13. 冒険とは…
「坊っちゃん、帰りは下り坂なんで、杖になりそうな棒を見つけて行きましょう」
「杖?」
「…昔来た時は、思った以上にショックで膝が持たなかったので」
「…わかった」
俺の哀愁に満ちた表情が、坊っちゃんに伝わったらしい。
…本当に気持ちが落ちたら、膝に来るんだよ。
ガレ道で膝が使えないと、転がり落ちるしかないのだよ。
そして心身共に傷だらけになるのだよ…
俺は膝の負担を考えて、杖2本のストック持ちにした。
この歳で転げ落ちる事の不安が勝ったのだよ。
「ゼオは杖、2本なの?」
「おっさんの傷は治りづらいですからねぇ…安全対策です」
「そうなの?オレもやってみる!」
「岩場とかになった場合は、手は空けておいた方が安全ですからね。それ意外は役に立ちますよ」
「うん!」
転ばぬ先の杖。
おっさんの傷は心身共に治りづらいのよ。
「でも村長さんのお爺さん、人工ダンジョンなんて、なんで作ったのかなぁ?」
「あぁ…本当なら、食料になる魔獣を生成するダンジョンを希望してたみたいですよ?」
「調節できないの?」
「残念ながらできないのですよ」
人工ダンジョン。
ダンジョン核の欠片等を磨き上げて、魔力を込めた物だな。
上手くその場所に馴染めば、魔力の循環が結ばれ機能し続けるもの。
まぁ、小物の魔獣を生成したり、植物や鉱物資源の生成で環境変化を狙う為に使用されている。
上手く行けば良いのだが、コレばかり完全にランダムで現れるため、ガチャ並に運の要素が大きいのだ。
「お祖父さんも、食料狙いでしたし。せめて植物や鉱物資源を…と願いながらのコレでしたからね…膝を突いて嘆いたと日記にあったそうです」
「…スライムだもんね」
「…10匹以上増えませんし」
「…増えないんだ」
「…増えませんね」
スライム洞穴、どう言う訳か増えないんだ。
きっちり10匹。
いや、わかるんだよ?
あのダンジョン核の欠片の限界が10匹なんだよ。
けど、普通は生殖活動があるんだ。
スライムなら分裂して増えるんだが。
…多分だが、増えても吸収されてるんじゃないかと思っているんだよ。
ギリギリ10匹生成出来るけど、足りない所が出るから回収もして…って。自転車操業だよなぁ。
「他の魔獣の魔石とかでダンジョン核を育てれないの?」
「お祖父さんもそう考えたそうで、冒険者時代に手に入れた火熊の魔石を洞穴に吸収させたそうです」
「火熊っ?!凄いっ!」
「火熊はかなり難易度が高いので、素材も魔石も高額で取り引きされますからねぇ」
火山地帯に出て来る魔獣だな。
かなり大きい上に獰猛だ。
前世の羆とそっくりな見た目だが、こちらは火の様に赤毛で、強さに応じて毛色の変化が見られる個体なんだ。
オレンジ<赤黒<青<白と、地毛が赤で毛先の色がグラデーションで変わる。
お洒落な熊なのだ。凶悪だけどな。
「そんな凄い魔石を使っちゃたんだ」
「はい。出て来るスライムが5匹から10匹に増えたそうです」
「……勿体無いね」
「……勿体無いです。膝を突いて嘆き、諦めたそうです」
「…御冥福をお祈りします」
「ぶふっ!…坊っちゃん、不謹慎ですよ?」
「噴き出したゼオの方が不謹慎だよっ?!」
いや、だってな?
坊っちゃんが真面目な顔で言うのが、妙にツボってしまったんだ。
いかんいかん。
おっさんの思考能力は、坊っちゃんに毒だな。
坊っちゃんが若干本気で怒ってるな。
素直に謝らないと。
「すみませんでした」
「うん」
坊っちゃんからの許しが出てホッとした。
坊っちゃんは、まだ10歳だからな。
大人の悪い部分は、省く様に気を付けなければな。
ポロリと出る、おっさんジョークは封印だ。
「まぁ、そんな訳で。ダンジョンを育てる方向には行かなかったのですよ」
「…勿体無いもんね」
「…はい。地道に冒険者活動をした方が良いです」
「…うん」
帰り道の足取りは重く、2人でトボトボ歩いて家に向かった。
…ダンジョンの魅力が再確認された、良い機会だと思って欲しいよ。
「あっ、ゼオ、大変だ!」
「どうしました?」
家が見え始めた辺りで、急に坊っちゃんが慌てて声を上げた。
「お昼御飯の準備、何もしてないよっ!」
「…すっかり忘れてました」
「何か探さなきゃ!」
「ですね。すっかり頭にお祖父さんが住み着いてしまいましたからね」
「本当だよね。どうしようか…あっ、ノビル」
すっかりノビルの名前が坊っちゃんに定着してしまったな…
無も無き食用草。
今世の名前もあるだろうが、判別出来るから良いかな?とも思う。
「白いキノコもある…白キノコって毒なんだよね?」
おぉ…坊っちゃんは賢い!
「その通りですよ。白キノコは毒を持つ物が多くあります。上級者のキノコだと思って下さい」
「うん」
「ですが、これ等は食用ですね」
「そうなの?!」
「はい。丸く円陣を組む様に生えていますよね?コレはフェアリーサークルと呼ばれている特徴です」
「ええっ?!妖精がっ?!離れないと!」
フェアリーサークル。
前世でも今世でも、フェアリーサークルに手を出すと妖精の勘気に触れてしまう物だ。
月夜に妖精が踊った名残りとして出来ると呼ばれるキノコの円陣。
妖精が踊っている所に遭遇すると、永遠にその中で踊らされるとか、連れ去られるとか言われている。
子供達がよく妖精に連れ去られるので、親から子供へしっかりと言い聞かされているのだ。
若干盛られた話があるのも仕方がない。
坊っちゃんは、相当脅かされたのだろうな。
「まぁ、落ち着いて下さい。本物のフェアリーサークルは、コレより規模の大きな円陣になりますし、日中でも見張りの妖精が居ますから、すぐわかりますよ」
「ひぇっ!妖精がいるの?!」
「コレにはいませんね」
「そっか…」
これは大丈夫。
前世でハラタケと呼ばれるやつだ。
マッシュルームに近い種類なんだよ。
ただ、ハラタケ属には毒キノコも多くてなぁ…
似たり寄ったりの特徴が満載だから、素人が手を出しちゃいけないやつなんだよ。
「このキノコの仲間は、毒キノコが多いので、坊っちゃんは手を出さない方が良いかも知れないです。出来れば鑑定持ちの人に確認して行った方が安全ですからね?」
「えぇ…!ゼオは大丈夫?」
「俺は一応、こんな物を隠し持っています」
左手に装着していた、商会証のバングルの一部をスライドすると、ルーペが出てくる仕組みになっている。
「凄い!何、それっ!」
「これは、簡易鑑定をする魔道具です。良・不良、可・不可、毒・無毒、異常・正常、安全・危険等の簡単な情報を得る事ができるんですよ」
「商会証って凄いっ!オレのは?」
「うちの商会の特別仕様なんですよ。必要に応じてコソッと使いますね。結構やってる商会も多いらしいですが。残念ながら、坊っちゃんのには付いてません」
「残念だよ…」
「まぁ、商人用ですからね。ただ、簡易的な物なので、自分の持つ知識とも照らし合わせる必要はあります。判断する情報の1つとして使う位の簡単なやつですからねぇ」
一応、ガッツリ鑑定できるルーペや眼鏡なんかもあるんだが。
余りにも高価な取り付けは、自分の身を危険にさらすからな。
別口で大切にしまっていた方が良いのだ。
「使ってみますか?」
「うん!どうやるの?」
「まず、ルーペを近づけて、覗きながら質問します」
「言葉がわかるの?!」
「単語がわかるだけですが」
「なんて言えばいいの?」
「『食用可能か?毒の有無は?』と聞いてみて下さい」
坊っちゃんが、おっかなびっくりルーペをキノコに近づけ、覗き込んだ。
すると、ルーペが緑の光を帯びて『無』と文字が浮き上がる。
「ゼオ、これは?」
「可能な場合は緑に。不可の場合は赤色に光を発します。食用可能で、毒なしと言う事です」
「へぇ…凄いねぇ…」
「聞き方を間違わなければ、とても便利なんですよ」
「そうなんだねぇ…」
「ただ、間違いが無いか確認する事は大事です」
「えぇ?!間違いとかあるの?!」
「念の為にですよ。全部が全部正しいとは言えませんからね。信じ過ぎるのも危険です」
前世で言えばターミ◯ーターの映画に出て来るス◯イ◯ットだな。
まぁ、人工知能に判断全てを任せてはいけないってやつさ。
「確認程度の使用が、良いかもしれない魔道具です」
「えぇ…」
「さて、キノコに戻ります。このキノコ、食べれる物だと裏のひだが若い時は、薄ピンク色…段々と赤褐色になり。最終的に黒褐色になります」
「えぇ…変わっていくの?」
「はい。成長段階で変わっていくんですよ」
「難しいキノコなんだねぇ」
「はい。形も柄の部分から離れていきますし。他のキノコの特徴と重なり易いので要注意です」
「…ルーペが欲しくなるね」
「…本当にそうですよ」
「採り終わったら、もう1度確認するの?」
「その取りです。1つずつ確認すると安心できますからね」
「うん。キノコを食べるって、大変なんだねぇ…」
2人で頷き合い、採取していく。
俺の麻袋に半分位まで採って終了だ。
「坊っちゃん、これも食べれますよ〜」
「えぇっ?!これ、どこでも生えてない?」
「よく生えてますねぇ」
前世のスベリヒユ。今世の名も無き草だ。
「これも下処理をすれば、食べれるんですよ」
「へぇ…」
坊っちゃんは、ルーペを向けて質問する。
「食用可能?毒の有無は?」
ルーペが赤と緑のグラデーションに光り、有りと出た。
「ゼオっ?!毒だよっ?!噓ついたの?!」
「あはははは!下処理した後に、もう1度見てみて下さいよ」
「えぇ…」
家に戻り、再度ルーペで鑑定してから、採取物の下処理をする。
ハラタケを塩水に5分程漬けて虫だしだ。
「ジャブジャブ洗わないの?」
「キノコの香りが抜けてしまいますからね。虫に退場して貰って拭く位ですよ」
「ふ〜ん…」
その間にスベリヒユを丁寧に洗い、根元を切っていく。
「…毒って抜けるの?」
「毒と言う程の毒じゃ無いんですがねぇ」
鍋に湯を沸かす。
その間にキノコを乾いた薄布で拭いていく。
「キノコって拭いていくの?」
「基本拭き取りですね。その方が旨いですから」
「そうなんだぁ」
「拭き終わったら、石づき…この部分を切ってしまいますね」
「食べない部分?」
「はい。食べない部分です」
包丁を坊っちゃんに任せ、スベリヒユを塩を加え茹でる。
茹でたら、水にさらすのだ。
「切り終わったよ〜」
「上手いですねぇ。こちらも茹で終わりです」
「…ルーペでみていい?」
「少し時間を空けてから、見てみて下さいねぇ」
「うん!」
深鍋に水を入れ、干し肉を千切って入れ、火にかける。
その間にノビルを洗い、刻んでいく。
「ゼオ…見ていい?」
「はい。どうぞ」
ゴクリと唾を飲み込み、ルーペを構える坊っちゃんが恐る恐る鑑定する。
「食用可能か?毒の有無は?」
ルーペが緑に光り、無しと出た。
「えぇえ〜っ!!変わったよっ?!」
「ですねぇ」
「…毒って抜けるのもあるんだぁ」
「いかに食料に繋げるか。先人の知恵ですよ」
「…知識って大事だね」
「はい」
深鍋にノビル、スベリヒユの刻み、キノコをスライスして入れて行く。
塩・胡椒で味付けし、蓋をしてコンロから下ろす。
「もう1つ作りますね」
「うん。何を作るの?」
「無発酵のパンです」
「パン?…パン釜は?」
「平鍋で焼くパンです」
「そうなのっ?!」
この世界のパンは、釜で焼かれる。
家に釜がある者は釜で作り、パン屋で購入する者はそちらで。
薪代の事もあるから、圧倒的にパン屋で購入する方が多いのだが。
まぁ、パンは釜で焼くものと決めつけている感じはあるんだよな。
前世のフライパンパンは、多分考えもしないものだったから、目から鱗が落ちる勢いで驚かれたもんだ。
村長達もこのパンで驚いたからな。
今はだいぶ周りに広まってきているが。勿論、俺達発信だ。
日々どこかで目から鱗が零れ落ちている事だろう。
ただ、坊っちゃんは余り台所に出入りしなかったんだろうな。
食べてはいるんだがな。
ボウルに小麦と水、塩を入れてこねる。
平らにのばし、平鍋で焼くと出来上がりだ。
「コレ知ってる!釜じゃなくてもできるんだね!」
「色々あるんですよ」
「凄いねぇ…」
「これも平鍋で冒険した結果のパンですからねぇ」
「…冒険って、奥が深いね」
「…まったくです」
パンを焼く横で坊っちゃんが神妙に呟いた言葉に、噴出すのを堪えるのがやっとだったよ。
色々な冒険があって、色々な結果があって…
人生は色々あるって事を少しずつ感じて貰えるといいんだがな…
…まったく、おっさん心は面倒臭いな。




