表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫が私のイマジナリーフレンドと浮気しているようです ~清楚で堅実な私と、脳内ギャルの親友。夫が愛しているのは、さぁどっち?~  作者: 団田図


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/38

第14話 限界の理性

(もう嫌……早く、早く一時間が経過して……!)

 私は強烈な羞恥心と、それ以上の『別の感情』に支配され、ひたすらタイマーが鳴るのを祈り続けていた。

 健太郎さんもまた、同じ気持ちだったに違いない。彼は何度も視線を彷徨さまよわせ、「あ、あの、そーぽよちゃん、もう十分だから……」と逃げ腰になっている。


 しかし、そこは空気を読む天才であるギャルのソニアだ。

 この微妙な二人の変化に気づかないはずがなかった。


〈……ふーん。二人とも、完全にその気になっちゃってんじゃん。ウケるんですけど〉

 脳内でニヤリと笑う気配がしたかと思うと、ソニアはわざとらしく健太郎さんの耳元に顔を寄せた。


『えー? まだ時間たっぷりあるよ? 夫ちゃん、なんだか顔赤いけど、どうしたのぉ?』

 ソニアの指先が、健太郎さんの大腿四頭筋だいたいしとうきんをゆっくりと、なまめかしく撫で上げる。


「ひゃっ!? いや、その、暑いなーって……!」

『ふふっ、夫ちゃんの筋肉、カチカチに緊張してるよ? アタシのストレッチ、そんなに気持ちよかった?』


(ソ、ソニア……! これ以上彼をからかうのはやめなさい! わざとやっているでしょう!)

 脳内で激怒する私をよそに、ソニアはさらに健太郎さんの首筋に吐息を吹きかける。


「そ、そーぽよちゃん! 君は結衣の親友だから、そういうのは……っ!」

 必死に理性を保とうとする健太郎さん。その誠実さに胸を打たれると同時に、目の前で夫が自分以外の存在に誘惑されているという状況に、私の嫉妬心と独占欲は限界に達しようとしていた。


 +++


〈……よし、こんくらいでいっか。あとは若い二人で頑張りな!〉

 ひとしきり健太郎さんをからかい、私の限界を引き出したところで、ソニアは満足げに脳内でそう呟いた。


『あーっ、なんか急に疲れちゃった! ストレッチはこれでおしまい! アタシ、もう戻るわ!』

「えっ? まだ時間、全然経ってないけど……」

『いいのいいの! 夫ちゃん、あとはゆいぽんをよろしくね!』


 その唐突な捨て台詞とともに、頭の奥でカチリとスイッチが切り替わった。

 予定より大幅に早い、主導権の返還。


「……っ、はぁ、はぁ……」

 急に体に重力が戻り、私はラグの上に崩れ落ちそうになった。全身はうっすらと汗ばみ、心臓は早鐘のように打ち鳴らされている。

 リビングには、静寂だけが落ちていた。

 すぐ目の前には、仰向けになったまま荒い息を吐く健太郎さんがいる。


「……結衣?」

 健太郎さんの少しかすれた声が、私の鼓膜を震わせた。


「……健太郎さん。腰は……大丈夫ですか」

 私は顔から火が出そうなのを必死に堪えながら、震える声で尋ねた。


「あ、ああ。不思議と、痛みが嘘みたいに消えたよ。……結衣の方こそ、大丈夫?」

 健太郎さんがゆっくりと身を起こし、私の頬にそっと手を伸ばす。その熱い手のひらが触れた瞬間、私の中でギリギリ保っていた良妻としての理性の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。


「……全然、大丈夫じゃありません」

 私は自分でも驚くほど甘い声でそう言うと、自ら健太郎さんの胸に飛び込んだ。


「結衣……!」

 健太郎さんの腕が力強く私の腰を引き寄せ、二人の唇が重なる。

 寝室まで行く時間すら惜しかった。私たちはリビングのラグの上で、先ほどの魔のストレッチの余韻をそのまま引き継ぐように、汗だくのまま互いの体を激しく求め合った。

 ソニアが意図的に作り出した焦燥感しょうそうかんと嫉妬心がスパイスとなり、いつも以上に情熱的で、理性を忘れた熱い時間だった。


 +++


 翌朝。

「おはようございます、健太郎さん」

 私は清々しい朝の光を浴びながら、キッチンで完璧な栄養バランスの朝食の準備を整えていた。身も心もすっきりとリフレッシュされ、今日は一段と仕事がはかどりそうだ。


「……おはよ、結衣……」

 寝室から、ひどく掠れた声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには壁に手をつき、腰を「く」の字に曲げたまま、生まれたての小鹿のようにプルプルと震えている健太郎さんの姿があった。


「健太郎さん!? どうしたんですか、その不自然な姿勢は!」

 私が慌てて駆け寄ると、彼は泣きそうな顔で私を見上げた。


「……ごめん。昨日、結衣があんまりにも可愛くて……頑張りすぎたみたいで……。また腰、痛めた……」

「……っ!」


 その情けない告白に、私は朝から顔を真っ赤にして絶句した。

 せっかくソニアの魔のストレッチで治った腰痛を、その後のハプニングで自ら再発させてしまうなんて、全く非合理的極まりない。


〈あはははは! 夫ちゃんマジウケる! アタシのストレッチ、完全に無駄になってんじゃん!〉

 脳内で腹を抱えて爆笑するソニアの声を無視しながら、私は深く長いため息をついた。


「……わかりました。朝食の前に、湿布を貼りますから。ソファに横になってください」

「うう……結衣、ごめん……湿布、冷たいやつでお願い……」


 私は呆れながらも、この愛すべき誠実な夫のために、救急箱から湿布を取り出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ