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1. おじさんは気付いた

 歳を重ねるごとに、急激な不安に襲われる時が増えた。

 自分はこのままでいいのか?

 何かするべき事があるのでは?

 ここに留まり続けるべき…なのか?

 

 漠然とした感覚だった。

 飲み屋で話すと、皆んなそんなもんだって聞いて一応の納得は出来ていたんだが…

 町のど真ん中でフッと思い出してしまった。


『俺、異世界転生してる…』


 剣と魔法のファンタジー。

 前世日本人。

 転生時の神様的存在との会話無し。

 主だったチート無し。

 身分無し。町民A。

 主人公的要素無し。

 ギリアラフォーの独身、恋人無し(前世込み)。


『…前世を思い出す意味、とは?』


 町の真ん中で頭を抱えてしゃがみ込んだね。

 普通、こう言うのは幼き頃に思い出すもんじゃないのか?

 それにこの年代で覚醒するなら、チートな見せ場込みでヒーロー的な感じで登場じゃないのか?

 何でヌルッと思い出すのかが、わからん。

 思い出した所で、前世普通のオッサンだっただけなんだが?

 オッサンにオッサン加えても、ただのオッサンでしかないんだが?

 再度言おう。

 意味がわからない。

 

「んで、思わず来てしまった冒険者ギルドか…俺は厨二病にも罹患していたのか…」


 普通のアラフォーオッサンならば、そろそろ冒険者を引退する辺り。

 今まで町の仕事を廻ってた俺には、無理だと思うんだが…ついつい来てしまった…


「冒険者ギルドへようこそ。本日は御依頼ですか?」

「あ、いや、その…」


 入ってすぐに職員さんに声をかけられてしまった…

 何の変哲も無い町民なオッサンが来たら、まず依頼以外の何物でもないよな。


「…もしかして、冒険者登録ですか?」

「っ?!」


 お互いに唖然とした顔で見つめ、

『マジかよオッサン?!』『何故わかった?!』

 そんな心の叫びを目で語り合う…


「…冷やかしですか?」

「…いえ。不意に思い至って、つい…」

「そうですか…まぁ、そんな人もよくいますね…」

「えぇ…えぇ?よくいるのか?」

「まぁ、それなりに…ただし、己の力量がわからず、長く続く事もありませんでしたが…」

「ですよね…」


 遠い目をしている職員さんを見ればお察しだな。

 いきなり『俺は出来るはず!』を発動させて、華々しく愚か者の花火を炸裂させたり。

 ソっと諦めたんだろうな。


「まぁ、仕事は色々な分野に渡りますから、副業で熟されてる方もおりますし。無理が無い程度なら大丈夫かと思います。多分」


 多分の部分がとても重い感じがする…

 軽い言葉でいて重い…

 

「せっかくだから登録していきます」

「わかりました。受け付けに並んで下さい」


 冒険者で賑わう受け付けを示される。

 …賑わってるのは若い職員の所だな。

 オッサン受け付けの所は割と空いてる様だ。


「…何か、空いてる所は切なさと愛しさが込み上げるな…」

「…彼は優秀な職員なんで、本当ならあちらに並んで欲しいとは常々思ってますが」

「…若い子にお近付きになりたい奴等が多いんだな〜…仕方がないのか」

「ですね…」

「ありがとう。行ってみるよ」


 優秀の言葉に心強さを感じて、この世代のオッサンである俺は、そちらへ向かう。


「本日は、どのような御要件ですか?」

「冒険者登録にきました」

「…こちらに必要事項を記入し、登録費用の銀貨2枚をお願いします」

「はい」


 流石に落ち着いた対応だな。

 こんなオッサンが来ても、突っ込みは無いし。

 少し間を取った位の対応力。

 心強い。

 必要事項を記入して受付へ返す。


「確認しました。証明札を準備しますので、少々お待ち下さい」


 カードじゃ無いんだよな…

 この世界の冒険者証明は認識票だ。

 まぁ、ドッグタグだな。

 強さ評価もABCSじゃなくて☆マーク。

 ☆無しから始まって、☆10個までの10段階評価なんだよ。

 ランクアップする度に☆がタグに増えていくスタイルだ。

 タグの素材も、☆2まで鉄→☆4まで銅→☆6まで真鍮→☆8まで銀→☆10までミスリルに変わる。

 1番多いのが☆6までの真鍮の冒険者だな。

 なんで一人前の冒険者と呼ばれる様になるのがそこに到達した奴等だ。 

 ☆が増えるのは出来高制。

 勿論、依頼主の評価込みの総合判断だ。

 しかも、ステータスとか表示される訳じゃないから、自分の力量を考えながら事に当たらないとならんのが大変な所だが。

 まぁ俺は、銅までいければ御の字位で良いかもしれないな。


「お待たせしました。ゼオさん。登録サウル町。☆無し。鉄の証明札になります」

「ありがとうございます」

「詳しい事は、その都度確認をお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


 鉄の証明札を受け取り、ギルドの食堂兼売店に向かう。

 鉄のタグは首から下げるか、身につけとかなきゃ無くなるからな。

 紐とかの付属品は実費なんだよ。

 なんで、俺は首から下げるタイプにするつもりだ。

 黒い革紐を選び、タグを通して首にかける。

 よし。

 冒険者って感じがする。


「副業かい?」

「あぁ。身体が動く内に、少しな」

「そうだよねぇ。まぁ、無理せず頑張っておくれな」

「おう。ありがとさん」


 売店のおばちゃんからもエールを送ってもらったし、軽い依頼が無いか見てみるか…

 依頼の貼ってある場所まで移動すれば、もう殆どの依頼が出払ってる感じだな。

 残ってるのは、常時依頼か…


 依頼は紙の場合もあるが、古布に書かれた場合もある。

 まぁ、羊皮紙の場合もだな。

 んで、受けたい依頼の物を掲示板から剥がして持って行くんだが。

 常時依頼は、この掲示板に固定されてるやつで、剥がさなくとも受け付けてるんだ。


 ※街道に出るゴブリンの討伐。

 ※野良スライムの討伐。

 ※薬草10本ごとの採取。


 全部銅貨3枚の仕事だ。

 ゴブリンもスライムも討伐証明は魔石の提出で、1個につき銅貨3枚。

 勿論、死体の処理も込みの依頼なんだ。

 だから、ゴブリンはかなりの労力の割に値段がそれ位なんで、冒険者からかなり嫌われている。

 かなり出るからな。

 ギルドの方でもコスト対策的なもんだろ。

 薬草も10本で1束として銅貨3枚。

 収入とするには中々に大変なのだ。

 その他にも急遽討伐した魔獣の素材や魔石も適正に取り引きしているので、ありがたくはあるんだが。

 俺の前には変則的に現れて貰いたくは、ないな。


 さて、試しに薬草探して来てみるか。

 初心者レンタル武器を銅貨5枚で借り、近くの森まで徒歩で移動を開始する。

 レンタル武器を返すと銅貨3枚戻ってくる仕組み。

 地味に取られてるんだよな…

 近くと言っても、大体5km先なんで1時間程歩くんだ。

 孤児院の子供達やスラムの子供達が、棍棒持ってよく利用してる場所だな。  

 比較的浅い森で、大型の魔獣とかがいないから危険度はそれ程高くないからな。


 …うん。

 街道、この時間って旅人やら荷馬車しか居ないな。

 冒険者らしき人達は、朝早くから出掛けるんだろうな。

 もう昼近い時間ならば遅いってやつだ。

 時々出てくるスライムを剣でスパッとして魔石を掻き出し、デロ〜ンと溶かしながら進む。

 溶けてしまうからスライムは楽だな。


 この世界のスライムは雑食だ。

 好みで餌が変わる事は有るらしいが。

 内包している酸性の粘液で溶かし、吸収している。

 ラノベとかに出てくるタイプだ。

 勿論ラノベタイプなので、トイレやら浄化槽、ゴミ処理場や下水道等で活用されている。

 そして増えたスライムは、定期的に間引き依頼が出ているが。

 そこからチョロリと逃げ出すのもチラホラいる。

 だから道に出てくるスライムは、野良スライムで駆除してもよろしいのだ。


 ポクポク歩き続けて、森に到着。

 浅めの所で薬草を探しておきたい所だが…

 子供達の事も考えると躊躇われる。

 …まだ俺には町での仕事もあるからな。

 自分の身は可愛いが、未来ある若者だって大事だ。

 少しだけ中に入り込んだ所で探そうか。

 小さい小川に沿いながら森の奥へと足を進める。


 薬草は前世で言う所のヨモギと同じだ。

 そのままヨモギの特徴を引き継いでいる。

 ギザギザの葉、葉の裏が白くて柔らかな毛がある、葉を潰すと菊の様な匂いがするってのが特徴。

 なんで、日当たりと風通しの良い土手なんかや道端がポイントだと知っている。

 まぁ、この辺や道端は子供達用だな。

 俺の狙うのは、土手沿いとかポカッと開けた所の薬草だ。

 多分子供達が狙わない所の。

 じゃないと恨まれそうだしな。

 まだオッサンなのに『クソジジイっ!』って暴言吐かれたら、泣く自信がある。

 アラフォーオッサンはガラスのハートだからね?

 優しく放置して貰いたいものであるのよ。


 小川に沿って歩く事10分程。

 いい感じに木々が少ない場所に出た。

 少し小川から離れた場所で探すと、結構生えている。

 若干トリカブトが混じってるのは小川の影響だな。

 ジメジメとした日陰なんかに多く生えているから。

 猛毒のトリカブトも葉がギザギザだ。

 だが、ヨモギよりも緑が濃いし、葉の裏もツルツル。独特な匂いもない。

 今世でも毒草として認知されているので、絶対に採らない。

 薬草のみをササッと刈り取っていくのだ。


 そこで役立つのが、腰につけたポーチだ。

 あっ、チート機能は無いよ?

 普段から、小刀・エコバッグ的な麻袋・火打石・灯り石を入れて歩いてるんだよ。

 急な買い物や、倉庫の点検、急な野宿に役立つんだ。

 そう、急な野宿だ。

 普段は商会の使いっ走りをしてるんだがな?

 町から出る用事で、閉門時間に間に合わなかったのさ…

 そこそこの大きさがある町だからな。

 緊急性がない限り入れて貰えなくて…野宿したさ。

 小刀で削った枝に火打石で火を着け焚き火にし、灯り石をランプ代わりに一晩過ごしたよ。

 凄く寒くて、ひもじい思いをしたっけなぁ…

 …まっ、今回は小刀と麻袋を使うのさ。

 これ、ナイフより小さくて使い易いんだ。

 サクサク切って、10本でくくる。

 紐代わりはその辺の雑草。

 …10束で袋がいっぱいだな。

 あまりギュウギュウにしても傷むから、他は諦めるか。

 ふんわり入る位が良いだろうな。

 うんうん。


 その後、何のイベントも無く。

 無事ギルドで換金する事が出来た。

 

 薬草      10束 銅貨30枚

 スライム魔石  4 個 銅貨12枚

 

 初心者なオッサンにしては、中々の1日だったと思わんかな?

今の自分でどこまで出来るか、長編にチャレンジしてみます。お付き合い頂ければ幸いです。

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