第十八話
林達が駅へ向かってから暫く経つ。
すぐに救助が来るとは思っていないがこの環境はやはり慣れない。そんな事を思いながら釜石は先程から会話をしている荻野に話題を振る。
「次の駅まで結構遠いんですかね?」
「どうでしょう? でも確か前の下弦駅から上弦駅までは結構長かったような気がします。それこそ一駅分飛ばしているかのように」
「へえー。そうなんですね。全然気にした事もありませんでした」
「普通そこまで気にしないですよね……。例え時間を気にしていたとしてもそこまで違和感を覚える程長い訳でもありませんし」
釜石は荻野の推察を頷きながら聞いていると、電車の隅で先程まで携帯電話をいじっていた帆秋が興味ありげに話しかけてくる。
「それ、なんでかわかる?」
「なんで、ですか?」
釜石は帆秋を見て少し気味悪さを感じたがその感覚を無視して帆秋に尋ねる。それに対して帆秋は釜石の質問に解答しない。要は自分で考えて結論を導けという事だろう。
帆秋の顔を見てそう感じた釜石は横に座る荻野の様子を確認する。
荻野は帆秋の質問について考えているようで少し頭を悩ませていた。
荻野と同じように考え事を始めた釜石はぼんやりと思い浮かんだ解答を口に出す。
「その区間だけ速度規制がある、とかですか?」
帆秋はそれに対して返事をせず、ただ首を横に振るだけだった。
その質問の後に今度は荻野が答える。
「下弦駅と上弦駅の間に車庫があるとかではないですか?」
しかしその解答に対しても首を横に振る。
「じゃあ、駅を建てられない区間だったとか?」
釜石は正解が気になり食い気味に帆秋にイメージした解答を答える。
帆秋はその解答を聞いて少しにやりとした後、二人に話しかける。
「二人とも惜しいけど少し違う。何なら二人とも私が話しかける前に答えを話していたじゃない?」
答えを話していた……?
唐突なヒントを参考に先程会話していた内容を思い出す。
駅まで遠い?
確か駅まで長かった。まるで一駅分を飛ばしているように。
気にしたことがなかった。
長いけれど違和感を覚えるほどではない。
……………………。
この中で答えになりそうなものといえば……。
そこまで考えて釜石は半信半疑ではあるが、帆秋に考えられうる解答をぶつける。
「下弦駅と上弦駅の間にもう一つ駅がある、とか?」
自分でも馬鹿らしい回答をしているなと、口にした後に釜石は後悔する。
しかし釜石のその後悔を嘲笑うかのように帆秋は、「正解よ」と言い切った。
「な!? ……本当ですか?」
「ええ、本当よ」
帆秋の自信に満ちたその表情はその話を信じる以外の選択肢を思考させない。そんな雰囲気を釜石は感じた。
しかし、簡単に飲みこかれてたまるかと釜石は帆秋に一つ質問を投げかける。
「ど、どうしてあなたがそんな事を知っているんですか? というかそもそもあなたの話が真実かわからない」
「なるほど。確かにそう言うわよね。まあ、信じるか信じないかはあなた達にお任せするわ。でも、一応自己紹介しておくわね」
「自己紹介? さっきしたじゃないか」
「ええ。でもあれは表向きの顔。私、オカルトサイトの運営をしているの。
さっきあなた達が面白そうな話をしていたから首を突っ込まずにはいられなくて話しかけさせて貰ったわ」
「オカルト、サイト?」
そういった類に興味のない釜石は聞きなれない単語に首を傾げる。
それをフォローするように荻野が解説を交えて帆秋に話しかける。
「確か、超科学的とかそう言った意味でしたよね? オカルトって」
「そうよ」
「でもそれと間に駅がある事にどう関係があるんですか? 鉄道に詳しい人と言うんだったら納得いくんですが」
それを聞いた帆秋は毅然とした表情をして荻野に言葉を返す。
「なるほど。そこを説明すればいいのね。じゃあ、観月駅の幽霊についてお話させて貰うわ」
帆秋は荻野の疑問にも動じる事なく、むしろ堂々としながら話し始めた。
「観月駅の幽霊。それは約五年前から噂が出始めた怪奇現象よ。その正体が弓張高校に通っていた小鳥遊詩音という女子学生だと言われているわ。
確か荻野先生は高校教師をされていたそうね? 何か御存じではないのですか?」
そう問いかけられた荻野は何かを隠すように下を向く。
釜石は林達が一度この電車に帰ってくる前の事を思い出す。確か荻野が教鞭を取っている高校は弓張高校と言っていたはずだ。つまり何か知っていてもおかしくない。
釜石も荻野の表情を見る。
そこには苦悶の表情が浮かんでいた。
「……私の口からは、言えません」
荻野は振り絞るようにこの言葉を口にした。
しかしこれだけ荻野を苦しめた帆秋自身は、「そう。まあいいわ」とあっさりと引き下がる。
「続きだけど、その女子生徒はなぜそのようになったと言われているのか。それは彼女が観月駅で殺されたからと言われているわ。
どうやら小鳥遊さんは高校の中でいじめられていたらしくて結構ひどい拷問みたいな事もされていたそうよ。そんなある時、そのいじめていたグループのメンバーの一人が正式に利用される前の観月駅の入口を見つけたみたい。その事がこの事件の引き金になったのよ」
話が少し止まったのを見計らって釜石が質問をする。
「少しいいですか?」
「ええ。どうぞ」
「どうしてそのいじめっ子達は観月駅の入口を見つけられたんですか? 幻の駅の入口という事は外からじゃ入りようがないでしょうに」
「確かにそうね。今は観月駅に入るには駅員達しか入る事は許されない。でも、当時は工事中という事もあってまだ入ろうと思えば入れたのよ」
もちろん犯罪だけどねと帆秋は付け加えた。
「そうですか。……ありがとうございます。続きをお願いします」
納得のいく説明を得た釜石は再度帆秋の会話に耳を傾ける。
「ええ。それでその時のいじめの内容だけど、観月駅のホームから小鳥遊さんを突き落としてホームに上れないようにしていたみたいね。
上ろうとしたらホームに掛けた手を踏むなり蹴るなりしてね。機能していない駅とは言えその駅にも電車は通る。暫くして小鳥遊さんのいる線路に電車が通過しようとしていたの。
もちろん小鳥遊さんはホームに這い上がろうとしたわ。でも、そのいじめていた人達は小鳥遊さんにこう言ったみたいね。
『ステイ。詩音』って。
小鳥遊さんはそう言われた瞬間に通過してきた電車に跳ねられたみたい」
そこまで言って帆秋は話を止めた。独特な話し方のせいか普通に話すよりも何割り増しかで怖い。この人は恐怖を煽る話し方を知っている。一連の話を聞いて釜石はそう感じた。
その恐怖に煽られたのか、それとも別の理由かは推察しかねるが、酷く疲れたような表情をした荻野が帆秋の話に対して意見を述べる。
「でもそれって本当ですか?」
「ええ、本当ですよ。あらゆる所から情報を調べて来ましたし、ある程度裏付けも取れています」
「でも所詮オカルトでしょう? オカルトって言葉を付ければある事ない事言いたい放題じゃないですか」
「言っていることは分かるわ。でも、私の場合はそれに当てはまらない」
「…………」
「そういう方の為に私が開設しているオカルトサイトでは信憑性についてランク別しているの。故にそこらに落ちている紛い物とはレベルが違うのよ」
荻野に責められているのにも関わらず落ち着いた雰囲気を取り続ける帆秋に釜石は尊敬の念すら感じた。
「もちろん。このいじめの方法についても色々と調べたし、そのいじめていた本人からもお話頂いたわ。ちゃんと身元も確認した上でね」
そこまで言われた荻野は完全に黙り込む。反論したくともその話題が見つからないと言った所だろう。もう少しまともな状況であれば何かあったのかもしれないが、この異質な状況、空間の中では仕方ないだろうなと釜石は考えていた。




