9話 裏話
――ヘキエ王国にて。
「いやぁ、お見事やわぁ」
ジェイドが鏡を見ながら拍手した。
ノアールも満足そうに頷いている。
「素晴らしい成果ですね。遠隔監視をしている他の国の皆さまも、我が国がどのような国かご理解いただけたでしょう。これから忙しくなりますよ」
「僕も早よぉこの情報を売りに行かなあきまへんわ」
ノアールはジェイドにゆっくりと手を伸ばした。
ジェイドは顔を顰めて、伸ばされたノアールの手と顔を見比べる。
「なんや、見物料取るつもりやったんかいな……」
「ご用意はあるのでしょう?」
ジェイドは懐から陶器の小瓶を取り出して、ノアールに渡した。
「ノアールはん、抜け目ありまへんなぁ」
「必要ですので」
ノアールは小瓶を受け取って、少し揺らして中身の確認をした。
「あれだけの血で、姫さんがあそこまでやれるとは僕も知らんかったわ」
「操血は、吸血鬼にとって呼吸のようなものですよ」
ジェイドの細い目が見開かれた。
「……あれでまだ序の口なんかいな」
「ええ。売られては困りますので話しませんが」
ため息をついたジェイドは、首を横に振る。
「僕にも一応ポリシー言うもんがあるんよ。特に僕を創った弟君の要望は、裏切りそうで裏切らん。やで?」
「おやおや。でしたら、そのように振る舞われてはいかがですか?」
くすっと笑ったノアールに、ジェイドは目線を逸らしながら口を尖らせた。
「ノアールはんの鬼。いけず。僕かていつまでも外様でおる気はあらへんのやから」
「……意外ですね。忠誠心というものがあなたにあったとは」
「ほんま見くびらんといてほしいわ。隣国に行って情報持ち帰ってくるで?」
ぷいっと踵を返して外へ出て行ったジェイドを見送ったノアールは、薄く微笑みながら小瓶を懐にしまった。
鏡の向こうでは、何も知らないユメノが帰りの馬車の中で頭を抱えていた。
「……私の手のひらから逸脱する者は現れるのでしょうかね」
ノアールの、どこか寂しげな言葉が空虚に響いた。




