7. おじさんは戦いに臨んだ
戦利品の木桶を持ち、家までの帰り道に生えている野草を採りながら進む。
「ゼオ、きのこは危ないんじゃないの?」
俺の採ったきのこに、危機感を抱いた坊っちゃん。
なかなか優秀だな。
「はい。きのこは危険度が高い食材ですね。毒を持つ物が多いですから、知らない物は絶対手を出してはいけません。虫が食べてるからとか、動物が食べているから安全とは言えませんし」
「虫や動物が食べても大丈夫なら、人も大丈夫じゃないの?」
「大丈夫では無いのですよ。身体の造りが違いますからねぇ」
「そうなの?」
「はい。人間では死に到る程の毒でも、他の動物には多幸感溢れ、軽く酔っ払う程度と言うのも少なくないんですよ」
「えぇ…なんかズルい…」
「そう感じますが、人間は食べれる物の種類が多いですからね。それだけしか食べれないと言うよりは、よっぽど得をしてますよ」
「……そうかも」
「ふふふ」
納得のいかない顔をしてるけど、そんなもんですよ。
人間の方がよっぽど得で、ズルいんです。
言わないけどね。
「ちなみに、このきのこは知ってるので安全ですからね?」
「なんてきのこなの?」
「ボリボリです」
「…え?名前?」
「はい。ボリボリです」
「……ぶふっ!!ボリボリッ!あははははは!」
「食べたら、わかりますよ」
前世では、ナラタケって言うきのこなんだがな。
北海道や東北方面でボリボリって呼ばれてたんだよな。
食べるとボリボリする食感があるから。
今世でも、ボリボリする食感から付いた名前だろうな。
わかり易いな。
坊っちゃんの笑い声をBGMにゆっくりと進む。
町にいたら、そろそろ出勤時間だろうなぁ。
中々楽しい勤務になったもんだ。
「坊っちゃん、深鍋でスープを作って、平鍋で炒め物を作りますよ」
「うん!」
「さて、坊っちゃん。どちらかにアレを入れるとしたら、どちらにしますか?」
「アレ?…昨夜のアレ?」
「はい…昨夜のアレです」
「…食べきった、よね?」
「はい…ただ、持ち込み荷物の中にまだありまして…半乾きなんで、長持ちしないタイプの方で…」
「……勿体無い、よね」
「……勿体無い、ですね」
「「……」」
「…炒め物で、試してみる」
「…了解です」
更なる朝食会議で、ボリボリとノビルと俺の捕ったサワガニがスープに。
坊っちゃんの捕ったサワガニとノビルが炒め物になる事が決まった。
2人で獲得した食材だからな。
食材の方向性も2人で決めるべきだろ?
坊っちゃんと協力して食材を洗い、切っていく。
サワガニは生きたままの調理になるのが躊躇われ、トドメを刺させて貰った。
『ありがたく、戴きます』と言ったら、坊っちゃんが深く頷いた。
そう言えば、兎肉も食べてたんだもんな。
生命を戴く大切さを、既に知っているんだな。
「まず、深鍋で湯を沸かす」
「はい!」
坊っちゃんが深鍋に半分、水を注ぎコンロにかけた。
「湯が沸いたら、スープの素とアレを投入。茹で上がり次第、素早くザルで回収」
「はい!」
投入は坊っちゃん。回収は俺で連携を取る。
湯が跳ね返らない様に慎重な投入に比べ、ザル担当が不甲斐なさを発揮してしまったが、無事に攻略している。
「サワガニを感謝を込めて投入。ノビル草、ボリボリは再び湯が沸いたら、順番に投入」
「はい!」
「機会を逃さないように、しっかり見極めるように」
「はい!」
坊っちゃんが真剣な顔で指示に従う。
若干、口元がふよふよしているが、集中するのが大事だ。
スープ用食材の投入を終えて、少し煮込む。
蓋をして、テーブルの鍋敷きへ移動させる。
「第2陣、平鍋を設置」
「はい!」
俺担当、鉄製のフライパンだ。
火にかけ、植物油を馴染ませる。
「サワガニを投入する。感謝!」
「ありがとう!」
ジュワッと平鍋が激しい音をたてる中、鍋を焦がさないように、必死にヘラでかき混ぜ、鍋を振る。
「ノビル草とアレを同時に投入する。覚悟はいいな?」
「はい!」
「…今だ!」
坊っちゃんが、アレとノビル草が入れてあるザルを鍋の上でひっくり返す。
ジュワッと音をたてたと同時に坊っちゃんがビクッとなったが、ザルをソっと受け取り、残りを掻き出す。
「殿は任せろ!」
「…はい!」
「塩、唐辛子はまだかっ!もう、保たないぞ!」
「今向かっています!唐辛子をっ!」
輪切り唐辛子を少量投入。
「塩は…塩は…もう保たないっ!」
「到着です!塩、到着しましたぁ!」
「間に合った……我々は、救われた…」
「ぶはぁっ!もう、ダメだよぅ〜」
塩は間に合った…
坊っちゃんは、笑い崩れた…
「激しい戦いだった…」
「あはははははは!」
食器に炒めたパスタを盛る。
良い感じだな。
スープの素も染みているだろから、味は大丈夫だろう。
坊っちゃんはまだ復活出来てないな。
テーブルに運び、スプーンも添える。
スープ用の皿も運び、テーブルで盛る。
「坊っちゃん、冷めちゃいますよ〜」
「…ゼオ、ヒドい…」
「えぇ…坊っちゃんもノリノリだったじゃないですか…」
「笑うの我慢するのが、こんなに大変だったなんて、初めて知ったよ…」
「まぁ、御者と一緒って事です」
「もぉ~」
少しむくれながらもテーブルに着いた。
「では、戴きましょう」
「うん」
「「戴きます」」
「っ?!美味しいっ!」
「本当ですね。こんなにも味が上がるとは…」
「炒めた方が良いみたいだね!」
「ですね」
夢中でパスタを食べながら、スープを啜る。
うん。旨い。
「うわぁ!本当にボリボリするっ!」
「ボリボリの由来ですねぇ」
「しかも美味しい…」
「ですねぇ」
「サワガニ、殻も食べれるんだね…」
「全部戴けますね」
「うん。美味しい…感謝を」
「ぶふっ…感謝を」
楽しい朝食だった様だ。
良かった良かった。
食後一緒に皿を洗いながら、坊っちゃんに尋ねてみる。
「坊っちゃん、ちょっと畑も作ってみませんか?」
「畑を?」
「はい。食材を探すのと同時に育てておけば、食べ物に困る事が減ると思うんですよ」
「そっか!それ凄く良いね!前も畑を作ってたの?」
「畑を作るのに気付いたのは、随分と後になってからなんですよ。もっと早くから始めていれば…と何度か本気に後悔しましたよ」
「そうなの?」
「…肉が主食になる時期が続きましてねぇ。いや、空腹になる事は滅多に無かったんですが。胃もたれがね…野菜、大事ですよ?」
「あぁ…うん。大事だねぇ…」
可哀想な者を見る目になった、坊っちゃん…
なんか、切ないです。




