4. おじさんは暴露した
若干ヨレッとしながらも到着した村長と挨拶を交わす。
「村長さん、大丈夫かい?ゆっくりで構わないから、怪我しない様にしてくれないと、こっちの心臓がどうにかなっちまうよ?」
「いやぁ、面目ない。ゼオさんを見ると、つい嬉しくなっちまってなぁ〜」
「お互いいい歳になったんだから、気を付けないとな?」
「まぁ、そうなんだけどもな?心配事があったもんだから、余計にな?」
「心配事?」
「あぁ。町から、この手紙があったからな」
村長さんから手紙を見せて貰う。
…ギルドからの手紙か。
『村の周辺の情報、感謝します。大きな変化が無い様なので、安心しました。そちらは大きなダンジョンが無いので危険度は低いでしょうが、何かありましたら、小さな事でも知らせて下さい』
…スタンピードの予感じゃないか。
聞いて無いんだが?
「村長さん、これ…」
「あぁ。みんなを不安にさせるから、知ってる奴らは狩人と見廻り位だ」
「…そうだな。備えは?」
「何軒かおきに地下倉庫を作ってるんだ…色々理由付けてな?」
「ぷっ…別の方で気を付けないとな?」
「お縄になる事はしてないからな?!」
「ならいいさ」
「あと、こっちの手紙だ」
渡された手紙はスミス商会からの物。
仕込みかと思っていたが、実際はかなりの重い内容だった。
商会長も前もって教えてくれれば良かったのに。
仕込み所か、爆弾を仕掛けていたとは。
「ゼオさん。それって家からの手紙?」
「はい。商会長から村長さんへの手紙ですね…2人は幼馴染みたいなもんですからね」
「そうなの?!」
「はい。2人共、同じ歳で。2人共、なかなかヤンチャな子供時代でしたよ?」
「えっ?!」
坊っちゃんの目が真ん丸だ。
幾らでも突っ込みが湧いて来るだろうけども。
「…ゼオさん。このまま移動した方が安全かもしれないぞ?一応整えては来たから」
「そうみたいだな。ここまでとは、思ってもみなかったよ…わかった。坊っちゃん。大切な話しがあります」
「え?」
坊っちゃんは前の話のショックを引きずっているようだ。
村長の見た目から、同じ歳・幼馴染がグルグルしてるのかもしれないが。
「我々に危険が迫っている様です」
「えっ?危険…?」
「はい。シュガ坊っちゃんが危険な状況にいる様です」
「えっ…?」
俺は坊っちゃんと目線を合わせる様に地面に膝をついた。
そして坊っちゃんの両手を握り、ゆっくりと話す。
「坊っちゃん。男爵家の子息が町で愚連隊を組んでいるのを知っていますね?」
「…うん」
「そのグループが、坊っちゃんにちょっかいを掛けて来ていましたよね?」
「…うん。一緒に遊ぼうって声掛けられてた。断っても…何回も…」
「連中は、坊っちゃんが断われない様にしようと考え始めていたようです」
「…断われない様に?」
「暴力です」
「っ?!な、なんのため、に?」
「…スミス商会の商品を横流しさせる為に、坊っちゃんを仲間内に入れて、言う事を聞かせようと考えてたみたいです」
「……っ、オレが、商会の、む、息子、だから?」
「はい」
「っ……」
シュガ坊っちゃんが、目を見開いたまま、ボロボロと涙を流す。
乱れた呼吸。時々しゃくり上がる。
…静かな泣き方だ。
「オレ、と、商会、は、かんけい、ない、のにっ…」
「……」
「町の、み、んなっ、商会、のっ、息子だ、からっ、て…」
「……」
「いっ、一緒に、焚きっ、火、した子、たちっ、だけっ」
「……」
「仲間っ、にっ、仲間に、なったっ、んだ…」
優しく坊っちゃんの頭をなでる。
町の子供達は、シュガ坊っちゃんの兄達を知っている。
凄く優秀である事も。
口さがない大人の話も知っている。
そんな子供達がシュガ坊っちゃんに向かうと、想像以上に酷い態度になるのだ。
だから。
そんな事を一切知らない、いや。
知っていても、シュガ坊っちゃん個人として見れるスラムの子供や孤児院の子供が、坊っちゃんを仲間に受け入れてくれたのだろう。
商会から離れたがっているのを察して。
「シュガ坊っちゃん。商会から、離れませんか?」
「…っ?!」
坊っちゃんの顔がグシャリと歪む。
「追い出す訳じゃありませんよ?」
「……」
「シュガ坊っちゃんは、まだ10歳だ。何を目指し、どんな大人になるかなんて、ゆっくり決めていいんです」
「……」
「周りにシュガ坊っちゃんの将来を決めさせる事なんて、無いんです。まして、周りがシュガ坊っちゃんを利用するなんて、とんでもねぇ事です。シュガ坊っちゃんは、シュガ坊っちゃん自身の物です」
「…父様は」
「商会長は、シュガ坊っちゃんの気持ちを痛い程にわかっていますよ?」
「え…?」
「なんたって商会がやりたくなくて、グレにグレて、家を飛び出してしまいましたからね?盛大に村長さんを巻き込んで。俺も付き合いましたし」
「えぇっ?!」
一気に驚愕の目に変わり、村長さんと俺を交互に見始めた。
涙も嗚咽もシュルリと引っ込んで、なによりだ。
村長さんは、恥ずかしそうに頬をかいている。
黒歴史だからな。
「俺だって、村長やりたく無かったからな…」
「えぇ…」
「結局、村長やってるけども。道は見渡せば、たくさんあるって気付いたのさ。その中で、ゆっくり選んで自分で決めたんだよ…」
「えぇ…」
「大丈夫だって。ゼオさんが付いて来てくれたら、大概は何とかなるから」
「……付いて来てくれるの?」
「勿論。久し振りですが、身体はまだ動きますからね?多少冒険するのも良いかと思いますよ」
ニヤリと笑いかければ、坊っちゃんの目がキラキラしている。
10歳は冒険って言葉、好きだよなぁ。
商会長も村長も『冒険!冒険!』って言ってたし。
まぁ、超危険な事には手を出さなかったから見守り程度で過ごしてたっけな…
遠い目になりかけたが、再度坊っちゃんに視線を合わせる。
「では。善は急げです。早速、冒険に出ましょうか」
「もう?!」
「行きで野宿は避けたいんで」
「えぇ?!」
「秘密基地があるんですよ」
「っ?!」
キラキラな坊っちゃんに、ニヤリと笑いかける。
村長もキラキラしてるな。
…連れていかないぞ?
「さて。ここでクロウとは、いったんお別れだ。村長さん、頼めるかい?」
「あぁ。町まで届けるよ」
「…そうなの?」
「クロウを冒険に巻き込む訳にはいきませんからね?」
「…そっか。クロウ…」
『ブルッ…』
坊っちゃんがクロウの首に抱き着き、クロウが抱え込む様に顔を寄せる。
随分と短い間に信頼関係が深く結ばれたらしい。
素晴らしい才能だと思う。
「さてさて。荷馬車の使えそうな物は、有り難く使わせて戴きましょうか…テントはいらんな」
「あはははは!ゼオさんは、変わらないな!」
「必要経費みたいなもんですよ。安全を守る、ね?」
「ぶふっ!昔もそう言ってたっ!根こそぎ持っていったよな!」
「…昔は盗賊が間近に迫った状況もありましたし、根こそぎ持って行ったんですよ」
「あぁ…だから金目の物だけ置いて行ったのか…」
「はい。金目の物は全て、荷台にばら撒いて時間を稼ぎましたねぇ」
「そっか…盗賊がいたのか…危なかったんだな…」
「はい。危なかったんですよ」
「…やっぱり、ゼオさんは凄いや。ゼオさんといれば、坊っちゃんは大丈夫。良い道が見つかりますよ」
「そうなの?」
「…期待値は上げない様に注意して下さいね?目標は、生き延びる事ですからね?なんたって、冒険ですから」
「そっか。うん。生き延びる様に頑張るよ!」
キラキラしている坊っちゃんを、若干羨ましそうに村長が言う。
「坊っちゃんの道がしっかりと続く様に、応援してますからね?無事でいて下さい」
「うん。ありがとう」
しっかりと頷いた坊っちゃんを優しく見守りながら、村長に1つ頷く。
村長も頷き返し、空の背負い鞄をくれた。
「これが1番大きいやつです…」
「ありがとう。商会長に請求しておいて?」
「勿論!」
ぶはっと噴き出し、笑いながら詰め込み作業を終わらせた。
林道へと向かう俺達と、荷馬車を町に返す村長。
手を上げるだけの挨拶を交わし、それぞれに歩き出した。
人生とは深いようで軽く、軽いようで重く。
ささやかな事で重要な事も多々あるのだ。
坊っちゃんには、色々見て行って貰いたいなぁ。




