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3. おじさんは覚悟した

 あぁ…

 俺んちの家賃が既に5年分支払われてた。

 5年分。

 おじさん、完全なるアラフィフになるまでって事ですか?

 拘束期間は5年って事ですか?

 大家に家賃前払いして、足りない分を商会に請求して貰おうかと思ってたのに…

 商会長、地味に鬼だな。

 

 とりあえず、軽く物品を揃えたよ。

 武器はミドルソード。ナイフ。

 調理器具等々は現地調達で良いはず。

 食料と水は3日分。一応、岩塩を拳大。

 一応、飴も入れておこう。

 冒険者証のドッグタグも首にぶら下げる。

 商会証であるバングルは左側だ。

 スミス商会のゼオと印字された真鍮のバングルだ。

 これが無いと商売出来ないんだよ。

 さてと。

 あとは、商会長にどういう流れか聞かなきゃな。

 再度商会に出勤。

 日用雑貨の行商担当となる。

 その際にシュガ坊っちゃんも同行する事になった。と説明を受けた。


「えぇ…オレ、行きたくない…」


 そりゃあな。

 10歳がいきなり移動で町から離れて遠くへ行くなんて、嫌だろうさ。

 ましてや商人になるつもりも覚悟も無けりゃ、ただの苦行だ。


「俺は別に、どっちでもいいですよ」


 そう言ったら商会長の目が少し見開かれた。


「新人の行商担当に着いてくなら、王都手前でしょ?3〜4箇所の村を回るし。そっちの方が長いですから経験積めますよ。それに徒歩もあるし。訓練にはもってこいですよ?」

「えっ?!」

「シュガ坊っちゃんは、若いから。若い方と行った方が良い訓練になりますよ」

「っ!オレ、ゼオと行くっ!」


 ソレを聞いて心の中でニンマリする。

 新人に付ける訳ないじゃないですか。

 子供を連れて行商するスキルは、若さではどうにもならないのだ。


「良かった。ゼオさん、よろしく頼むね?」

「はい」

「とりあえず、前回村から依頼されてた分と、余剰分。調味料系もあるから…よろしくね?」

「はい。商会の行商セット借りて行きますね?」

「それ、詰んであるから。そのままで大丈夫だよ。一応確認しておいて」

「はい。ありがとうございます」


 行商セットには、テントや毛布。雨が降った時用の外套。ロープとランタン。鉄鍋や真鍮の器やコップ。木のヘラとお玉。調理用のナイフが入っていた。

 まぁ、長期行商セットだな。

 隣村程度じゃ使わないセットだ。

 荷馬車にある残りの荷物は、村に届ける依頼品とプラスアルファだな。

 …多分、今詳しい説明が無かったって事は、村に仕込み人がいるんだろう。

 なかなか大掛かりだ。

 幌なしの荷馬車に乗り込み、出発するか。


「坊っちゃん、行きますよ?忘れ物は無いですか?」

「え?もうっ?!」

「行きで野宿は避けたいんで、もう出ますよ?」

「なっ、何を持って行けば…」

「腰に付けたポーチに何が入ってますか?」

「えっと…小刀と飴、麻紐と…火打石…」


 火打石を何に使うかは、聞かない。

 多分、仲間内で焚き火したりしていたんだろうな。

 俺もよくやってたし。

 火の始末があるから、親に叱られる、ちょっと悪い事なんだよな。

 町の子供達がスラムの子供達と兎肉を炙って食べてたって、広場の屋台のおじちゃんに聞いたから、それだろう。


「いいですね。大事な準備が出来てます。そこに麻袋を足しましょう。あとは、商会のバングル。見習い用の木製の物を付けると完璧です」

「そうなの?」

「はい。実際、焚き火には役立ったでしょ?」

「えっ?あっ、わ、忘れ物を取りに行くよっ!」


 ニヤリと笑いかけると、都合が悪かったのか、坊っちゃんは慌てて走って行った。

 少年らしい行動に笑みが浮かぶ。

 坊っちゃんが道を踏み外す事が無い様にしないとなぁ。


 坊っちゃんの準備が完了し、すぐ出発となった。 

 御者台に並んで座る。

 ポクポク…

 今日の馬は商会1賢いクロウじゃないか…なるほどなるほど。

 町から出て、まだ道状態の良い内に少しやっておくか。


「坊っちゃん。御者やってみませんか?」

「えぇっ?!オレ、やった事ないよっ?!」

「なら、やってみましょうか」

「えっ?えっ?」

「誰でも初めてはあるもんです。出来る事が増えると嬉しいもんですよ?」

「あっ、えっ、でも…」

「今日の馬は、商会1賢いクロウです。繰り手の事も考えてくれる奴なんで、せっかくだから練習させて貰いましょう」

「で、でも…」


 坊っちゃんに手綱を手渡す。

 すると、明らかに坊っちゃんの身体がガチガチになった。


「坊っちゃん。急にどうこうする訳では無いので、力まなくても大丈夫ですよ。手綱を軽く引いて、クロウに合図を送りましょう。両手を一緒に引く感じですね」

「…こう?」


 坊っちゃんの、おっかなびっくりな手綱にクロウは従った。


「…止まっちゃったよ?」

「はい。止まれの合図です。素晴らしいですね。クロウに負担をかけ過ぎない、絶妙な合図でした」

「そうなの…?」

「はい。馬だって生き物ですから、必要以上に強く当たるのは可哀想でしょ?それに、お互い気持ち良く仕事に当たる為には、大事な事ですよ?」

「鞭で叩いたりとかは…しなくてもいいの?」

「馬達は賢いですからね。大切な仲間として接していれば、こちらの意図を理解してくれますから。それに、クロウです。クロウだったら言葉でも動ける位賢いので、問題ありませんよ」

「えぇっ?!言葉でぇ?!」

『ブフンッ』

「えぇっ?!返事したよっ?!」

「それ位、当然だよな?」

『ブフンッ!』

「クロウ、凄いっ!」


 驚きはしゃぐ坊っちゃんに、クロウが渾身のドヤ顔を決めている。

 なかなか幸先が良いじゃないか。

 

「では次は、出発してみましょうか。言葉をかけながら合図を出すと伝わり易いですよ?」

「…合図はどうやるの?」

「両手で手綱を1度振るんです」

「わかった。よし、クロウ。出発だ!」


 坊っちゃんの合図でクロウは再度歩き始めた。


「できたよ!クロウ、ありがとう!」

『ブルッ!』

「お互いの意思疎通もしっかり取れていますね。素晴らしいですよ」

「うんっ!ゼオも、ありがとう!」

「どういたしまして」


 素直だ。

 坊っちゃんが不良なんて信じられないな。

 うん。

 きっと他の理由もあるんだろうさ。

 不良グループの事を頭の隅に追いやり、手綱の扱い方を坊っちゃんに説明して行く。

 クロウの御陰で1時間経過する頃には、完璧に手綱を制御出来る様になっていた。

 間違いない。うちの坊っちゃんは天才だよ!


「ふむふむ」

「ゼオ、なにかあった?」

「いえね?クロウと坊っちゃんに、しっかりとした信頼関係が出来たなぁ〜って感心してたんですよ」

「そうなの?」

「はい。まるで、お互いの呼吸を読み合っている感じですかね?」

「あっ、そうかも…クロウは今どうかなって思いながらいたかも…クロウも、ガタガタの道に気付いたら尻尾で合図くれるんだよ。どうする?って」

「素晴らしいですね。お互いに合図を理解しているなんて。シュガ坊っちゃんは凄いですよ!」

「クロウが賢いからだよっ」


 照れた頬を撫でながら、坊っちゃんは前を見るのに集中した。

 その横顔は、少し大人びて見えた。


「村の広場まで、クロウの誘導は全部坊っちゃんにお任せしますよ。お願いします」

「任せてっ!」


 任せて貰うのが嬉しいのだろう。

 凄く良い笑顔だ。

 村の入り口は柵に覆われ少し通り辛いが、クロウのリード込みで人馬一体になり、器用に進めていく。

 なかなかの技だな。


「この短い間に、すっかり御者の技を覚えましたねぇ」

「クロウと一緒だからだよ!」

『ブルッ』

「なるほど。良い相棒ですね」


 坊っちゃんとクロウが共にドヤ顔をキメる。


「あの辺りに止めて下さい」

「わかった!」


 危なげなく、しっかりと勤め上げた坊っちゃんとクロウに最大級の賛辞を贈ったら、2人?共に良い顔をしている。


「じゃあ、坊っちゃん。コレを手の平に空けてクロウにあげて下さい」

「コレは?」

「塩ですよ。たくさん歩いて、汗をかきましたからね」

「えぇ?しょっぱくないの?」

「しょっぱいです。なんで、俺はクロウの水を用意して来ますよ」


 坊っちゃんに薬包紙で包まれた塩を渡し、村の井戸から水を分けて貰う。

 クロウは馬だが、人間と同じ様に汗をかけば脱水症状を起こす。

 そして水を摂取するだけじゃ足りないのは、同じなんだよ。

 普段の草中心生活じゃ塩が足りないから、岩塩の塊を置いて必要時に馬自身が舐めに行く様にしている牧場もある程だ。

 塩と新鮮な水は大事なんだよな。


 水桶を運んでいると、坊っちゃんの笑い声が響いてきた。

 手の平をベロベロに舐められて、大笑いしているようだ。

 塩がもう無いとわかっているだろうに…クロウのサービスだな。


「ほい、クロウ。お待たせさん」


 水桶を置くと『ブルッ』と御礼を伝え、飲み始める。

 行儀が良い奴だ。

 

「お〜い、ゼオさ〜ん…」

「あ、村長さん…また、あんな遠くから…」


 随分と遠く、林道の方向から聞こえる声。

 本当に遠くから、村長さんの声が届く。

 周辺にいた村人も耐え兼ねて噴き出す。


「仕方ないさ。村長は、ゼオさんの事が大好きだからな!」

「違いないねぇ。小さい時からだから、仕方ないさね」

「そうなの?」


 村人の言葉に、坊っちゃんが問いかけてくるが…


「どうでしょうねぇ…」


 としか返せないよ。

 急ぎ足で戻ってくる村長を眺めながら、村人と雑談し、前回依頼を出していた村人に商品を渡していく。

 前回来た時に、買い付けた商品で品物の代金と相殺したので、村人の支払いはもう済ませてあるのだ。

 

「じゃあ、ゼオさん。ありがとうねぇ〜」

「また次回もよろしくな」


 村長が到着する前に、村人の対応が終了。

 バラバラと戻っていく。


「…ゼオさん。村長さん抜きで大丈夫なの?」

「…前払いとかの場合、普通は村長さん込みでやり取りするのが一般的と言うか、安全なんです」

「安全?」

「前に言った・言ってない、やった・やってない…なんてイザコザが起こる場合もありますからね」

「そうなの?」

「結構多いんですよ?なんで、信頼関係を結んでおく事が大切なんですよ」

「そうなんだね…村長さん、今転んだね」

「…ですね。怪我せず来て欲しいんですが」


 …うちの商会長と同じ歳なのに、いつまで経っても中身は変わらないらしいな。

 まぁ、ちゃんと大人になれはしたから、良かったっちゃ、良かったのかな?

 そこから見れば、坊っちゃんは大丈夫だ。

 全然心配する事無く、大丈夫だよ。

 

 

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