉体は私の制止など意に介さず、健太郎さんの肩をバシバシと遠慮なく叩いている。健太郎さんも怒るどころか、この異常事態を心底面白がって話を合わせていた。


「それで、結衣は今どこにいるの? 結衣もこの会話を聞こえているのかな?」

 健太郎さんは、まるで新しいシステムの仕様を確認するかのように、少し探るようなトーンで尋ねた。


『アタシの中だよ! ゆいぽんもバッチリ聞いてるよ。てか、さっきから「初対面で馴れ馴れしい」とか「夫を叩くな」って、脳内でめっちゃ怒ってんだけどー!』

(ちょ、ソニア!心の中のツッコミを勝手に代弁しないでください!恥ずかしいじゃないですか!)


「あはは、なるほど。意識は完全に共有しているんだね。……じゃあ、テストでもう一つ質問していい?僕と結衣の初デートはどこだった?」

『は?そんなのゆいぽんに聞かなくてもアタシだってわかるし!ゆいぽん提案の図書館でしょ?』

(……っ!やめて、その話題は!)

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