ワキーファ准将
「貴様らに1つ提案がある」
「なんですか? 宰相閣下」
ザースコ少佐はバサニッカに質問した。
「実はわたしはクーデターを計画している。ワキーファの裁判が始まる前にな。協力すれば、それなりの報酬を出そう」
ザースコ少佐の背後にいる3人がどよめいた。
「そこまで我々を信じてくださるのですか?」
「そうだな。完全に信じられる存在など、この世にはないのだとでも言っておこうか。それは愛するわたしの夫を含めてだ。貴様達をこの計画に使いたいのは、誰も貴様らがクーデターに参加するとは一考だにせんからだ」
バサニッカは、自信満々の笑みを浮かべる。
「おっしゃられてみれば、一理ありますな」
ザースコはバサニッカの大胆さに度肝を抜かれた。
「とは申しても、すぐには結論が出んだろう。4人でよく話しあえ。そしてチャマンカ時間で3日以内に返答をよこせ。それまでは特別な部屋にいてもらう。そこでクーデターの話をしても、一切他の人間には聞かれぬ場所だ」
4人はチャマンカ兵に連行され、窓のない一室に入れられた。そこにはトイレも風呂も人数分のベッドもあった。3Dテレビを観るのも可能である。
ショードファ人は1日4回食事をする習慣があるのだが朝と昼と夕方と夜、ショードファ風の料理が運ばれた。いずれも作りたての料理で、味も素晴らしい。
「ザースコ少佐、今度の件はバサニッカの罠でしょう。奴は我らをクーデターに協力させ、成功の後全員殺す計画です」
部下の1人が主張した。
「そうかもしれんが、我々には他に選択肢がない。クーデターに協力して、その後報酬をもらえるのなら、それに越した事はない」
大佐は答えた。その後大佐は他の3人からそっぽを向き、今度は暗号脳波通信で話す。この部屋が監視カメラで撮影され、会話も録音されていると想定してだ。
暗号脳波通信は口を一切動かさずとも発信できる。普通の脳波通信と違い、チャマンカ人に会話を傍受される恐れはない。
(わたしに考えがある。クーデターに協力すると見せかけて、ワキーファ准将と、捕囚になった同胞を救うのだ)
一方ワキーファ准将は、チャマンカ星の捕虜収容所にいた。ちょうど今、1人きりの昼食を終えたところである。
ロボットが食器を下げに来るタイミングで、2人のチャマンカ兵が現れた。
「ワキーファ准将、貴様に会いたいという者がいるのでお連れした」
兵士の背後から1人のショードファ人が登場した。右の胸に、ショードファ宇宙軍大佐の階級章が光っている。
ショードファ人は外見上は皆同じに見えるのだが、サイボーグ化されたかれらは1人1人が独自の識別信号を放っているので、ショードファ人同士なら区別がついた。他でもない。この男は、裏切り者のザースコ少佐だ。
「ザースコか」
ワキーファは、地球人なら鼻で笑ったと表現されるような笑い方をした。
「クマ共に寝返っておきながら、後生大事に階級章をつけてるとはな」
「うるさいわ」
ザースコは怒声を放つと左手で自分の階級章をむしり取り、ワキーファに向かって投げつけた。
「貴様らが徹底抗戦にこだわったので、多くの同胞が死んだのだろうが」
ザースコは、ワキーファを怒鳴りつけた。
「奴隷の平和がそんなにいいか? 自由がないなら、死んだ方がマシだ」
ワキーファが、落ち着きはらった語調で答える。
「それだけじゃないだろうが。準光速ミサイルをなぜ撃った。あれで大勢の非戦闘員が死んだ」
「ミサイルを撃ったのは、わたしの意思じゃない。上層部の判断だった。わたしはむしろ、反対したのだ」
さすがに少し苛立つ口調で、ワキーファが回答した。目の光が、いつもより赤く輝く。
「言い訳無用だ。今から貴様が死刑になるのが楽しみだわ。こんな物お前にくれてやる」
ザースコは床に落ちた階級章を拾うと、ワキーファの手に押しつけた。准将は、その触感が、普通の階級章と違うのに、すぐ気づいた。やがてザースコはワキーファを睨みつけながら、その場を去った。
そばでショードファ人同士のやり取りを見ていた2人のチャマンカ兵が冷笑を浮かべながら、食器を回収したロボットと一緒に部屋を出る。




