9. おじさんは爆笑した
最初予定していた場所を刈り尽くした、俺と坊っちゃんは、満足して昼食を摂った。
まぁ、朝の残りだが。
温め直して食べただけだが、最高に旨かったよ。
夕食まで持たせるつもりのスープが、空になっちまう程には食べたな。
坊っちゃんと2人で顔を見合わせて笑ってしまうのも、きっと想い出になるだろうさ。
「じゃあ、洗ってしまいますか」
「うん!あっ…ゼオ、これは?」
「石鹸豆と呼ばれている植物の実ですよ」
「石鹸豆?」
「洗い物に使うと油が良く落ちますね。他にも使い道があって、洗濯に使ったり、身体を洗ったりするのにも使います」
「へぇ~…」
「ちょっと洗い桶に水を入れて、石鹸豆を中で揉むと…」
「あっ、少し泡がでた」
「煮出したり、漬け置きして成分をじっくり出すともっといいのですがね。長持ちする物でもないので、これで油を落としますね?」
「うん。油ってヌルヌルが石鹸じゃないと取れないんだよね…凄いね、石鹸豆」
「はい。他にも石鹸の実とか、地方によって色々ありますよ?」
「そうなの?」
「石鹸が無い時代の知恵ですね。今も石鹸が手に入らない者はこれを使っています」
「そうなんだねぇ…」
前世で言うところのサイカチの実だ。
ムクロジも石鹸成分があって、代わりに使えると有名だが、サイカチにもその成分があるんだよ。
ラノベなんかによく登場するやつだ。
煮出しで使う液体石鹸だな。
河原とかで、よく見る木だったっけ。
赤い豆のさやみたいな実がなるんだよなぁ。
冬にポタポタ落ちてた記憶があるわ。
うん。
まともな知識も出てきて何よりだ。
洗い物も終わり、テーブルで一息。
「坊っちゃん。腹が落ち着いたら、食材を探しに出なきゃならないですよ?」
「だねぇ…アレだけは、ちょっとね…」
「ですねぇ…」
まぁ、なんとでもなるんだが。
坊っちゃんには、不自由を楽しんで貰いたいからな?
「畑の方はどうしようか…」
「畑起こしもしなきゃならないですねぇ…」
「木の根が凄そう…」
「ですねぇ…」
「生き延びるって、結構忙しいんだね…」
「んんっ…んふっ…確かに。確かに忙しいですねぇ」
噴き出しかけたよ。
坊っちゃんの感想はなかなか面白いが、納得もする。
生きる為に、やらなきゃならない事が多いのはたしかだからな。
妙に悟りきった坊っちゃんが言うと、ツボが刺激されちまって危ないわ。
「では、1つずつですね」
「うん」
「まず、鋤を使って土を掘り返し、木の根、草の根、石を除けてしまいましょう」
「暗くなっちゃわない?」
「食材を探す時間を考えて、できる所までにしましょう。残りは明日でも良いと思いませんか?」
「そうだね!明日もあるもんね!」
明日も明後日も。
時間の幅は結構あるんですよ。
「2人がかりですから、結構早目に終わるかもしれないですよ?坊っちゃんは筋が良いから、即戦力ですし」
「本当?」
「はい。私達3人で畑をやった際、役立ったのは村長だけでしたからね。村長の独り勝ちです」
「そうなの?」
「畑は村長独りで作り上げたと言っても過言では無いですねぇ」
「へぇ~」
「かなり悔しかったので、商会に戻った後、商会長と一緒に家庭菜園を作りましたが」
「ぶふっ!家の裏の所の?」
「はい。悔しさの結晶です。今は他の方達の担当になってますがね?サン坊っちゃんが生まれる頃辺りまで、商会長と一緒に作ってましたねぇ」
「へぇ~…そうだったんだぁ。父様もゼオも、できない事があったんだ…」
「できない事だらけでしたよ。そこが悔しくてね?」
「そうなんだねぇ…」
「さて。そろそろ畑を始めますか」
「あっ、そうだね!」
鋤を手に持ち、土を掘り返していく。
大変かな?と思っていた木の根は、これ位なら大丈夫との坊っちゃんの自己申告で身体強化を使った。
うん。
すんなり終わったよ。
根を集めてくる方が大変だった位だ。
「坊っちゃん、素晴らしいですよ。こんなに早く終わるなんて!」
「身体強化も少しずつ使えば大丈夫かなって…」
「良い判断ですよ。まだ半分以上は残ってますか?」
「多分?そんなに使った感じが無いから、大丈夫かな?」
「普段の生活で身体強化はどれ位使いますか?」
「あの…内緒にしてたんだけど、仲間と一緒に角兎狩りに行って…30分位で疲れがドシッときたんだ…」
「そうでしたか。30分位は、なかなか所か充分ですよ?素晴らしいです」
「…本当?」
「坊っちゃんは、魔力の配分が上手いんですよ。使うべき所で使い、必要ない所で止める。なかなか難しいのですよ?だから30分も疲れが出なかったんです」
「そうなのかな?」
そうです。
素晴らしい事です。
特に冒険者が必要とする使い方である事は、まだ言わない。
将来に偏りが出ちまうからな。
「ですが、その疲れは魔力がギリギリのサインで、倒れる前兆なので気を付けましょうか」
「…うん」
これだけは、気を付けなければならないからな。
生命に直結するから、どんな将来になろうとも必要な事なんだ。
坊っちゃんには、忘れないで貰いたい。
「では、気持ちを切り替えて。食材探しの準備をしましょう」
「うん。今度は、どこで探すの?」
「森の浅瀬か、今朝の場所までですかね。森の方は、この時間は長居を出来ませんから、サッと行ってスッと出ないとなりません」
「少しでも暗くなると、危ないから?」
「はい。危険な野生動物、下手をしたら魔獣が出る可能性がありますから、目で遠くまで確認できる内に引き上げます」
「…今まで、どんなのが出たの?」
「野良スライム、角兎、鹿、狐、森狼、ボア、熊、ゴブリンですかね…」
「えぇ…結構、怖いんだね…」
「はい。一応、魔物除けの石を敷地内に設置してますが、野生動物や興奮した魔物には効果が無いので、気を付けなければなりません」
「そうなんだ…」
危険が身近にあると怖いよな。
無力な自分達じゃ、無事な想像が出来なくなるし。
「ただ、刺激を与えなければ、割と切り抜けられますね」
「ぇ?」
「気付かれる前にソっと逃げるか。野生動物の場合、目が合ってしまったら、喧嘩の合図です。逸らさずソっと後退り、退却します」
「えぇ?追われないの?」
「無害アピールをしつつも、目を逸らした瞬間弱いと認識され攻撃をされますから。精一杯の力を視線に乗せておくと良いです。上手く行けば威圧のスキルが生える場合もありますからね」
「そうなの?」
「野生は、弱肉強食ですからね。威圧で勝てば良いんです」
「…倒せないの?」
どうにも出来ない生き物が直ぐ側で生活してると思うと怖いよな。
前世でも今世でも、その恐怖は変わらずあるんだよ。
特に前世での野生動物との対応の差もあるし。
前世での対応したら、即バッサァーッてなぎ倒されるからな。
一人前の冒険者じゃ無ければ、討伐は難しいかし。
ただ、難しいであって、無理では無いんだよな。
「…それは、時と場合と作戦次第ですよ」
「えぇ?」
「ボア肉は美味しいですからねぇ。作戦次第ですよ」
「えぇ…いけるんだ…」
「まぁ、はい。俺達は、ボアと対峙した際にそろって威圧スキルが生えまして…今思うと、食欲の勝利でしたね…」
「えぇ…」
あれ?坊っちゃんが引いてる気がする…?
「…まぁ調子に乗って、肉食生活で胃をやられたんですけどねぇ…」
「えぇ…」
…引いてるな。確実に引いてる。
「…その内、罠についても考えていきましょうか」
「そっか。罠かぁ。うん!」
「え?坊っちゃん?罠じゃ無かったら、どんな想像してたんですか?」
「え?いや、その…村長が野生化してたって…前に聞いたから…ね?」
「え?あ、はい。野生化してましたね…?」
「ボアに食い付く想像しちゃって…」
「ぶはっ?!」
「それで、ちょっと…ね?」
「ぶははははははっ!それはっ!ヒドいっ!ぶふっ!野獣じゃないですかっ!ははははは!」
「ぶふっ、野獣…ぶふっ!あははははは」
すまん、村長。
腹がよじれる位、笑わせて貰ったよ…
ぶふっ!ダメだ…!
笑いが引かないっ…!
ひとしきり笑い転げて、森の浅瀬は諦めた。
笑い過ぎて、時間が無くなったからだ。
…村長のワードが出ると、また笑いそうな位には2人のツボとして定着してしまったよ。
すまんな、村長。ぶふっ。
「ゼオ、サワガニも捕るの?」
「もし捕れたらですね。暗くなる前には戻りたいですから」
「うん。わかった」
木桶を持ち、河原まで歩く。
時々角兎が道を横ぎるが、追いかけて狩るには時間がたりない。
せめてボウガンがあれば、なんとかなるんだが。
ん?これはまだイケるかな?
目についた野草を麻袋に回収する。
「えぇ?そのトゲトゲ、食べれるの?」
「しっかり茹でれば、実は、食べれるんですよ」
前世ではアザミと言われていたトゲトゲの草。
これ、食べれるんだよ。
おひたしにしたり、味噌汁の具にしてな。
まぁ、スープの具かな?
「まだ大丈夫かな?サワガニ獲ってきていい?」
「はい。大丈夫ですよ」
「木桶、持って行くよ!」
10歳らしい行動にホッコリするなぁ。
伸び伸び成長していって貰いたいもんだよ。
「ゼオォ〜!早速2匹獲ったよぉ~!」
「素晴らしいです!夕飯は坊っちゃんにかかってますねぇ!」
「任せてぇ!」
明るい声が河原に響き渡るのも、久し振りなんだろうな…
向こう岸から、こっそり覗いている白い狐を見て思わず苦笑した。
子供好きの聖獣が覗きに来る位、元気な声が響いたか。
流石ですよ、坊っちゃん。




