8. おじさんは実感した
坊っちゃんと2人で、家の周りをグルリと見回る。
広さは充分にある。
土もなかなか良い。
黒に近い所を見ると、栄養豊富な土の様だ。
大変良い。大変良いのだが…
「…凄く生い茂ってるなぁ」
「…草の森みたいだよ?」
家の前までは草刈りがされているが、周りは凄く生えてる。栄えてる。
低木っぽいのも育ってる。
アレさ、アレ。
木のトンネル…
「木の道が出来てる!あっ、あの白いのって…」
「ト◯ロかっ?!」
「え?ゼオ、トロルは白くないし、デカいぞ?」
「あっ、いや、はははは…」
ろくでもねぇ前世の記憶が甦ったよ…
バツだろバツ。
お口にチャック。
出しちゃいけない知識です。
「あぁ…そりゃあな。30年近く経ってれば、こうなるか…」
「そんな前なんだ…」
「…30年丁度ではありませんからね?」
「…うん」
まぁ、商会長の歳を知ってればバレるがな。
参ったな、こりゃ。
「ねぇ、ゼオ。前はどうやったの?」
「……坊っちゃん。ヤサグレパワーですよ…」
「えぇ……」
「脳味噌が筋肉かな?って疑われる力を発揮してましたよ…」
「うわぁ…」
坊っちゃんが、凄い勢いで引いてるのがわかる。
わかるんだが…
「少しずつ刈って行くしか無さそうですね…」
「そう、なんだね…」
「…全部は無理ですから、ここって場所を決めましょうか」
「うん。これ位ってのを増やして行くと良いと思う!」
「なるほど。少しずつ増やしましょうか」
「うん!」
坊っちゃんのアイデアを採用し、第1畑予定地を決める。
家から遠く無い方が良いだろうと、家横2m程の所から畳3畳分位の広さを確保する事にした。
「坊っちゃん。身体強化は使えますか?」
「使えるけど、まだ余り続かなくて…」
「そうですね。まだ無理矢理使わない方が良いですね…」
「使い切ると強くなるって言われてるよ?」
「夜寝る前に使い切って休めば、少し増幅していきますが。今使い切ってしまうと、明日まで動けなくなりますよ?」
「あっ…」
「無理無く休み休みやりましょう」
「うん。倒れないよ!」
村長達が倒れてた場所を見ながら、坊っちゃんが宣言したよ。
うん。
屍を超えてこそだよな。
死んでないけど。
「柔らかい草は鎌で、木になりかけてるのはナタで刈って行きましょうか」
「うん!」
「どちらか使った事はありますか?」
「初めてだよ!」
「では鎌からやってみましょうか」
「うん!」
「では、まずは見ていて下さいね?」
「うん!」
1番手前の場所から開始するか。
「まず鎌を握ります。反対の手で草を1握り掴みます。刃をこの様に斜めに当てます」
「うん」
「右上から左下に向かって刃を入れます。手前に引き寄せる感じで、このように」
「うん」
「手首を効かせると良いですね」
「うん」
「では、やってみましょう」
「うん!」
坊っちゃんに鎌を渡すと、俺の言っていた事をなぞりながら実践していく。
筋が良い。
やっぱり坊っちゃんは何でもできるのだ。
真剣に話を聞いて、実践していく力はしっかりあるんだよ。
しかも出来も良い。
うちの坊っちゃんは天才だな。
「できたよ!」
「素晴らしく筋が良いです。1度でコツを掴んだみたいですね!」
「えへへへへ…草はここに積んでいく感じ?」
「はい。そちらで。俺もあちら側から刈っていきますね?刃に注意して、怪我に気を付けてやっていきましょう」
「うん!」
ザクッザクッと小気味良く音が響く。
単純な作業の繰り返しだが、集中すると熱中しちゃうんだよな。
おっさん、そろそろ腰が悲鳴を上げそうだから、1回タイムしたい所。
腰を伸ばし、坊っちゃんに声をかける。
「坊っちゃん。そろそろ1回休憩しましょう?」
「えっ?もう?あれ?」
坊っちゃんも頭を上げて気付いたみたいだな。
柔らかい草は、荒方刈り取ったんだよ。
鎌を置いて伸びをする俺を真似て、坊っちゃんも鎌を置き、伸び上がった。
「んんっ!なんか身体がミシミシする!」
「ははははは。同じ姿勢でいましたからね。身体が固まったんですよ。いっぱい伸ばしましょう!」
「うん!」
おっさんの身体はギシギシバキバキになってるが、若いって素晴らしいな…
「気が付いたら、こんなに進んでたんだねぇ…」
「集中すると、ついたくさん進めますからね」
「だから倒れるまでやっちゃったのかな?」
「ですねぇ…段々熱中して、いつの間にかかなりの地面を剥き出しにしましたからねぇ…倒れましたけど」
「ん…オレも倒れるまでやってそう…」
「…もう少し休みましょうか」
「…うん。そうしとく」
井戸で水を汲み上げ、顔を洗う。
ついでに坊っちゃんも。
水も飲んでから、坊っちゃんが気付いた。
「あれ?洗濯ってどうするの?」
「勿論、ここで洗いますよ」
「どうやって?洗濯場が無いよ?」
坊っちゃんが知ってる洗濯場は、商会の所と町の共同洗濯場だ。
スラムの子達は、洗濯の事を教えて無いな。
…まぁ、彼等は川に丸ごと飛び込んで丸洗いしてたからなぁ。
孤児院の子達は自前の洗濯場があったか。
「坊っちゃん。洗濯場があるのは、結構裕福な所なんですよ」
「そうなの?」
「はい。大体は、河原や井戸の側でやってますね。排水が井戸に向かわないよう気を付けながら」
「そうなんだぁ」
「明日は洗濯に挑戦してみましょうか」
「うん!」
「塩飴もどうぞ」
「ありがとう」
うん。色々考えてるな。
俺等の子供時代よりしっかりしてるかも知れない。
向かう方向が決まれば、そこに真っ直ぐ進めるだろうな。
良い事だ。
「さて、次はナタを使ってみます」
「うん!」
「ナタは主に枝払いに使う物です。これ位の低木ならば使えます。ちなみに大きな木を切る場合は、何を使うか知っていますか?」
「使った事が無いけど、斧やノコギリを使うよ!」
「はい。大きな木を切る時に試してみましょうね」
「うん!」
「では、まずは見ていて下さい」
「うん!」
目に付いたやつから払っていくか。
「基本的には鎌と一緒です。枝を左手で押さえ、右上から左下へ切り込みます」
「うん!」
「気を付けなければならないのが、左足です。ナタの勢いが増して振り下ろした際に当たる危険性があります。なので、左足は後ろに下げて行います」
「うん!」
「では、やってみますね?」
「うん!」
危険度が上がったと意識したのか、坊っちゃんの目が真剣そのものだ。
うん。
学ぶ体勢が素晴らしい。
「右手でしっかり柄を握り、左手で枝を押さえ。大体この辺りと目星を付けて、ふんっ。斜めに切りかかります。枝の繊維に真っ直ぐいくと刃が抜け辛くなるので、気を付けて。数回繰り返します。ふんっ」
「おぉ~!」
一気に武器度が増したせいか、坊っちゃんの入れ込み具合が凄いな。
武器になる道具って、どうしても男の子のテンションをくすぐってくるんだよなぁ。
3撃目で枝を払うと、坊っちゃんの期待が高まる。
残念ながら、もう少し見学です。
「別の切り方も見て貰いますね?」
「あ、うん」
少しショボンとしたが、表情がキュッと引き締まった。
流石は、坊っちゃん。
追加の注意も大事だとわかったんだな。
もう、天才じゃなかろうか?
「別の切り方と言っても、特殊なものではありません」
「うん」
「切り口が反対側になった場合です」
「うん?」
「右側から、切り込める隙間が無くなった場合はどうすると思いますか?」
「反対の手に持ち替える?」
「いいえ。握る手は、利き手から替えてはいけません。身体を移動させてから切り込みます」
「えぇ~!…そっか。危ないもんね」
「はい。1番簡単に安全を守れる方法ですね。では、どうぞ」
坊っちゃんにナタを渡すと、キラキラの良い顔になった。
ズシリとした鉄の重みに刃物特有の鈍い光が加わり、武器として使用も可能になる。
鎌よりも実戦に近付いた感覚があるからなのか。
坊っちゃんは、深呼吸してからナタを振るい始めた。
やはり切り込みが素晴らしい。
力の加減を変え、試しながら最適化していくのがまた素晴らしい。
「柄の握りが怪しくなったら、1度休めて下さいね?」
「うん!」
「俺も反対端から進めますね?」
「うん!」
なかなか骨が折れる作業だ。
昔だったら、もう少し疲れ辛く出来ただろうな。
腕も腰も、自分の予想より根を上げるのが早くなってきたからなぁ。
歳には逆らえ無いのがまた辛い。
だが、坊っちゃんと一緒に作業に当たれるってのは昔とは違った楽しさがあるな。
うんうん。
息子…と言うか、孫みたいな感覚なんだろうか?
……歳だなぁ。




