5話 誰もいらないドラフト会議
「どうしたんですかぁ? なんのご相談ですぅ?」
地獄のドラフト会議だよ。
これだけ指名したくないメンツが揃ってるのはある意味すごいよ。
「ブランを連れて行こうかな。女の子で通したらいけそう」
……いや待て。
絶対薬を混入させられる。
しかも絶対他の転生者に暴言を吐く。
そもそも、男の娘を侍らせているとバレたら人生が終了する時点でリスキーすぎる。
「もしかして、お出かけですかぁ!? 僕行きたいですぅ!」
ブランは両手を頬に当てて、ぶりっ子のポーズをしている。
「ダメ。却下。可愛い子はお家にいようね〜」
「うぅ……そんなぁ……」
ブランが嘘泣きし出した。
「ブラン嬢、お気を確かに!」
グレイが嘘泣きに気づかずにブランを慰めようとした。
「うっせぇグレイ! お前が選ばれるわけねぇだろ!」
「ブラン嬢ッ!?」
グレイの腹に蹴りを入れたブランは、多分毒入りのサンドイッチをグレイの口に詰めている。
喧嘩はやめてほしい。
さて、となると……。
ジェイドを見る。
目を細めて胡散臭い態度でこちらを見ている。
「ジェイド……はダメだ」
こいつは転生者相手に商売を始めてしまう。
それに私の目の前で他の転生者に寝返る可能性もある。
……弟よ、設定はちゃんと姉に開示しといてくれよ。マジで。お姉ちゃん、こいつの事一番わからなくて怖いよ。
「姫さんいけずやなぁ」
ニヤニヤと笑っているところを見ると、ジェイドは元から行く気がないようだ。
まぁ、腐っても諜報員なのだから公に出るには適していない。
「ノアールは……まだマシか?」
唯一、理性的に待てが出来そうだ。
……本当か?
でも黙って突っ立ってたらいい男なんだから、この中だと一番安心感がある。
「私は行きません。その代わりにグレイを連れて行って下さい」
グレイを卍固めしていたブランが固まって、ノアールを見た。
私もノアールを見て尋ねる。
「その心は?」
「私はこの国の統治があります。グレイならば護衛としても優秀ですし、身体能力に優れていますから、いざという時に盾にできますよ」
あー、能力値の話ね。
ドMだから防御力、耐久極振りなのだ。
たしかに、ブランにあれだけやられてピンピンしているところを見るに、護衛(肉盾)としても役立ちそうだ。
「姫様! 必ずやお役に立ちます!」
グレイは張り切っている。
……それはそれで、すごい心配なんだが?
まぁ、当たり障りはないか……。
「よし、グレイ。言うこと聞かなかったら許さ……」
いや、この言葉はご褒美なのでは?
「許す。存分に許すから、大人しくしてくれ」
「はい!」
「姫様ぁ!! 僕も許してください!!」
とうとうブランは跪いて懇願し出した。
……もしかして、好感度調整ミスったらブランに刺されたりする?
「許すから、刺さないで」
「じゃあ連れてってくれるんですかぁ!?」
「却下」
体育座りしていじけている。
やはりブラン、可愛い。
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大きな鏡をノアールとジェイドが見ている。
「姫さん行ってしまいましたなぁ」
その鏡には、馬車を降りたところのユメノが映っていた。
ちゃんと転生者会議の会場に着いたようだ。
しかし、貧血のようにふらついている。
「ノアールはん、よろしいんです? 姫さん、危ないんとちゃいますか?」
ジェイドに問われたノアールは、手元にある小瓶を指先で弄んでいた。
「グレイを殿下につけたのは、いざという時に迷いなく自分の首を切って血を差し出せるからですよ」
「おお怖っ。それで姫さんが血ぃ飲むとええんやけどねぇ」
ジェイドは目を薄めながら、口元を袖で隠す。
「問題ありません。殿下の判断能力を下げるため、グレイには会議中、椅子として振る舞うよう指示しています」
にこやかにノアールは答えた。
「……えげつないことしますわぁ。それでグレイはん、えらい喜んで行ったんやなぁ」
「従者として、当然のことをしているまでですよ」
ジェイドがノアールに値踏みするような視線を送る。
「……それ、あんさんが見たいだけでっしゃろ?」
空気がピシッと固まった。
しかし、ノアールはいつものように薄く笑みを浮かべていた。いつも通り礼儀正しく、余裕な態度で。
だが、少しだけ返事が遅れた。
「……吸血鬼は上位種族です。その力をいつまでも燻らせていることを、私は許容できないだけです」
ジェイドは口元を袖で隠したまま笑いを抑えた。
そんなジェイドにノアールは目を細める。
「何か?」
「なんもあらへんよ。ただ、ええ趣味しとりますなぁと思っただけですわ」
「金銭でしか価値を計れない商人に言われたくはありません」
ノアールの冷たい視線がジェイドに刺さる。
ジェイドは少し嬉しそうにノアールを見た。
「……姫さん、逃げへんとええなぁ?」
「殿下が私の主であることをお忘れなら、思い出していただくまでですよ。多少、手荒な方法にはなりますが」
ノアールは手元の小瓶を手品のように消した。
まるで、お前などいつでも消せるというように。
それを見たジェイドは、やれやれと首を振る。
「……はぁ。この情報はさすがに売れやしまへんわ。まだ僕も死にたくないさかいに」
「賢明なご判断ですね」
二人は鏡に視線を移した。
転生者達が集まる会議。
それは、それぞれの転生者が国力を示し、従者達が牽制し合う場であることは誰もが気付いていた。
――ユメノを除いて。




