魔王との日常
鍋の中で山吹色の、ポタージュが沸々と煮立つ。昨日、スーパーで安売りしてたカボチャを使ったポタージュだ。
それを3つのスープ皿に分ける。同じテーブルには、大小の異なる弁当が包んである。
「沙雫兄ちゃん、おはよう」
「おはよう。顔洗った?」
「うん、パパに抱っこしてもらった」
「そっか。って、また我さきに食べてるし!!餓鬼か!!」
「せっかくの朝食が冷めてしまうだろう?」
イラっとくる。ドヤ顔やめろ、かっこいいじゃないか。って違う!そうじゃないだろ!
あれだけ離婚するとき有智の教育云々言ってた人が、子供より先にいただきますもせずに、食べてるとかおかしいだろ!
「カボチャのおいしー!これ好き!」
「ほんと?よかった。有智はちゃんと感想言ってくれるから嬉しいよ」
「なんだ?俺だって言うだろ」
「う……」
「そろそろ出るぞ」
もう高級車で学校に乗りつけるのも慣れた。
あの告白から数ヶ月。俺は元住んでたマンションを出た。
今は北条宅にど……同棲してます。もちろん有智と三人で。
もちろん周りには付き合ってる事実を隠している。有智には直球に言っていた魔王をぶん殴ったのは言うまでもない。有智は多分、まだ幼いからそれが冗談なのか、本当なのか……半分半分って所だと思う。
いろいろ悩んだ。告白されて、あのあとしどろもどろに俺も返事を返した。
好き、と。
あの時の殺人的な魔王の、幸せそうな微笑みは一生頭から離れないだろう。
同性だし、結婚はできない。けど俺はやっと、正真正銘の家族を手にしたんだ。それだけは胸を張って言える。魔王に負けないくらいのドヤ顔も付けて。
「わざわざ、保健室まで送らなくても……」
「何を言ってる?何の用もなく、ここまで送るわけないだろ」
「っ……馬鹿じゃないのか」
固く、鍵まで閉ざされた保健室。
今は朝のHR中。周りは静まり、校庭の方から、鳥の囀りが聞こえる。
荷物を置き、白衣に袖を通した俺の腕を、魔王----雄司さんが掴み、引き寄せた。
「んふ……っ……ん……」
「家じゃなかなかできないからな」
「はっ……だからって……ここで盛るなっんっ!?」
再び重なった唇と、密着して伝わる互いの体温。後数分で終わってしまう、その愛しい時間を少しでも長く味わいたい。
「ちょ……これ以上は……無理」
「そうか?……身体は欲しそうに疼いてるみたいだがぁっ……」
「調子のんな!仕事しろこの馬鹿!!」
危うく押し倒され、シャツを捲りあげられた所で蹴落としてやった。此処は保健室であって、不純行為は認めないからな!
「何をしようと……」
「何ってセ「教育的指導ー!!」……つれないな。家で我慢してやってるのに」
「昨日、有智が隣で寝てるのに襲ってきた!忘れたとは言わせないぞ!!」
「……チッ」
乱れた髪を後ろに撫で付けながら起き上がったその人の首に、腕を絡ませる。
そして、触れるだけのキスをする。
「いってらっしゃい」
「あぁ……今日は二人で有智を迎えに行こう」
保健室は……魔王の(愛の)巣。
お読みくださりありがとうございました。




