ズロッシャイ中佐
「チャマンカ星に恋人がいるの」
夏映が唐突に語りはじめた。
「日本にいる時原因不明の病気になって、その後チャマンカ人が来たの。チャマンカ人の医療でも治せず、地球よりも高度な医療を受けるためにチャマンカ星に送られたの。条件は、チャマンカ人の地球支配に協力すること」
「彼氏のお見舞いに行くってわけか」
「彼の両親からも、あたしの両親からも、諦めるように言われてる。でも、あたしには諦められない」
宝石のような瞳から、真珠みたいな涙がこぼれた。
考えてみればおかしな話だが、夏映が涙を見せるような女だとは思わなかった。
「ひまつぶしにチャマンカ星に行くのもいいか」
蒼介は、つぶやいた。
マンションに帰宅した蒼介は、夕飯を食べながら、チャマンカ製の3Dテレビを観る。ニュース番組では、和崎の死も取りあげられていた。
世界中から蒼介や和崎のようなゲーマーが全部で600人集められ、ドローンの操縦に関わったのだ。和崎のような地球人のゲーマーの戦死者が、全部で49人いたと発表された。
生き残ったゲーマーたちへの受勲式の様子も放映されたのだ。世界中から集まったさまざまな民族のゲーマーたちに、チャマンカ宇宙軍名誉勲章が授与された。実は蒼介も招待されたが、断ったのだ。
ショードファ人憎しで戦争に参加したが、チャマンカ人の勲章なんぞ、別に欲しくもなかったから。
ダラパシャイ星に住むズロッシャイ中佐の元へも、首都にあるチャマンカ総督府から、凱旋式への招待状が脳波通信で送られてきていた。
「おれは、奴らの元へはいかんぞ。占領軍の親玉に、甲羅のない足の裏を見せに行くつもりはない」
ズロッシャイは不機嫌に言い放つ。
弾みでちょうど飲んでいたコウラウシの乳から絞ったミルクの入ったアルミのカップを落とす。
カップは1・5Gの重力にもぎとられ、恐ろしい勢いで床に敷かれた毛足の長い絨毯の上に落下する。
そんな彼に、知らせが入った。部下がガッシャイ教授からの手紙を持ってきたのである。
脳波通信はチャマンカ人の総督がいる総督府に盗聴されているので、重要な連絡事項は教授は全て、助手に持たせた手紙によって行なっていた。手紙の封を開くと、ガッシャイ邸に来るよう促す招待状が入っている。
早速ズロッシャイは教授の助手が乗ってきた電気自動車に乗りこんだ。ちょうど雨が降りはじめたところである。
雨粒が地球やチャマンカではありえないほどの猛スピードで、弾丸のような勢いで落下する。
舗装されてないむき出しの地面の部分は、みるみるうちに機関銃で撃たれたように、穴だらけになった。
道路の左右に並ぶ木立は地球のよりも幹が太く、高さは低い。枝は短く、あまり左右に大きくは広がらなかった。
雨はすぐにやんでしまい、轟音をあげながら飛ぶジェット・バードの姿が見えた。
ジェット・バードは体内に溜めた脂肪の一部を燃焼させ、肛門とは別の場所にある噴出口から後方に燃焼ガスを出して飛ぶダラパシャイ原産の鳥である。
これにより高重力の惑星でも、飛行が可能なのだった。やがて車は教授の家に到着した。
ガッシャイ教授は表向きは政治に興味がないと思われているせいか、彼の屋敷に盗聴機はしかけられていなかった。
本当のガッシャイは反チャマンカのレジスタンス活動に関わるメンバーの1人である。
ダラパシャイ人は全身が甲羅に覆われ、ズロッシャイはサーモンピンクだがガッシャイの甲羅は水色だ。
「早速だがズロッシャイ中佐。君に我々パルチザンのリーダーから指示が来た。すでに招待状が来ただろうが、チャマンカ星の凱旋式に参加してくれ」
「冗談でしょう教授」
ズロッシャイは自分の口から、呆れた語調を消せなかった。
「真面目な話だ。実はバサニッカがクーデターを起こそうとしてるとの情報が入った。君は部下たちとチャマンカ星に行き、クーデター発生時の混乱に乗じ、現在チャマンカ星で捕囚となっているショードファ人達を解放するのだ。我々はショードファ人と連携し、ダラパシャイを、チャマンカの圧政から解放する」




