宇宙より、もたらされしもの
蒼介と夏映は、再び病院に向かった。夏映の恋人を担当するドクターに会い、恋人を地球に連れていけないか直談判するのである。予約を取ったわけではないので、受付のロボットにしばらく待つよう申し渡された。
待合室の片隅で医師が来るのを待つ間、夏映が彼氏の話をはじめる。
「大翔はね。宇宙から来たウィルスに感染したの」
「宇宙から来たウィルス?」
蒼介は、思わず大きな声を出して聞いてしまった。あわてて周囲を見渡した。感情抑制剤の効果はとっくに消失したので、すでに普通の心理状態になっている。
「そうだね」
夏映は冷静な口調で続ける。
「一色さんもご存じの通りチャマンカ人は地球来訪に先立って、あたし達の故郷の星に多数のドローンを投下していた」
「ああ、そうだな」
蒼介は『来訪』じゃなくて『侵略』だろうと突っ込みたかったが、そこは抑えた。チャマンカ帝国は言論の自由を認めており、政府に批判的な話をしても連行されたりしないのだが。
「ドローンの中にウィルスが付着していたのよ。投下に当たり事前に消毒したそうだけど、それでも生き残っていたみたい。そのウィルスが運悪く、大翔に感染したってわけ。特殊なウィルスで急速に死をもたらすので現在彼は冷凍睡眠状態にしてるってわけ。チャマンカ帝国の医療でもこのウィルスを排除できないの。ショードファ人の医療なら治療できるかもしれないって先生に言われたけど」
「捕虜収容所のショードファ人には聞けないの?」
「今回それを聞こうとしたけど運悪くクーデター騒ぎが起こって、捕虜収容所にいた人達は全員逃げちゃったみたいだし」
「確かにな……なら、こうしよう。もしかするとアース・パルチザンの雫石結菜に連絡が取れるかもしれないんだ。君の恋人が治療できるかどうか聞いてみよう」
「本当に!?」
普段は氷のようにクールな夏映が似合わぬ大声をあげた。彼女が蒼介の両肩をつかんできた。
「お願いだから、そうしてくれる?」
宝石のような2つの目が、潤んでいる。
「そうしてくれるなら、あたしあなたに何でもする」
夏映が蒼介の胸に、顔をうずめた。いつもよりも、彼女が細く小さく見える。
相田一佐は慣れない宇宙での戦闘に苦労していた。90隻まで減った敵艦隊は、その後地球側の反撃で13隻を虚空に沈め、77隻まで減っている。
一方地球人部隊の方は33隻まで減っていたが、さらなる敵の攻撃で中国艦が5隻、インド艦が1隻、インドネシア艦が1隻、パキスタン艦が1隻、ナイジェリア艦が1隻、ブラジル艦1隻の合計10隻が撃沈し、23隻になっていた。
残った艦の内訳は旗艦のチャマンカ艦1隻、インド艦11隻、中国艦6隻、日本艦、アメリカ艦、ロシア艦、メキシコ艦、フィリピン艦各1隻だ。
中国艦が一挙に5隻沈んだのは、果敢にも5隻が突出して前進し、奮戦の末の悲劇である。
日本艦はたまたま後方に配置されたから撃沈を免れたが、クーデター派の猛攻の前に、今後どうなるかわからなかった。




