6. おじさんはポロリを連発した
昨夜は、坊っちゃんと食べた食器を一緒に洗って、サラッと身体を拭ってから寝た。
食器を洗うのが初めてだったと恥ずかしそうに言った坊っちゃんに、御者を初めてやるのと同じだと伝えたら、ニヤニヤしていた。
…あ、寝る前のトイレは付き添ったよ。
まだトイレの説明をして無かった事を謝って、屋外のトイレを案内したついでに済ませては?ってね。
10歳のプライドがあるからな。
夜のトイレは慣れるまで、理由を付けて一緒に行く方が良いかもな。
「ゼオ、おはよう」
「おはようございます」
「ゼオ、早いね…朝は何をするの…?」
ロフトから寝ぼけた顔をちんまりと出して、坊っちゃんが聞いてくる。
疲れが取れてないだろうけど、これからの流れは作るべきだろう。
「そうですねぇ。まずは、自分の身支度ですねぇ。着替えて、顔と歯を磨く事。これを疎かにすると、一気に野生化してしまいますからねぇ…」
「ぶふっ…野生化?」
「はい。昔村長が野生動物化一歩手前まで退化した事がありましたから…人間でいる為に、大事な事です」
「ぶふっ!あはははは!着替えるよ!他は?」
「水瓶に水を溜める事ですね。飲むにも調理にも洗うにも必要ですから。朝溜めて、夜使い切るを目標ですね…あっ、この水瓶、村長が作った作品ですよ」
「そうなんだ!人間してたんだね!」
「ぶふっ!」
坊っちゃんの返しに噴き出してしまった。
村長すまん。
坊っちゃんの笑顔の為に、派手に黒歴史を散らしてしまった。
君の犠牲は無駄にはしないぞ!
「オレ、ちゃんと人間でしょ?」
着替えた坊っちゃんが、はしごを降りての第一声。
どうやら人間ブーム到来らしい。
「っ。はい。文明を感じます。では、首に手ぬぐいを巻いて下さい。俺みたいに」
「ふふふ。これは、なんでなの?」
「良く使うので。落とさない様にと、虫の攻撃から首を守る為です…首が痒いのは結構シンドイのでね…」
「へぇ…虫除けの香は効かないの?」
「たまに玉砕覚悟の虫がいる事があるんですよ…『死ぬ前に、せめて一吸い』とか考えていそうな虫が…」
「えぇ…なんか怖いよ…」
「なので、その対策です」
「うん。わかった」
素直でよろしい。
まぁ、マダニ対策だよ。
アレ、怖いんだよ。
首だけ食い込むとか…前世でやられたけど、こっちにいないとは限らないだろ?
しかも、異世界特性のマダニがいたらって思うと怖くて堪らんのよ。
一応、それらしいのはいないって世間には出回っているけどさ。
完全じゃないからな?
新発見なマダニがいる可能性の方が高いからな?
なんで、露出部分は控えるに越したことはない。
「では、顔を洗う準備が整ったので、井戸に行きましょう」
「これ?」
「はい。これです」
坊っちゃんが、首に巻いた手ぬぐいを摘み尋ねてきたので、摘んで答える。
途端に笑い始める。
うんうん。歳相応。
笑う事は大事なんだよな。
井戸まで行くと、坊っちゃんがキョトンとした。
「?」
「水汲みの桶を下に落として引き上げる、昔ながらの井戸ですよ。手押しポンプでは無いので、結構大変なやつです」
「ギコギコのやつじゃないんだ…」
「はい。最近は町や村にもポンプ式のが普及してますからねぇ…辺境の村とかは、まだ汲み上げ方式です。まだ国全体には伝わりきっていない技術ですよ」
「そうなんだ…」
「ポンプもですが、吸い上げる管を作れなかったんで仕方ないんですけどね?子供でしたし」
「そっか…子供の時に秘密基地作ったんだっけ?」
「はい。17歳の俺と12歳の2人で」
「凄いねぇ…」
「2人共、かなりヤサグレてましたからね。ヤサグレパワーのなせる技ですよ…」
「えぇ…」
「溜め込んでいたモヤモヤを全て発散した結果、秘密基地が出来上がった…様なものですねぇ」
「…逆に凄いよ」
妙に感心した坊っちゃんに、汲み上げ方式で水汲みをやって貰った。
滑車が付いているものの、かなりの体力勝負だ。
「水汲みって大変だねぇ…」
「結構な重労働ですよねぇ。昔は、みんなこの重労働をこなしていたんですよ」
「…今も水運びが大変だって聞いてるよ?」
「はい。大変な作業です。けど、その作業を少しでも助けになる物があれば、ありがたいですよねぇ」
「うん。そっか…それが生活の為の魔道具…」
「そうですね。うちの商会の魔道具です…商会長も村長も、大人になったら水汲みで倒れたくないって常々言ってましたからねぇ…」
「…倒れてたの?」
「その辺りでいつもヘバってましたよ?」
「ぶふっ!そうなんだぁ」
「一気に終わらせようとするからですよ。坊っちゃんは、俺と休み休みやって行きましょう」
「うん!わかった!」
まず自分で汲み上げた水で顔を洗い、磨き砂で歯を磨き。口をゆすいでから、水汲みをして運ぶ。
これを朝のルーティンにした。
習慣が出来ると生活にメリ張りが出来るからな。
「ゼオ、何か食べ物探さないと!」
「そうですね。昨夜のアレだけでは厳しいですよねぇ」
「うん!絶対に厳しい!」
家の中でテーブルに着いていた坊っちゃんが、ハッとしたように訴えてきた。
昨夜のアレが、よっぽどだったのだろうな。
坊っちゃんも強く望んでいる事だし、朝食を探さねばならないな。
俺は、棚に置いてある紙束を坊っちゃんの前に差し出した。
「コレはこの辺りにある食べれる物を図鑑から描き写した物です」
「凄い…」
「村長が渋い木の実をそのまま食べて、激しく後悔した事から調べ出したようですが…」
「えぇ…あっ、下処理方法…?」
「失敗したり後悔したり…次こそは!と言う気持ちが成功へ繋がる良い例ですねぇ」
「ふふふ…失敗も大事なんだね?」
「勿論!とても大事な事ですよ?とんでもねぇ大失敗をする前に、小さな失敗で気付いて学べる事が大切なんです。それが許されている内に色々やらかして学べば良いのですよ」
「そっかぁ」
「坊っちゃんには、散々やらかした先達者の話しも教えますから、かなりお得ですよ?」
「ぶふっ!確かに!オレ、かなり得してるっ!」
ひとしきり笑った後は、紙束を確認して食材探しだ。
スラムの子達と探して食べた草もあって、坊っちゃんの意欲は増し増しだ。
「あの草、結構美味しかったんだよね〜」
うん。
なかなか逞しく育っていたみたいだ。
これは前世でノビルと言われてた野草だな。
細長くて先端が丸い。
水仙と間違われる事があるから、匂いチェックが大事なんだよ。
「坊っちゃん。その草の見分け方は聞きましたか?」
「うん。よく似た毒草があるから、必ず匂いを嗅げって言われた。ガーリックみたいに強烈な匂いがしたら大丈夫って聞いたよ!」
「その通りです。その草の匂いはどうですか?」
「……。うん。しっかり臭い!美味しい臭さだよ!」
「はははははっ!素晴らしいです!」
うん。素晴らしい!
ネギ科の植物だったはずだ。
こっちの世界での名前は知らないが、そのままの特徴。
美味しい臭さか。
素晴らしいな。
「坊っちゃん。何も無い状態で1番栄養の高い、手に入り易い食材を知ってますか?」
「え?草じゃないの?」
「草も大事ですが、栄養豊富ですぐ手に入る物です」
「えぇ?なんだろう?」
「虫です」
「えっ?」
「実は虫が栄養豊富で1番手に入り易い食材なんですよ」
「えっ…えっ?!まさかっ?!」
「…俺は、虫食だけは無理なんでしませんが」
「ホッ…」
「食材にしている地方もあるんですよね…」
「……」
…あるのだよ。
前世同様、イナゴに蜂の子、その他モロモロ。
栄養豊富だからな。
「まぁ、他にもありますよ?動きの比較的遅いものですね。小川があれば、サワガニやザリガニ、タニシとかですね。しっかり火を通さなければ腹痛を起こすかもしれないので、注意が必要ですが」
「へぇ…」
「なんで、ちょっと取りに行ってみませんか?」
「え?行く!」
木桶を持ち、滝から分かれた沢まで向かう。
「秘密の道の方じゃ無いの?」
「はい。あっちは水の勢いが凄いですから。下手をすると滝壺に引き込まれてしまいますからね」
「引き込まれるの?」
「はい。滝壺は水の勢いで、落ちてしまうと浮き上がる事が難しいのですよ。凄い流れでグルグルと水の中で回され続けます」
「……怖いね」
「はい。万が一落ちてしまったら、浮き上がる事は目指さず、身体を丸める事です。流れに乗って水流の弱い方へ逃れる事をお勧めします」
「……覚えておくよ」
岩盤で囲われている滝を外側からグルリと迂回して、ちょっとした通り穴を抜ければ沢に出る。
「ここも道が隠されているんだ!凄いね!」
「いえいえ。自然に隠れてしまっているので、ソっと通ってるだけですよ」
「あはははは!」
「だからここは、知る人ぞ知る場所ですねぇ」
「知っている人は?」
「3人ですね。あっ、坊っちゃんを含めて4人ですねぇ」
「あははははは!」
水が緩やかになっている浅瀬にしゃがみ込み、石を持ち上げる。
ちょうどサワガニがいたので、声を出さずに指を差し、坊っちゃんに伝える。
坊っちゃんの目がキラキラして、ジッと見てくるので、即捕獲した。
甲羅が5cm程の大きさだ。
木桶に獲物を入れると、坊っちゃんが口を開いた。
「このハサミ、挟まれたら痛い?」
「それなりに痛いですが、勢いよく素早く取れば獲物が反応を思い出す前にいける事が多いですよ」
「父様達はどうだったの?」
「ふふふ…村長は上手く捕れてましたよ?」
「…父様は?」
俺のニヤリとした顔に、坊っちゃんの期待が膨らんでいる様だ。
では、お答えしましょうか。
「捕まえようとしていた獲物と、横から助けに入った獲物に挟まれて悲鳴を上げてましたよ」
「あははははは!」
「しかし、流石は商会長です。2匹同時に捕まえましたからね?なかなかの大物でしたし」
「あははははは!凄いね!」
「さあ、坊っちゃんも朝食獲得に励んで下さい」
「わかった!」
サワガニ獲得数、俺3匹、坊っちゃん5匹。
初めてにしては、上々だろう。




