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2. おじさんは驚いた

 冒険者登録の翌日は筋肉痛もなく、スッキリ爽快な目覚め。

 今日も今日とて、朝日が目に染みる。

 …カーテン無いからな。

 ってか、平民でカーテンなんかあるのは、そこそこ裕福な商人や錬金術師、医者や学者等のお偉い職業なんだよ。

 一般人は雨戸を閉める位。

 もしくは、窓ガラスのままだな。

 網戸は勿論無いぞ?

 夏場に窓開けて寝てると蚊の餌食待った無しだ。

 まぁ、虫除けの香を焚いてやり過ごすのが一般的なのだけども。

 蚊帳とかはあっても良いと思うんだよな…

 

 そんな事を考えながらも、仕事の支度だ。

 今日はメインの仕事日。

 商会の使いっ走りをせにゃならんのよ。

 俺の勤めるスミス商会は、大手とは言い難いが、そこそこの大きさの所なんだ。

 先代までは金物屋と生活雑貨で続いていたが、新たに錬金術師や魔道具師も加わって、ちょっとした魔法アイテムを扱う様になって。

 そこから一気に大きくなったんだよ。

 凄いよな。

 ここにずっと勤めていられたら、食いっぱぐれる事は無いと言える。が。

 若い奴等に居場所を譲る日も近い感じになってるんだよな…

 商会長は、これ以上店を大きくするつもりは無さそうで、維持する方向に舵をきったからな。

 俺も色々考えなきゃならない位置にいるのさ。

 仕事がある内、動ける内に色々試さなきゃならんのよ。


 広場の屋台で軽く朝食を済ませ、スミス商会へ向かう。

 朝毎に銅貨5〜8 枚が飛んでくんだよな…

 最大8枚になるように切り詰めてるんだがな。

 屋台用パン1個が銅貨5枚、具入りの汁物が銅貨5枚。

 具無しだと銅貨3枚。

 3食摂ると大打撃なんだよ。

 はぁ…

 ちなみに。

 銅貨10枚で大銅貨1枚。

 大銅貨10枚で銀貨1枚。

 銀貨10枚で小金貨1枚。

 小金貨10枚で金貨1枚。

 になっている。

 銅貨 → 10円

 大銅貨→ 100円

 銀貨 → 1000円

 小金貨→ 10000円

 金貨 → 100000円

 円だと多分こんな感じだと思う。

 はぁ…自分の手持ちで金貨に御目に掛かってみたいもんだよ。

 

「おはようございます」


 スミス商会の従業員出入り口から入ってすぐ、見張りのゴンズさんに挨拶する。

 かなりのゴリゴリマッチョなんだが、家族に泣き付かれて冒険者稼業から用心棒的存在へと転職した人だ。


「おはよう、ゼオさん。冒険者登録したんだって?」

「あはははは…昨日の今日なんだけどな…」

「世間はわりかし狭いんだよ。嫁さんの弟がギルドで案内してんのさ」

「ん?入り口の?」

「そう。入り口の」

「知らなかったよ。俺の事知ってたのかな?」

「あぁ。何度か俺と話しているのを見てたらしいからな。まぁ、無茶しないで欲しいって事を伝えて来てな」

「…無茶しそうに見えたのか」

「みたいだな…まぁ、とりあえずって所なんだろ?」

「勿論だよ。この歳で無茶なんか出来る訳が無いよ。小遣い稼ぎくらいかなぁ〜ってな?」

「そうだな。冒険者登録しとけば、何かの時に使えたりするからな…真鍮目指すのかい?」

「いや、銅辺りだな…」

「ん。いい辺りだな…安心したよ」


 んじゃ!と話しを切り上げて店内に進む。

 世間って狭いのな…

 あんまりハメ外さない様にしないと、恥まみれになるなぁ〜…


「おはようございます、ゼオさん。商会長が呼んでましたよ?」

「おはよう。了解したよ」


 そう本店の売り子のロメオ君に返し、商会長室へ。

 …何だろう?

 冒険者登録の事か?

 それともクビですか?

 ソレ以外は、サッパリ思い当たらん。


『コンコンコンコン』とドアをノックし、「ゼオです」と告げる。

 前世のビジネスマナーと被る所があって、多少助かってるんだよな。


「どうぞ」とドアを開けたのは秘書業務をしている奥様だ。

 優秀な奥様で、滅茶苦茶計算が速くて正確なんだよ。

 センスも良ければ、先見の明もある。

 商会長は素晴らしい奥様に恵まれて、あっと言う間に商会を大きくしたんだよなぁ。


「失礼します」

「私は退室しますので、そちらにお掛け下さい」

「ありがとうございます」


 奥様に言われたソファーに腰掛ける。

 いつ来ても緊張するんだよな。

 何か、学校の校長室みたいで…


「ゼオさん、急に呼び出してわるかったね?」

「いえ」

「実はね、ゼオさんに折りいって頼みがあるんだよ」

「俺に…ですか?」

「うん。ゼオさんの担当を若い子に引き継いで貰って、他の方面で動いて貰いたい事があるんだよね」

「はぁ…」


 …良かった。

 クビにはならなかった様だ。

 だが、安心は禁物。

 俺が出来る事であれば良いのだが…


「あぁ。まずね、ここの後継ぎを長男のソルに決めたんだよ」

「そうなんですね。おめでとうございます」

「まぁ、まだ教えなきゃならない事が多いんだけどね?」

「えぇ。しかし、ソル坊っちゃんはバランスを取るのが非常に上手いので、心強いです」

「そうなんだよ。ゼオさんの目にもそう見えていたなら安心したよ。行商関係は次男のサンに任せようと思っているんだ」

「素晴らしいです」


 長男のソル坊っちゃんは、商会長と奥様の良い所をギュッと凝縮した様な、天賦の才能があるのだ。

 商売でのバランスの取り方がすこぶる上手い。

 身分や同業者。仕入れ先やら売り込み先の人間関係等など。

 同行していて『コイツぁ天才じゃーーっ!』と何度叫びそうになった事か。

 納得の後衛者ですよ。

 次男のサン坊っちゃんも長男程では無いがバランスは良いのだ。

 あと、危機回避能力が高いかな?

 情報の収集に余念がなく、行商する従業員達が安全に向かえる様、努力を怠らないのだ。

 誰かを支えると言う力もしっかり付けてるので、サン坊っちゃんが行商担当になるのは万歳三唱する勢いで賛成だ。


「問題は、三男のシュガなんだよ…」

「あぁ…はい」

「まだ年若いから、将来の事までは考えていないんだろうなぁ…余り積極的に家の仕事に関わって来ないんだよ…」

「まだ10歳ですからねぇ」

「まぁね…」


 10歳児。

 なまじ天賦の才能を持つ兄や、努力の末に光り輝く兄を持ってしまったが為に苦労しているのだ。

 兄達の10歳時代と比べられているだろう事が察せられる。

 長男と10歳、次男と8歳離れているし。

 関わるのも難しいのかもしれない。

 良くも悪くも普通の10歳児なのだ。

 …あっ。察し。

 コレ、子守案件だ。


「最近、ちょっと目に付く行動も見えてきてね?どうしたもんかと思っていたんだよ…別に家の仕事をしたくなければそれでもいいんだけど…」

「目に付く行動ですか?」

「年上の子達で町を練り歩いてるグループ、あるでしょ?」

「あぁ。男爵家の」

「そう。たまにあのグループに加わってるらしいんだよね…」

「っ?!」

「早い内に引き戻したくて、ゼオさんに頼みたいんだよ。私が昔お世話になった様に、シュガも…お願いできないだろうか…?」


 期待の眼差しがザクザク刺さる。

 

「…商会長。商会長とシュガ坊っちゃんは違いますよ?」

「…うん。わかっているよ」

「店の為になるとは限りませんよ?」

「うん。私もそうだったろ?」

「本人が出す答えは、本人の物ですよ?」

「うん。うん。どうか、シュガを本人の人生に向き合わせて貰えないかな?」

「私は大層な事は出来ませんが…あの時と同じとも限りませんし…」

「うん。でもゼオさんがいいんだ。ゼオさんにお願いしたいんだ。それでダメなら、私が最後まで責任を取るつもりだよ?」

「…っ。わかりました。今からですか?」

「ありがとう!準備が整ってからでいいよ!あの場所は手を入れてあるから!」

「…はぁ。最初から罠にハメられていましたか。わかりました。準備します…」


 ソっと退室した。

 部屋を出てすぐ、奥様から深くお辞儀をされた。

 …とんでもねぇ方向に人生が転がったというのだけがわかったわ。


 まずは男爵家の次男が率いる愚連隊グループ。

 まぁ不良の塊よ。

 いちゃもん付けたり、悪さしたり。

 なまじ貴族が混じってるから、手も付けられねぇの。

 中学生の不良グループって感じだな。

 ちょうど男爵家の夫婦が仕事で遠方へ行ってるから、ハッチャケたんだろうけどさ。

 帰って来たら、とんでもねぇ沙汰が下ると思うよ?

 だって真面目な男爵夫妻なんだもん。

 だから、シュガ坊っちゃんを早い内に引き剥がして隔離する必要があるんだよな。

 んで、シュガ坊っちゃんもグレちゃったんだろうな…

 商会長夫婦も愛情注いでいるとは言え、忙しいからな…

 しかも、シュガ坊っちゃんは商会長に似て、結構意地っ張りだからな。

 素直になれないんだろうなぁ…


 商会長も昔、超捻くれてグレグレで。

 先代の頼みで俺が回収したんだよな…

 はぁ…

 …んじゃ、懐かしき自給自足生活の準備を始めますか。

 …冒険者登録しといて良かったわ。

 けど、大丈夫かなぁ。

 俺の身体、持つかなぁ…

 あの時、10代だったんだけとなぁ…

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