12. 振れ幅よ…
「そう言えば、坊っちゃん。ダンジョンって知っていますか?」
唐突に、坊っちゃんへ質問してみた。
いや、実際どれ位、子供達で進んでるか確認しておかないとならないからな。
「もちろん!仲間が冒険者登録してダンジョンを目指してるんだ。強くなって、オレの事も一緒に連れて行ってやりたいって…」
「そうですか。良い仲間と出会いましたねぇ」
ふむ。しっかりとした、良い仲間の様だ。
自分の力量も足りない所も、見極める事が出来るなんて、素晴らしいじゃないか。
流石、坊っちゃんの仲間。
「怒らないの?」
「何故です?」
「危ないから、駄目だって…」
「坊っちゃんは、無謀な事をするつもりですか?」
「まさか!仲間と出来るだけ安全に行くつもりだよ!」
「なら、反対なんてしませんよ」
「えぇ?そうなの?」
「冒険に必要な事は、たくさん知ってから向かって欲しいですがね…勿論、仲間達にも」
「本当に?」
勿論。
ヤサグレを経験したおっさん連中が、こぞって◯を出しますよ?
『よくぞやってくれた!』位言ってしまうかもしれない案件です。
心配反面、色々体験させたいのが男親ですからね。
「はい。その変わり。行くまでの期間は、色々と考える事を辞めないで下さいね。冒険の事。その先の事…そうですねぇ。坊っちゃんが、お爺さんになった時、どんなお爺さんでありたいかを考えると良いかも知れないですね…」
「えぇ?!…凄く遠いよ」
「そうでもありませんよ?」
「…どうして?」
「そうですね…例えば、手足の本数はそろっていた方が良いですか?」
「へ…?」
「どうですか?」
「そろっているでしょ?」
「はい。でも、無い方々もいる、でしょ?」
「あっ…」
そう。
片腕、片足、片目等など…
そういう年配者もいるのだ。
若い頃冒険者だった方々が多いのも実情なのだ。
「身体が欠ける事が無い方がいいよ」
「ですね。では、家族は?お嫁さんや、子供は欲しいですか?」
「え…考えた事、無かったよ…お嫁さんに、子供…?」
自分が子供なのに、さらに子供を持つ想像なんて難しいよな。
ちなみに、俺は想像できなかったせいか、未だに独り身だが?
「はい。将来希望する生き方の最後の方から順に遡った時に、自分は今どうあるべきか気付く事もありますからねぇ」
「…うん」
「その為に、面倒でも色々な場面を想定して、色々な知識を身に付けると良いでしょうね」
「うん」
少し説教臭くなってしまったが、将来、心の隅のどこかしらで思い出してくれたらなぁ〜…位の感覚の話だ。
俺も歳だからな。
どうしてもなぁ…
「少しおっさん臭く、説教臭くなってしまいましたが。実は、秘密基地の近くに、極々小さなダンジョンがあるんですよ」
「えぇ?!本当に?!」
「はい。本当に小さくてショボいですが。見に行きますか?」
「うん!あっ…武器が無いよ…?」
「その辺のイイ感じの棒で大丈夫です」
「そうなの?」
「はい。大丈夫です。では、行きましょう」
ダンジョンと呼べる大きさでもない洞窟のような場所だ。
けれど、分類的にはダンジョン。
ダンジョンとは、ダンジョン核が生成した空間の事をいう。
そこでは魔物や植物、鉱物等が生成され、そこで死ぬと時間が経てば吸収される。
ラノベでよくあるやつだ。
ただし、ドロップアイテムは存在しない。
魔物を倒しても解体作業が発生してしまうし、なんならダンジョン内で繁殖行動を取る魔物もいる。
生成+有性生殖なんだよ。
これが、スタンピードを引き起こしたりもするんだ。増えすぎて。
ダンジョン内のバランスを取るための現象、もしくは活動とみられているんだ。
専門家の中では、ダンジョンは核を有しているのなら魔物の類に入るのでは?と未だに意見が分かれている謎な所だからな。
「さて、坊っちゃん。冒険者が普通ダンジョンに行く上で必要な準備が何かわかりますか?」
「う〜ん…武器?あっ、防具!」
「そうですね。武器も防具も大事ですね。他には?」
「他に?食料や水?」
「大事ですね。他には?」
「他に…仲間?」
「それは、とても大事ですね。他には?」
「えっと…なんだろう?」
少し意地悪な質問だったな。
だが、真剣に考えて貰いたいからな。
「情報です」
「情報…」
ポカンとした坊っちゃんが急にムッとした顔をした。
うん。気付かれたな。
流石は坊っちゃん。
「ゼオ。今から行くダンジョンの情報が無かったよ」
「はい。極々小さなショボいダンジョンとしか言っていませんね」
「本当に武器は要らない所なの?」
「はい。今回は疑わなくとも大丈夫です。が、もし将来向かうのであれば、情報はより正確な方が良いでしょう」
「うん…少し意地悪じゃない?」
「ははは。冒険者になったら、ガセネタで散々な目に遭う人もいますからね。ちょいとした練習ですよ」
「むぅ〜」
坊っちゃんが頬を膨らませて、むくれてしまった。
いやいや。可愛らしい反応だ。
商会長達の時と比べると、月とスッポンポンの差だな。
スッポンポンとは、取れないはずのスッポンの甲羅がポンと外れた状態…あぁ、歳だな。
徐々に頬の空気が抜けていく坊っちゃんに、内心ホッコリとしながら、森と滝側の岩壁の中間のガレ道を登る。
河原に出る道の真逆だ。
途中、イイ感じの棒があったので1本拾うと、坊っちゃんもイイ感じの棒を見つけ1本拾いニコニコしている。
「ゼオ。武器は準備できたから、情報ちょうだい?」
「はい。お互いにイイ感じの武器が手に入りましたね。では、問題です。棒でも対応出来るモノはなんでしょう?」
「スライム?」
「はい、正解です」
「…町の近くの森と一緒だ」
「ゴブリンも出ないので安全です。ダンジョンと言うより、洞穴と言った感じなので」
「…ショボいね」
「…ショボいんです」
うん。
坊っちゃんのテンションが明らかに下がったな。
「坊っちゃん。本物のダンジョンは、仲間との楽しみに取って置いて下さい」
「…うん。そうする…」
ショボンとする、坊っちゃん。
…まぁ、そうだよな。
「ははは。坊っちゃんは前情報があるから、多少ガッカリしましたねぇ」
「…うん。ダンジョンって聞いて、凄くドキドキしたのに。スライムって聞いたら…」
「そうですねぇ。ただ、第一発見者の俺達は緊張から落胆まで酷かったんですよ?」
「…そっか。ゼオや父様達が見つけたんだもんね?」
「そうです。まず、村長が見つけて。商会長がダンジョンかもしれないと準備して、3人で散々気を張り覚悟しながら進んだんですよ」
「うん」
「スライムを倒し、警戒してスライムを倒し。スライムを倒し続けて、洞穴の終点に着いた時、色々なショックで膝をつきましたねぇ」
「色々なショック?」
「それは着いてからの、お楽しみです」
「うん!」
少し興味が上がってくれたようでなによりだ。
スライムしか出ないとわかっても、油断は出来ないからな。
少し興味が上がれば、スライムにやられる事はないはずだ。
「つきましたよ」
「…本当に小さいね」
ギリギリ大人が棒を振り回せる程度の洞穴。
坊っちゃんの目がキラキラしていないな。
けど、失望も無さそうだ。
「坊っちゃんは、スライムを倒した事がありますか?」
「うん!棒で叩いて、魔石を取り出して倒したよ!」
「いいですね。お手本の様な倒し方ですね。では、スライムと出会った時、気を付けなければいけない事は?」
「聞いたよ!強い酸の塊がスライムだと思えって。取り込まれたら、すぐ魔石を掻き出して対処する事と、すぐ取り込まれた場所は水で流す事。顔を覆われると息も出来ないし溶かされるから気を付ける事って」
「素晴らしいです。水で流すか、生活魔法の洗浄で流すか。状況によって変えると良いですよ」
「うん」
荷物に水がある、水魔法に余力がある場合は水。
魔力量の調節ができる、魔力に余力がある場合は洗浄で使い分ける感じだが。
確認したら、既に知っていたので良しだ。
「では。入りましょう」
「うん。オレが先頭でいい?」
「充分に注意して下さいよ?」
「うん!」
坊っちゃんを先頭に洞穴、いや、ダンジョンに足を踏み入れた。
1列で入らないと狭いからな。
ショボダンジョンだが、冒険の始まりだ。
…本当にショボいんだよな。
真っ直ぐ直線の1本道だし。
5mごとにスライムが出てくるが、1匹ずつだし。
10匹目が出た時点で最奥に到達する程の短さ。
そして最後には…
「スライム!ゼオ、次もオレが行くよ!」
「はい。お任せします」
10匹目も坊っちゃんが倒した。
うん。
スライムを倒し終わった時、最奥に気付いて愕然とするんだよな。『短っ?!』ってな?
うん。まさに、今の坊っちゃんのこの表情な。
んで、信じられなくて周りを見渡すんだよ…
「あっ!ゼオ!あそこに通路みたいのがある!」
「はい。行ってみましょう」
「うん!」
お宝か、次の道に続くのかと期待を膨らませて行ったならば…
「え……」
「……」
「えぇ……」
「……」
「そんなぁ……」
すぐ岩壁。
ビー玉サイズの、ちっこい魔核が埋まった岩壁に『おしまい』と岩壁に刻まれた文字。
「こんな…こんな仕打ち…」
「はい。我々も膝をつき、嘆きましたよ…まさか、訓練用の人工ダンジョンなんてってね?」
「…新発見じゃ無かったって事だよねぇ」
「はい。秘密基地もここも、誰かに知られている場所だったんですよねぇ…」
「…じゃあ、秘密じゃない基地なの?」
「ぶふっ!いいえ。秘密基地です」
秘密じゃない基地っ!
新鮮な響きだなぁ…坊っちゃんの素直さが、あの時欠片でもあればなぁ…人生変わったかも知れないなぁ。
「実は、村長のお祖父さんに当たる方が、子供時代に同じくヤンチャをしていたらしくて…後々、お祖父さんの日記に書いてあるのを発見したそうです」
「…お祖父さんもヤサグレさんだったんだねぇ」
「ぶっふぉっ!…ですねぇ。ぶふっ…」
ヤサグレさんかぁ…
爆笑するのを必死に抑える。
洞穴内で爆笑すると、自分の声が凶器になるからな。
耳に大ダメージだ。
「まぁ、あれですよ…みんな多かれ少なかれ通る道なんですよ。その振れ幅が、みんな違うだけの事です」
「そっかぁ…みんな、大ブレだねぇ」
「ぶふっ…坊っちゃんも仲間ですよ?」
「そっか!そうだね!あはははは!っ?!」
「耳に響くんですよ…ぶふっ!」
「……初めて知ったよ」
「御者と一緒ですよ」
「ぐふっ!…つらい」
「我慢するのつらいですよねぇ…ぶふっ!」
「今日も、思い知ったよ…っ」
その後、2人で口元とお腹を押さえて、急いで洞穴から抜け出し、外で存分にわらった。
こんなのも悪くないな。
「ねぇ、ゼオ…村長さんのお爺さんも村長さんだったの?」
笑いが治まった坊っちゃんが、視線を地面に落としながら聞いてきた。
「はい。若い頃は冒険者をして、子供が出来る頃に村長を継いだそうです」
「そっかぁ…1つじゃなくてもいいのか…」
「色々あるのが人生ですからねぇ…その都度考えても良いと思うんですよねぇ」
「…うん。そうだねぇ」
坊っちゃんと2人で空を見上げる。
雲1つない、快晴。
坊っちゃんの心も、快晴になれば…と思うんだ。




