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5. おじさんは思い出した

 山へと続く林道は、結構険しい。

 坊っちゃんは弱音を吐かずに付いて来ているが、そろそろ休憩が必要だろう。


「坊っちゃん。そこの根元で1回休みましょう」

「うん…」


 うん。

 返事に覇気が無くなっている。

 坊っちゃん用の水袋と飴を1つ渡す。


「疲れた時は、この飴が1番です」

「…?えっ…しょっぱい?」

「塩飴です」

「…塩。ふふっ。クロウとお揃いだ」

「はい。塩は大事なんですよ」


 塩飴で坊っちゃんのテンションが上がった。

 良かった、良かった。


「ゼオ、山の上まで登るの?」

「いいえ。もう少ししたら、秘密の道があるので、そちらへ行きます」

「秘密の道…」


 目がキラキラしている。

 秘密っていいよな?ロマンたっぷりだよな?

 飴を食べ終えて、再び歩き始める。

 大分日が傾いてきたので、少しだけ早足だ。


「坊っちゃん。あそこですよ」

「…道、ないよ?」


 俺が示した方を見て、首を傾げる坊っちゃん。

 まぁ、大岩の上に木が生えてる場所に道は見当たらないからな。


「こっちですよ」


 坊っちゃんを大岩の方に誘導する。

 うん。

 坊っちゃんの顔が訝しげだ。

 胡散臭いおっさんを見る目になってる。

 木の根が大岩を包み込む様になっているのは前面だけ。

 後ろに結構なスペースがあるのだ。

 そこで灯り石を取り出し、照らして見せる。


「あっ!穴がある!」

「はい。秘密の道です。少し段差を付けてありますが、滑り落ちない様に気を付けて下さい。これ、坊っちゃんの灯り石。落とさない様に」

「うん!」

「俺が先頭に進みますね。付いて来て下さい」

「わかった!」


 背負い鞄を持つ俺がギリギリ通れる穴をソロリソロリと下って行く。

 最初ロープを付けようと言っていた商会長が、村長のロープがあると気付かれるだろ?で止めてしまった事を若干恨めしく思い出したが。

 安全ではあるのだ。

 べシャリと転んでも、擦りむけは出来るが、デコボコすべり台方式で到着できるからな。


「大丈夫ですか?」

「うん!秘密の道、凄いねぇ!」

「秘密ですからね?」

「うん!」


 暗い洞窟に降りたが、秘密の道が怖さ半減って所だろう。

 灯り石を出したまま進む。


「この洞窟の先は小さな滝があるんですが、その裏側に出ます」

「滝の裏側!」

「裏側を抜けて、秘密基地へ向かいますね」

「うん!」


 普段の道では考えられない程、冒険ロマンに溢れたワードに坊っちゃんはキラキラだ。

 うん。

 キラキラオーラで目的地まで頑張って欲しい。

 多分、全身疲れ切っているから。

 気付かれると大変だ。


 小さな滝の裏側を抜け、横路に入る。

 正規のルートでは、見つからない場所だ。

 と言うのも、滝の真ん中〜滝壺にかけてがグルリと岩盤に囲われ、ポッカリ空いた穴に流れ込む様に見えているからだ。

 横路がある事も知られる可能性はない。

 ちょうど良い場所をよくぞ見つけ出したものだとも思う。


 横路を少し行くと、ポッカリと拓けた場所に出る。

 大体テニスコート1面分だが。

 結構な広さだ。

 その周りは山の麓の樹海が覆っているので、滅多に人が来る事はない。

 と言うか、1度も来た事が無い。

 そこに平屋建てのログハウスがポツンとあるのだ。

 俺達が勢いで作ってしまったログハウス。

 大体、3〜4人用位のやつだ。


「ゼオっ!あれが?!」

「はい。秘密基地です」

「凄い!立派な秘密基地だよっ!」


 ログハウスの内部はワンフロアだが、ロフト式になっているので、寝る時ははしごを登りベットへ行く。

 ベットを確認すれば、布団とシーツが整えられているから、村長がそろえてくれたのだろうな。

 一応台所もある。

 洗い場はモザイクタイルの方法を使っているし、排水も抜かり無く整えた。

 村長が地味に土魔法を持ってたからな。

 土を硬化させて、上手いこといったんだよ。

 あっ、ログハウスは3人で身体強化オンリーで頑張ったんだ。

 そう、脳筋の仕事だったなぁ…

 だから窓の所が特にイビツなんだよ。

 木材が縮むなんて考えて無かったからな…

 空いた隙間に色々詰め込んでコレ。

 …開閉出来るだけマシか。

 んで、魔石コンロは持ち出しの荷物に入ってたやつ。

 焚き火でも何とかなりはしたと思うが、シンドイからな。

 外には井戸とトイレもあるし、しばらく暮らして行く事が可能な場所なんだよな。


「坊っちゃん、探険はその位にして、手伝いをお願いします」

「うん!わかった!」


 ロフトのベットを確かめていた、坊っちゃんがはしごから降りて来た。


「ここは森が近いので虫除けの香を焚いて貰いたいんですよ。あそこに香炉があるのでお願いします」

「うん!」

「あと、これからは虫除けの香は絶やさない様に、お互い気付いた時に追加して行きましょう」

「え?すぐ追加するの?」

「…面倒臭がって、酷い目にあった事があるんですよ」


 俺の表情を見て察して欲しい。


「…うん。気を付ける」


 坊っちゃんが神妙に頷き、香炉を焚べる。

 これで今夜は朝まで安心だな。


「さっきの灯り石をランプにはめて下さい。備え付けのランプにも灯り石をお願いします」

「わかった!」


 ふふっ。

 まだ大丈夫そうだな。


「俺は、井戸から水を汲んで来ますね〜」

「わかった!」


 井戸から水を汲み上げバケツに入れる。

 とりあえず、今夜分の量で大丈夫だろう。

 台所まで運び、鉄鍋を軽く水でゆすぎ、半分程水を入れコンロの火にかける。

 固形スープの素を入れそのまま。

 フツフツと沸いてきたら、マカロニの様なパスタを加える。

 インスタントパスタみたいな物だ。

 まぁ、腹に溜まる感じの物だな。

 味は…可も無く不可もなく…微妙だ。


「終わったよ〜…あっ、それなんだ…」

「すいません、坊っちゃん。ある材料ですぐ出来るのは、これ位しか無いんですよ…他の食材が加わればマシなんですがね」

「いや、うん。大丈夫。食べれるだけ、ご馳走だって知ってるから」

「…ありがとうございます」


 …スラムの子達の話しを聞いたんだな。

 坊っちゃんの中にも、しっかり染み込んでくれてるらしいな。

 良い事だ。


「ゼオ。オレ、これからどうすればいい…?」


 微妙なパスタを食べながら、坊っちゃんがポツリと呟く様に問いかけてきた。


「坊っちゃんは、どうしたいですか?」


 質問を質問で返す、悪い大人で申し訳ないな。

 

「…わかんないんだ。どうすればいいか、何をしたらいいか…」


 スプーンがパスタに沈む。

 …冷めたらマズくなるんだよ、コレ。


「ならば、やる事は決まっていますよ。まず、生き延びる事が大事です」

「え?」

「秘密基地に生活の基盤を置くとして。何が足りないか、わかりますか?」

「えっ?あっ?食料?」

「その通りです。凄く大事な物ですよ?毎日コレとか、嫌でしょ?」

「いや…うん。嫌」

「他はどうですか?少し先を見て、足りなくなる物は?」

「…虫除けの香。あっ、灯り石に魔石コンロの魔石!」

「その通りです。じゃあ、もっと先は?」

「えっと…」


 真剣に考える、坊っちゃん。


「…坊っちゃん。これがさっきの質問の答えですよ」

「え…?」

「遠い先にどうしら良いかの答えがわからない時は、近い先に必要になる事を順番に片付けて行くんです。その内、先の事を考える時間が出来るかもしれない。まだ冒険は始まったばかりですからね?」

「あ…うん。そうか…そっかぁ…」

「さっ、マズくなる前に食べてしまいましょう。残すには勿体無いですからね」

「あっ、あぁ。うん」


 少し無理をしながら詰め込んだパスタの味は、きっと将来思い出しますよ?

 坊っちゃんの真剣な顔に、商会長の面影を重ねてそう思った。


 商会長が後に『あれほど衝撃的な味になったパスタは、生まれて初めてだった…』と、苦笑いを浮かべながら言っていた事があったとは…まだ言わなくても良い事だろうな。

 

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