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11. 洗濯に貢献したおじさん

 昨夜は、坊っちゃんの後に俺も入った。

 お湯の量が、若干心許なかったが…次回は足してから入ろう。

 余り湯で石鹸豆を浸していたので、今日の洗濯はスムーズにいけるだろう。


「ゼオ、おはよう!」

「おはようございます、坊っちゃん。調子は、どうですか?」

「元気だよ!風邪なんかひいてないよ?」

「なら安心です」


 良かった…

 坊っちゃんが、大丈夫だとは思ってはいたが、万が一があるからな。

 外風呂だから、余りにも外気が低いとそこから風邪のパターンもあるし。

 少し考えた方が良いかもしれないな…


「もぅ。ゼオは少し大袈裟なんだよ」


 大袈裟か…子供時代だったら俺もそう思ったかもしれないが。

 おっさんになると、心配や不安が襲ってくるんだよな…

 特に、商会長程の無茶や、やらかしをしていない坊っちゃんなんて、心配が重なって行く一方だ。

 商会長達と違って、素直で可愛らしいからな。


「坊っちゃん。若さを過信してはいけませんよ?あの村長だって、ずぶ濡れで風邪をひいて、商会長と俺が、大変な目に遭わされたんですから」

「えぇ?!村長が?!」

「はい。村長に風邪をひかせるような強い風邪でしたからね…順番に襲われましたよ…治りかけた時に1人、また1人と…犠牲になりましたね…」

「ぶっ、みんなで風邪引いちゃったの?」

「はい…村長が1番回復が早く、1番看病をするのに向かない人間、なのがわかりましたよ」

「あははははは!気を付けるね?」

「お願いしますね?」


 ちなみに、あの時は最後に風邪をひいた俺が、根性で病人食を作り続けたよ。

 病人に焼いた肉を出すなんて、言語道断だ。

 朝のルーティン、身支度と水汲みを終えて台所へ。

 昨夜の残りに水とスープの素を足し、かさ増しスープを作る。

 そこに新たなすいとんを投入し、朝食の完成。

 

「かさ増しダンプリングスープの完成です」

「楽ちんだね!」

「ですね。さて、食べてしまいましょう」

「うん!」

「「いただきます」」


 出汁感が薄れたけど、問題ないな。

 うん、美味しい。

 坊っちゃんもモリモリ食べているし。

 食後の洗い物を一緒に終えて、荷物からロープを出して、入り口の椅子の上に置く。


「坊っちゃん。洗濯を終わらせてしまいましょうか」

「うん!」

「着替えは3日分しか無いので、適時洗濯が必要になります」

「うん!」

「ただし、毎日着替えるのは下着までです」

「…うん?」

「服は汚れ無い限り2〜3日着ます。よそのお宅では、身体は拭いても、お風呂は滅多に入らないという所も多いんですよ。下着も毎日替える所は、実はかなりの綺麗好きの部類に入ります」

「えぇ〜っっ!?」


 そうなのだ。

 うちの商会長達の生活は、水準が高い部類なんだよ。

 庶民は、そんなに頻繁に着替えも洗濯も出来ないんだよな。

 ちょっとゆとりがあれば、週2回位、公衆浴場に行けるかな?って所だ。

 後は、身体を拭いたりでしのぐ。

 下着も、ちょっと臭うかな?位まで替えないんだよな…

 スラムの子達なんか、川で全身丸洗いしてるし。

 あと多いのは、寝る前に余力魔力があった場合、生活魔法の洗浄で対処してるんだよな。


「風呂に入る。洗濯をするという労力と、金銭が発生しますからね…どうしても削りがちになるんですよ。そんな中、世のお母さん方や洗濯担当者は、みんなの事を考えてくれているんです。ありがたいですよね」

「大変な作業なんだ…」

「まぁ、私達の分は少ないので、楽しんでやってみましょうか」

「うん!」


 昨夜用意して置いた石鹸豆水入りの大きなタライを井戸近くまで引きずる。

 排水溝を作った辺りだ。

 …こんなに年月が経っているにも関わらず残っているのは、時々誰かしらが手を入れているからなんだがな…主に村長だけど。

 たまに商会長と遊びに来ているっぽい。

 奥様が、たまに愚痴ってくるからな。

 いいおっさん2人で何やってんだか…


「ゼオ?腰痛いの?」

「すいません、ちょっと色々想い出してまして」

「この溝?」

「まぁ、はい。村長の土魔法がなければ難しかったなと思ってまして」

「村長凄いねぇ」

「はい。なかなか優秀な土魔法なんですよ…」


 それ故に将来の進路に迷いが出てしまったんだがな。

 迷いに迷って覚悟を決めるまで、なかなか苦しんだと思うんだよな。


「じゃあ、井戸も村長なの?」

「はい。素晴らしい手際でしたね」

「凄いねぇ。父様は?」

「商会長は魔力量が多いので、身体強化を上手く使い、1番力仕事ができましたね」

「えぇ?!凄く意外!」

「ふふふっ。坊っちゃんは、商会長にそっくりな使い方をしてますよ?親子ですねぇ」

「そうなの?」

「はい。魔力もありますが、使い方が上手なんです。使い所、止め所を見極める事が素晴らしいんですよ」

「そうなんだぁ…」


 素直に納得する、坊っちゃん。

 商会長は、それで苦しんだんだけどな。

 冒険者には重要な能力だから。

 商会を継ぐかどうかで揺れて、グレて…

 自分の帳尻合わせに大変な苦労をしたんだよ。

 

「さて、洗いましょうか」

「うん!」

「ます、石鹸豆を取り出します。カスが付着する場合があるので、布などで濾して液を使うのが一般的ですが。そこまで丁寧にしなくても気にならなければ取り出すだけでかまいません」

「あはははは」


 そのまま石鹸豆をポイすると、坊っちゃんが爆笑している。

 掴みはOKだな。


「洗濯は、汚れが少ない順に洗います。まず、タオルや手ぬぐい、下着を入れて揉み洗いをします」

「うん!」

「下着は汚れ易い所を擦り合わせて洗いますよ」

「うん!」


 坊っちゃんと一緒に揉み洗い、擦り洗いをする。

 良い所まで洗えたら、ギュッと絞り、空の木桶に入れていく。


「さて、次に服の方ですが。泥や汚れが付いていた場合、あらかじめ軽く落としてからタライに入れますね」

「うん。今回は大丈夫そうだよ?」

「ですね。では、入れてから、踏み洗いします」

「踏むの?」

「はい。ズボンを膝上まで捲って下さいね?靴を脱いで、タライに入ります」

「うん!あれ?ゼオは?」 

「坊っちゃんが丸洗いされない様に、外側の手すりになりますね?」

「うん!」


 坊っちゃんと向かい合わせで手を繋ぎ、服を踏んづけ、足で擦り合わせでザブザブ洗っていく。

 途中、滑って慌てたりもしたが、良い感じの洗濯だ。

 服も水を絞り、木桶に入れる。

 坊っちゃんに1度タライから出て貰う。


「足、汚れちゃうよ?」

「タライに入る前に洗い流せば大丈夫ですよ。さて、濯ぎに入りますね?」

「うん」


 タライから水を捨て、石鹸成分を洗い流してから水を張り、木桶の洗濯物を投入する。

 坊っちゃんの足を流して、坊っちゃんも投入。


「さっきと同じ、踏み洗いですよ」

「うん!」


 ふみふみする坊っちゃんの足捌きが、こなれて来たようだ。

 流石、坊っちゃん。

 習得が早すぎる。


「坊っちゃん。足捌きが熟練の洗濯師の様になってきてませんか?」

「なんか、コツを掴んだかも?」

「凄いですねぇ」

「あははははは」


 2回水を張り替えて終了だ。

 絞った衣類は木桶に入れてある。


「どこに干すの?」

「今、作りますね」


 家の入り口に置いていたロープを手に取る

 先端に輪を作り家の端のフックにかける。


「坊っちゃん、ちょっと持っていて下さい」

「うん」


 ロープを坊っちゃんに持っていて貰い、少し離れた所にある細めの丸太を穴の空いた石に突き立てる。

 洗濯物を干す為に切り取ってきたやつだ。

 …こいつも妙に新しくなってるな。

 村長だな。


「坊っちゃん、ロープが地面に着かない様にこっちまで持って来て下さい」

「うん、わかった!」


 坊っちゃんが慎重にロープを運んで来る。


「どうするの?」

「ロープの端を丸太にかけ、この様に結びます」


 前世で言う所の、もやい結びだ。

 キャンプとかによく使うやつ。

 結構万能なんだよな。

 今世でもこの結び方があり、呼び名は特にない。

 井戸の汲み桶を結んだり、舟をロープでつないだり。荷物を括り付けたり。

 色々な場面で使われている。

 今回は洗濯物干しロープとして使う。


「さて。ここに洗濯物をかけて干していきますね」

「うん!」


 入り口の椅子を運び、坊っちゃんの背に届きそうな辺りに設置する。

 坊っちゃんに椅子を踏み台にするよう伝え、洗濯物をパシッと伸ばす作業を行い、ロープにかけて貰う。


「タオルの端が丸まったままかけてあると、そこだけ乾かない場合があるので、気を付けて下さいね」

「あっ!わかった!直すね!」


 よいしょよいしょと頑張る坊っちゃんが、本当に素晴らしい。

 素直に行動できるなんて…

 商会長と村長なんて、ぶーぶー文句たらたらだったのに…

 素晴らしいとしか言えないじゃないか…

 心が洗われていくようですよ。


「服もタオルみたいにかけるの?」

「ロープを袖から袖へ通して干す場合もありますが、今回は距離も長いので洗濯バサミを使います」

「洗濯バサミ?」

「はい。クリップは知っていますか?」

「うん。紙を挟むパチッとしたやつ」

「はい。あれの洗濯物版ですね。こっちが最初にできたんですけどね?」

「え?」

「ロープを通して洗濯物を干すのが面倒になったある人達が考えて、作ったそうです」

「そうなの?」

「はい。きっと長いロープで回収するのを失敗してたんじゃないですかねぇ」

「…ありそうだね」

「多分、急な雨にも慌てたと思うんですよねぇ…」

「そうだね。せっかく洗濯しても、汚れたら悲しいね…」

「はい。きっと、そこからできたのだと思いますよ」


 作ったのは誰とは言わない。

 できたのも、伝わったのもここ20〜30年位だともな。

 とある3人組が職人に頼み込んで広がったなど、言って無駄に自慢する程の物でもないからな。


「便利になったんだねぇ…」

「はい。本当に助かりますよね」

「作った人に感謝だね」

「はい。本当に」


 ロープの太さを物ともせず、しっかりと洗濯物を掴む存在に感謝を込め、頷いた。

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