地球にて
ワキーファ准将は、投げつけられた階級章に違和感を覚えた。これは普通の階級章ではない。
ユニットバス以外はカメラで監視されてるので、ワキーファはそんな事には気づかなかったかのように階級章をテーブルの隅に置いた。
階級章からは暗号通信が、チャマンカ人のテクノロジーでは捕捉できないショードファ人独特の方法で、ワキーファの脳に届いている。
(ワキーファ准将、先程は失礼しました。自分はザースコ少佐です。自分はこの度クーデターに参加します。バサニッカがチャマンカ軍の一部の兵士を焚きつけて議会を占拠し、おのれが全権を握るつもりです。自分はその混乱に乗じ准将閣下含め、捕虜になった同胞達を救います)
(そんな言葉を、わたしが信じると思うのか? 貴様は我々を裏切ったんだぞ)
(その通りです閣下。だからこそバサニッカの裏をかけます。自分としては准将閣下と同胞達を救うのこそ禊ぎだと、考えてます。閣下にしても、我々を信じる以外の選択肢はないはずです)
確かにザースコの主張通りで、このままではワキーファは裁判の後死刑になるだろうし、銀河の各地に散らばった同胞達もどうなるかわからない。ザースコが、こんなことをするメリットはないのだ。
自分達を救うつもりがなければ、このままワキーファ達をほっとけば良いのだから。
(わかった。貴様を信じてみよう。何か計画はあるのか? わたしにできることはあるか?)
(しばらく、お待ちください。追って連絡を入れます)
そこで暗号通信が、切れた。
地球に戻った蒼介は、再び野菜工場で働きはじめた。昼休みに社員食堂に行くと、なぜか夏映の姿がある。
「一色さん、話があるの」
2人は社員食堂の隅のテーブルで、定食を食いながら話しはじめた。
夏映のそばを通りかかった男性は、大抵彼女の方を見る。
「和崎君が亡くなった」
目を伏せながら夏映がそう言葉を紡ぐ。
「嘘だろ」
つい、大声になった。あんなエネルギーの塊みたいな青年が死ぬなんて、にわかには信じがたい。
「ホント」
夏映は長い、つややかなまつ毛を伏せながら、話をつないだ。
「和崎君の乗ってた軍艦、ショードファ軍の攻撃で撃沈したの。和崎君は助け出されたんだけど瀕死状態で、病院で治療を受けてたけど亡くなった」
それ以上口から何も出てこない。あのエネルギッシュな若者が死んだというのが瞬時に理解できなかった。
「あたしも嘘だと信じたい。でも、本当」
しばらく、重い沈黙が続いた。
「今日はもう1つあるの」
やがて夏映が言葉を発した。
「なんだい」
「チャマンカ星での凱旋式に出席してほしいの」
「悪いけど、それはご免被るな」
「どうして」
「別にチャマンカ星になんか行きたくない。そもそも大勢人のいる所にも行きたくない」
「人って言うよりクマだけどね」
夏映が苦笑いを浮かべた。
「あたしは行くつもり。1人で行くの寂しいから一緒に行ってほしい」
「他に行く人いないのか。そもそも行かないって選択肢はないのか?」
「行かないっていう選択肢は、あたしにはない」
夏映は真顔でこっちを見る。




