拘束
当初は優勢に見えたマデリンカの部隊だが、だんだんクーデター派に押されているのが蒼介にもわかってきた。革命派のチャマンカ兵が乗るホバータンクが続々とかけつけてきているのだ。
やむなく蒼介と夏映はその場を逃げた。放置されたホバータンクがたまたま1台あったので、それに乗って戦線を離脱したのだ。
2人共チャマンカ軍に形式上は所属しているため指紋と網膜認証で、ホバータンクを自動操縦できた。そして、とりあえずホテルに戻る事にする。
あそこに行けばマイクロ・ワープ用の転送装置があるので、それに乗って地球に戻るつもりだった。
「収容所にいたアース・パルチザンの地球人達が心配だ」
蒼介が、つぶやいた。
「自業自得でしょ。自己責任じゃない」
夏映の反応は、冷ややかだ。
「俺の知り合いの女の子もいたんだよ。考え方は違ったけど、悪い子じゃなかった」
「雫石結菜でしょう? 地球全土にアイドルみたいな可愛いお顔を見せてたもんね。あの子に殺されそうになったのに、ずいぶん御寛大な話だね」
夏映の言葉には、アイロニーと反感がたっぷりと混じっていた。やがてタンクは目的地のホテルに戻る。他の宿泊客達は、すでに転送装置を使って大気圏外の観光用宇宙船にワープしていた。
「やっぱり、あたし行けない。彼を病院に置いてけない」
突然、夏映が発言した。普段の彼女とは別人のように、その声は震えている。星空のような両目から、清水のような涙が流れた。
「貴様の差し金だったとはな」
ガシャンテ大将は、眼前のバサニッカに向かって毒づいた。ズワンカ宇宙軍基地で反乱が起き、そこにいたガシャンテはクーデター派に拘束されてしまったのだ。
今は椅子に座らされ、両腕を後ろ手に縛られている。
「まさか現役の宰相が、クーデターを主導するとは思わなかったわ」
「これも帝国のためだ。民主制では、帝国の難局を乗りこえるのは不可能だ。貴様も1つ、我々と組まないか」
「見損なうな。俺はこれでも、民主制の守護神を任じていたつもりでな。独裁制を選択するなら、それこそ中世の封建社会と変わらんだろうが」
「そう抜かすと予想したよ」
バサニッカは不気味な笑みを浮かべると、その部屋を立ち去った。後に残されたチャマンカ兵がレイガンを抜き、その銃口をガシャンテに向ける。ガシャンテは口を開いた。
が、何かを声に出す前に、その胸に穴が開き、ありえない程大量の血が流れてゆく。チャマンカ帝国史に名を残す歴戦の勇士の最期であった。




