4話 金髪赤眼の吸血鬼
自室に一人。
ドレッサーの鏡に映る私を見た。
窓から入る月明かりに照らされた、淡い金髪。
赤い瞳。
白い素肌。
華奢で控えめな胸。
夜を支配するようなドレス。
口を開けると、小さな牙が二本見えた。
ユメノ・ヘキエ・ロードスター。
種族、吸血鬼。
「あ゙あ゙ー! なんで吸血鬼にしたの!?」
頭を抱えて苦しむ。
これもまた、癖だった。
金髪赤眼の吸血鬼!
誰もが通るテンプレ性癖!!
試しに手を出して「ファイヤ!」と唱えてみたが、魔法は出なかった。
魔法は使えないのか?
私の魔力値はゼロじゃなかったはず。
でも魔法の出し方がわからない。
「血が足りないとか……?」
それはそうと、少し喉が渇いてきた。
部屋にあった水を飲んでみても、満たされない。
この感覚は、あれだ。言うなればお酒だ。
仕事終わりに一杯やりたい気分に非常に近い。
受け入れたくない、この現実。
これ……もしかしなくても吸血衝動だよね!?
……で、誰の血を吸うわけ?
私の作ったキャラクター達は、私以外全員人間。
もはや言い逃れできないほどに、全員が吸血対象だった。
詰んでる!
あんな奴らの血を飲みたくない!
命を対価に私の尊厳が失われる!
思い出せ!
私のキャラ設定!!
"金髪赤眼の吸血鬼。その可愛い見た目とは裏腹に、能力は最強クラスである。しかし、その代わり血を吸わないと死んでしまう"
あ゙ー!!
ざっくりしすぎィ!!
壁にガンガンと頭を打ちつける。
体が頑丈すぎて、額に傷すらつかない。
だって、シナリオや細かい設定の整合性は全部AI任せだったから!
「AIナレーターさん来て!? 私にストーリーを与えて! これから私にどうしろと!?」
私の職業はイラストレーターなんだけど!?
脚本家でもなければ、小説家でもない。
ゲームでは、AIナレーターのログを確認しながら進めていた。
キャラ設定にないことは、AIが補完してくれるのだ。
「終わった……。嫌だ。吸血したくない……」
グレイは喜んで首を差し出してきそうだけど、気持ち悪い。
ブランも喜んで血を渡してきそうだけど、何が入っているかわからない。
ジェイドは絶対金銭のやり取りが発生する。
ノアールは……プライドをへし折ってきそうで嫌だ。
まだ、耐えられる。
……明日から、絶対にこの吸血衝動を誰にも悟られないようにしなければ。
***
……翌朝、低血圧気味の体を起こして部屋を出ると、ブランが扉の前で待っていた。
「姫様おはようございますぅ! お部屋のお風呂使いましたね? どうして? 僕、待ってたんですよぉ!?」
昨日と変わらない可愛さで、ブランは詰め寄ってきた。
お花のいい香りがふわっと漂う。
「性別が違うんだよ……メイドだけど」
「姫様はぁ、お世話させる為に僕を作ったんじゃないんですかぁ!?」
涙目で縋ってくる。
……可愛い。
けど違うんだ。男の娘にお世話してもらうために作ったんじゃない。
愛でたかっただけなんだよ……。
ごくり、と唾を飲み込む。
この唾は、決して吸血したいとか、美味しそうだとか、そういうことじゃない! ないったらない!
「ごめん、だったらお風呂以外はお願いするよ」
私がそう言うと、ブランがぱぁっと笑顔になった。
「でしたらぁ、朝食はどうですかぁ?」
ブランはメイド服の襟をずらして、首元を露出させた。
「!? 却下! 普通の朝食を持ってきて! 広間で会議しながら食べるから!」
「……はぁーい」
ブランは残念そうにパタパタと厨房へと走り去って行った。
ふぅ、危なかった。
広間に行くと、すでにノアールとグレイ、そしてジェイドがいた。
何やら騒がしい。
みんなは私を見つけると、それぞれ立ち上がってお辞儀した。
「やぁ諸君……おはよう。何してたの?」
「姫さ〜ん、招待状届いてまっせ〜」
ジェイドが封の開いた招待状を見せてきた。
おい、お前達。
主人である私を差し置いて、招待状談義してたのか?
仲良く勝手に内容を見て話し合ってたわけ?
「検閲か? それで中身は何なの?」
ニヤニヤしているジェイドから招待状を受け取る。
「他にも殿下と同じようにこの世界に飛ばされた者達がいるようですよ」
ノアールに言われて招待状を見ると、たしかにそう書かれている。
しかも、転生者会議を開催するとも書いてある。
「他にもいたのかぁ!! 終わったよ!」
眩暈がした。
椅子に座り込んで、両手を顔に当てて目を閉じる。
この性癖王国が他の転生者にバレたら、もう社会的に終わりだよ……。
泣きそう。
「殿下。まだ始まってもおりませんよ」
「始まる前から終わってるんだよ!」
従者を一人だけ連れて来て、と書かれている。
ほぼ確の尊厳死が待っている。
誰を連れて行ってもおしまいだぁ……。
絶対に他国に性癖王国だとバレるわけにはいかない。
でも行かないわけにはいかない。
ブランがワゴンで朝食を運んできた。
きょとんとした顔が可愛い。
「……で、誰を連れて行こうか?」
覚悟を決めた私の声に、全員が同時にこちらを見た。




